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短編
はじめまして恋心
毎年流れる紅白のカウントダウンで、あと五秒で年が明けることに気付いた。
今年のうちにやり残したことはたくさんある。例えば、行きたいと思っていた海に行けなかったとか、大学の飲み会にほとんど参加できなかったとか。
後三秒で年が明ける。今から海に行くのもできないし、飲み会にだって来年も行けるか分からない。
このまま一人で蕎麦を食べながら次の年を迎えるのかと思うと、急にすごく悲しくなった。


「3、2、1、」


テレビでは今年を祝う歓声が流れている。
寂しさと悲しさに押されテレビを消そうかと思ったとき、来客を知らせるチャイムが歓声をかき消すように響いた。


「来ちゃった」


誰でもいいからこの時間の虚しさを共有してほしいと開いた扉の前には、数日前俺に告白というものをしてきた男が立っていた。
予想外の来客に動きが止まった隙に、こいつは靴を脱ぎ俺の脇をすり抜けリビングに上着を脱ぎ捨てた。


「紅白見逃したー!今回誰出てた?」

「……は、あ?なに、お前どこにいたの」


やっと意識が戻った俺が言った言葉は届いている筈なのに、当の本人は素知らぬ顔をしてテレビのチャンネルを変えている。
会話が途切れていたたまれなくなり、脱ぎ捨てられた上着を片付けようと手を伸ばした。
それは少し前の家の熱とか、電車に乗ってた暖かさとか、そんなものを一切感じさせないほど冷たくて、こいつが家から真っ直ぐ俺のところに来たわけじゃないことを語っていた。


「…ほんとどこにいたの」

「んー、駅前ぶらぶらしてた」


それで近くにある俺の家に来たというなら、今すぐ追い出してやろうと思っていた。
でも何故か顔は下を向いていて、続きを話したがっていることは予想がつく。
6年間友達だったから、その内容も、なんとなく分かってしまう。
こいつも俺と同じなのだ。一人で新年を迎える寂しさに飲み込まれた二人が集まっただけだ。
それきり何も言わなくなってしまった客人に、冷蔵庫から手近な酒を取り出して渡してみる。
驚いたようにコンビニで買ってきた缶ビールをまじまじと見て、その缶ではなく俺の手を掴んでまた下を向いた。


「……どうした」

「…ほんとはね、駅前カップルばっかで、なんか寂しくて、会いたくなったから」


ほぼ予想通りの理由に、驚くとかいう反応ができない。ただ予想通りじゃなかったのが、最後に掻き消えそうな声で呟いた会いたくなったという言葉だけだ。
そんな一言だけで、俺の心臓がうるさくなるなんて考えてなかった。
一人の寂しさを実感した俺にその言葉は響きすぎる。酒も飲んでいないのに顔が赤くなっていくのを自覚して、また身体が熱くなっていく。これは違うんだと言ってももう届かないだろう。
近付いてくる顔はなにも聞いてはくれないのだ。



次*

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