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入学式
「やめてください…っ!」


眠たくなりそうな陽光と、満開に咲いた桜の花。
それに全然似合わない、恐怖に震える声が辺りに響いた。

その声は高校で聞こえてくるには高く、まだ幼さを残したままだ。
そしてその声の主、更守 尚も一見高校生に見えない外見のため、こうやって囲まれ迫られることがしばしばあった。

迫られるといっても、金を要求される訳ではない。


「そんな可愛く言われたら、逆にそそられるんだよな…ねえ、尚くん?」

「っ!」


尚は昔から、何故か男に性的な理由で迫られる。

大抵直ぐに誰かに見つかって何もされずに済んでいたのだが、今回はそうはいかないらしい。
辺りを見回してみても人一人いないという絶望的な状況だった。

入学式も終わり、これから帰ろうとしていただけなのにこうなるとは思っていなかった。
尚がこの学校に来たのは今日が初めてのはずだ。
それなのに先輩たちは何処からか情報を得ていた。


「さて、まずはどうしようか……」


名前も知らない男の、明らかに情欲を含んだ吐息が首筋に落ちる。
それと同時に襲ってくる強い恐怖と不快感に震え目を閉じた途端、頭上で鈍い音が聞こえ、覆い被さっていた男が地面に倒れていくのが見えた。


「あ……盆ちゃん…?」

「…大丈夫か?」


顔を上げた先に見えたのは、生徒会のバッジとよく知った幼馴染み、盆之浦 義幸の心配そうな顔だった。


「何かされてないか?」

「平気……」


昔からのことなので慣れているといえば慣れているが、それでも怖いものは怖い。
聞き慣れた義幸の声に安堵の息を吐くと、大きい手が尚の頭を撫でた。


「盆ちゃん…?」

「怖かっただろう?直ぐに来てやれなくて、悪かった……」


尚は首を横に振り、義幸の胸に身体を預ける。
背中に回された抱き締める腕が微かに震えている気がした。
息も乱れていて、走って探してくれたのだと分かる。


「…尚?」

「ん……?」


ゆっくりと顔をあげると、義幸と目が合った。
その瞬間、どくんと心臓が跳ねる。


「……そろそろ行くか?」

「あ…うん…」


体を離し、義幸の後を追おうとした。
しかし、ふと違和感に気付く。
右手がいつの間にか握られていた。
幼いときはいつもしていたことだが、最近はしていないからか緊張する。
火照る顔を隠すように後ろを歩き、義幸の背中を眺めていた。



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