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「ユキ、この村はもう何十年と外部との交流がない。誰かが村に来る心配はしなくても大丈夫じゃろう」


村長は穏やかに、笑顔で言う。


その笑顔に、不安そうにしていたユキの表情が少し和む。


ホッとして、
何だかぽかぽかしてくるんだぁ。



「それでも心配なら、誰かと話す時になったらフードを外すのはどうかのぉ?それまではいつも通りでいればいい。みんながユキの笑った顔が見たいんじゃよ」


『はじまりの日』が来て、一番新しい神子が選ばれてから二年。


神子が選ばれるのは、数十年に一度だ。そうすぐに『終わりの日』は来ないだろう。


僕のために皆心配していろいろ考えてくれる。


その皆が僕なんかの顔を見ることで喜んでくれるなら、僕はその気持ちに答えたい。


こくり


ユキは頷くと、目を細めて、小さな笑みを作った。


僕、ちゃんと笑えてるかな?


誰かをぽかぽかにできる笑い方、いつかは僕にもできるかな。


外に出れるようになって、知識でしかなかった外のものに触れる毎日がとても新鮮で楽しい。


自給自足の生活も、自然の尊さ、大切さがわかって、生きていることを実感できる。


村の人たちも、いろんな事を教えてくれる。


年の近い人はいないけど、年配者たちの穏和で温かな雰囲気のお陰で、早くに村に馴染めたのだと思うのだ。



ぐぅ〜


「っ!!」


ユキはバッとお腹を押さえる。


やだ、恥ずかしぃ……


見る見るうちにユキの顔は真っ赤になった。


「あはは、すまんのぅ。長い時間引き止めてしまったようだ」

「違うの…………ごめんな、さい」

「謝ることはない。私も朝飯にするから、ユキもたくさん食べるんじゃよ?」


こくり


ユキが頷くと、村長は来た道をゆっくりと帰っていく。が、途中で振り返り、


「明日は一緒にご飯にしよう。日が昇ったら、私の家においで」


と、明日の朝食のお誘いだ。


村長の奥さんは、とっても料理が上手。


明日の朝が今から楽しみだ。


今日は天気がいいから、洗濯物が良く乾きそう。頑張ってお布団も干しちゃおう。


卵も貰ったから、焼き菓子を作って明日、村長の家に差し入れしよう。


今日の予定がどんどん決まって、気分は上がり、無意識にユキは柔らかに微笑んだ。


それを見た者がいたならば、きっと見惚れてしまうであろう、そんな笑みだった。


「明日も、晴れるといいなぁ」







しかし、翌日から日は




ーー昇ることはなかった。




二年という短い周期。


誰もが予想だにしなかっただろう。







『終わりの日』が再び、はじまった。



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