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短編
風紀委員長と煙草
すれ違ったときに空気と共に香ったのは香水と、微かな煙草の匂いだった。
風紀委員長として見逃すわけにはいけないと振り向くと生徒会長と、その友達として有名な不良がいた。
何故いつも一緒にいるのかは分からないが、生徒会長のファンたちからは付き合っているのではないかという噂が寄せられている。
本人たちに聞けばいいのにと思いつつ、自分も知らないので何も言うことができないのが噂が更に広がっている原因だろう。

「おい」

いつまでもこのままだと生徒会の運営に関わる。
風紀委員にも広がりつつある噂の真意もついでに聞こうと呼び止めた。

振り向いたのは不良の方で、それに気付いた生徒会長は仕事があるから聞いといて、と一言かけて行ってしまった。


「…何?」

「煙草の、匂いがする」

「吸ってねーよ」


だろうな、と声には出さずに肯定する。
いくら生徒会長と仲が良くても悪いやつだと親衛隊の人たちが思ってしまえば、即刻排除される。
水面下で動いてきた親衛隊は水面下で操作するのがうまいのだ。
気付かないうちに糸など切ってしまう。

もう長い間生徒会長と一緒にいるのにそれをされないこいつは悪いやつではない。
生徒会長に惚れたのだから、親衛隊の人を見る目は確かだろうという俺の勝手な考えだが、間違ってはいないと思う。


「あいつか、」

「知らねーよ。本人に聞けば」


流石に人のいるところで名前を出すのはやめた。
立場を悪くしたいわけではないし責めるつもりすらない。
ただあいつが吸っているのは俺と同じ銘柄の煙草だ。分からないはずがなかった。
気付いてしまったものは認めさせるしかないのだ。


「どこにいるかも知らないのか」

「それは、まあ…分かるけど」


言いたくない、と続きそうな気がして、言われる前にどこだと問いかけた。
返ってきたのは誰もいない生徒会室ではなく、不良の溜まり場に最適の旧校舎だった。
普段は鍵がかかっていて入ることすら叶わないそこは昼間でも暗く、生徒も先生もこない。
そこに生徒会長がいると知れ渡れば問題になることは確定だが、親衛隊が見張りをしているらしい。


「だから、簡単には入れねーよ」

「…お前、俺の役職分かってないな」


生徒会長と同率の地位にある風紀委員長は、親衛隊と対立するどころか情報を共有している仲である。
生徒会長を溺愛している親衛隊が、大体の生徒を従わせられる俺に警護を頼んだのは風紀委員長に任命された直後だ。
生徒会長は風紀委員長が守る存在である、と力説されたのだ。


「親衛隊は生徒会長の命令で入れないと思うけど」

「俺が従うのは生徒会長だけなんだよ」

「うーわ、親衛隊が泣きそうその台詞」


親衛隊のことなんて最初から目に入っていない。
風紀委員長に任命された時からではなく、生徒会長として壇上に立ったあいつを見てからだ。


「親衛隊がかわいそうだな」

「ははっ、他人事みてえ」


自分達が生徒会長を守るためにと思って風紀委員長を説得したのに、その相手に奪われるのだ。
恨まれても仕方ないが、そんなのは生徒会長を手に入れれば解決する。

生徒会長は仕事になど行ってないだろう。
おそらく旧校舎で、親衛隊という脆い壁に包まれながら眠っている。
そしてその壁を壊す用意はすでに整っているのだ。





(たぶん続きます)


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