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初恋迷路
4
その日の授業には好きな化学があったのに、少しも集中することができなかった。そんな様子を見せたらきっと終に気付かれるから、ずっと眠ったふりをしていた。あとで聞かれても具合が悪かったと誤魔化せるように。

 
放課後の夕日で染まり出した教室で、朝のことを思い出す。どうして飯田先輩はまた関係を戻すようなことを言ったのか。それも俺ではなく終との。
終がまた戻っても水泳をやるとは限らないし、前に戻れるわけがないのに。
俺が全て壊してしまったから。


「奏十、起きて」

「……は、なんでいる、の」


顔をあげた先にはさっき女の子と帰ったはずの終がいた。
今日は先帰ってってメールしたはず。委員会の仕事あるって嘘までついたのにどうしてそれを見破るんだろう。


「今日ずっと寝てただろ?化学まで寝るなんて具合悪いのか?」


いつもより優しく、労わるように撫でる手つきに喉の奥が苦しくなる。
声が出てこなくて、かわりに終の身体に抱きついた。誰もいないから少しだけ許して。学校では自分から突き放しているくせに、自分から抱きつくなんて都合がよすぎて笑ってしまう。
終はそんな俺に驚くことなく、家でするみたいに抱え込んでくる。なにも言ってないのにしてほしいことが分かるのは終だけ。こんな終にいつまで隠し通せるだろう。


「……終、ごめん」


言えないことと、自分勝手なことを込めて、俯いたまま言った。目を見て言えないのは話せないから。こうするとなにも聞いてこないことを知っててやってることも、許してほしい。


「なーにが?学校でいつもこんなだったらいいんだけど?」

「……むり、あの軍団に入れる気がしない」


笑いながら話をそらす終の肩に額を押し付けて、心の中でもう一度ごめんと謝った。
飯田先輩の番号を消さなかったのは逆らうことができなかったから。終が水泳をやめたのは俺のせいで、それを振りかざされると逆らう術がなくなってしまう。
これは俺が招いた当然の結果だ。だから、今度は俺が終を守る。


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