短編
路地裏の紅葉*
夏が終わり、夜が寒くなり始めた。
紅葉や落ち葉が目につき、その鮮やかな色に
俺は毎年怖くなる。
「んぁ、あっ!」
びくびくと身体を震わせて、君は俺を見ていた。
行為の熱に浮かされていないし怯えてもいない。
その瞳が、鮮やかで怖い。
上司から言われた出張を終え、せっかくだから散策をしようと街へ出た。
そこはネオンの煌めきが感じられない静かな所で
近くにいなければ聞こえない声も聞こえてしまう。
まだ幼い少年のような、大人びた女性のようにも聞こえる怯えた声だった。
この二つはとてもよく似ていると思う。
俺はどっちを期待していたのか分からないが、
その少年を泊まっている旅館の部屋に連れ込んで行為に及んでいるのだから、どっちでもよかったのかもしれない。
きっかけは、ない。
ただ、帰らないのか、と言ったら
帰りたくない、と返ってきたから。
特別な感情も、後悔も不思議なほどなかった。
「……嫌じゃないの」
「…なにが?」
ふと聞いた質問に当たり前のように返ってきた三文字に困惑する。
「なにが…って、こういうこと」
「……あー…別に、慣れてるし」
その言葉でずっと引っ掛かっていたことが分かった。
挿入した時の、女より狭いのに熱く絡みついてきた理由と、いつの間にか首に回されていた腕。
「…大丈夫だよ、お金取ってる訳じゃないから」
「恋人か?」
一瞬躊躇ったあと、僅かに頷いた。
友達でも恋人でもない人か、と簡単に予想がつく。
たぶん君は俺と行為に及んだことを言わないだろう。
これは二人だけの秘密になる。
そして君は、また他の男に抱かれる。
こんなことはやめろ、なんて言えなかった。
行為の最中に見た鮮やかな瞳は、嫌だと思っていなかったから。
だから俺は嫌いだ。
落ちるのが分かっていて鮮やかな色をつける葉も
落とされるのが分かっている君の瞳も。
大人びた女性に似た少年は、自ら望んで落ちていった。
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