[携帯モード] [URL送信]

短編
大人で子供
この人のことを世間は大人と呼ぶ。
17歳と18歳では違いはあまりないように思えるが、高校生と大学生という肩書きの違いだけで変わってしまうものなのだ。


ホームルームが終わり、学校から出ようとしたところで携帯が震えた。
ディスプレイを見るとあの人からで、仕事のことかとタイトルを見ると違った。
元々は仕事用に交換したメールアドレスも電話番号も、今は違うことに使われている。

今回もバイトが休みになったから会えないか、というものだった。
特に何も予定はないので分かった、とだけ送ると、すぐにきらきらとした顔文字が返ってきた。

この顔文字も最初はイメージと違っていて驚いた。
バイトの時間の落ち着いた雰囲気からは全く想像もつかなくて、俺が見ていたものは作り物だったことに気付いた。


「…なにしてんの」

「あ、おかえりー」


メールで指定された待ち合わせ場所に着くと、あの人はベンチに寝転がって携帯をいじっていた。
俺に気付くと起き上がり、腕を抱きつくときの形にする。
人通りの多いところではさすがに嫌なので立たせるふりをして誤魔化す。
不満そうな顔をしていたがゆっくりと立ち上がり、家のある方向へと足を向けた。


駅から15分ほど歩いた場所に、すでに見慣れたマンションが見える。
親が所有していたというそのマンションの一室は、今はこの人のものになっている。
高校を卒業した記念に貰ったのだとどうでもよさそうな顔で話していたのを思い出した。

綺麗で掃除の行き届いたこの部屋は、大人の香りがした。


「あー疲れた」

「バイト?」

「んーん、講義」


ばふっとベッドに身体を沈みこませたこの人が疲れる理由はバイトか、講義か、親かの三つしかない。

遊びの後、疲れたとは絶対に言わない。
体力が尽きるまで遊ぶ子供のように、疲れを知らないのだ。


「ねーここ来て、ここ」


ベッドの手前にスペースを空け、さっき駅前でしたように腕を広げる。
先程と違うのは俺がそれを受け入れるということだけだ。

抱きつかれる形になり、俺の胸に頭の重さがかかった。
心音を聞くように耳を当てている頭を撫でているとこの人が幼い子供のようで、はやく大人にならなくては、という気持ちが沸き上がる。

世間が言う大人の大学生には、春になったらなれる。
だがそのままもつれ込んだ行為で攻め側になろうとも、一歳の差は埋まらないのだ。


次*前#

18/21ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!