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短編
サブリミナル
この狭い空の下で、すれ違える確率はどのくらいだろう。
東京の人口は、俺が住んでいた駅ビルがある程度の地方の何倍なんだろう。
そんなことを考えながら、また君とあの日のようにすれ違えることを願っている。


希望していた大学に落ちた。
就職を選ばなかったのはもう少し学生でいたかったからだ。
年は変わらないのに社会人というだけで一気に大人になった気がした。

第二希望の大学で出会ったのは、サークルに誘ってくる先輩と退屈な日常だった。
適当に人に合わせるのは得意だし、特に問題もないまま二年になった。


今日最後の授業が終わり、家に帰ろうとしていたとき、階段を降りてくる集団が目につく。
正確に言えば、集団の中にいる一人の男に。
その男は黒髪眼鏡で真面目そうだったが、細く繊細に見えた。
男にしては綺麗すぎる顔と、すれ違ったときに香る甘く女のような匂いに驚く。

映画の中で行われた実験のように、一瞬だけ映る存在が気になるようになったのはいつからだろう。
だがそれも大学を卒業し、就職の為に上京した今では叶うことはない。
慣れた手つきで改札を通り、地図などなくてもどこになにがあるか知ってしまった俺はもう昔の住人ではないのだ。




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あきゅろす。
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