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初恋迷路
1
とっくに帰る用意は整っているのにそれを机の上に乗せたまま、窓ごしに暗くなり始めた空を見つめる。
最近日が短くなったな、とどうでもいいことを思い浮かべ始めたとき、教室の後ろの扉が開く音がした。
同時に残っていた女たちが一斉にそこへ駆け寄っていく。
その中心に一人の男がいるのを横目で確認して、すぐに鞄を手に取った。


「白石、帰んの?」


前の扉から出ようとしていた俺を見つけたのか、女たちの中から聞きなれた声がする。
それに返答するのも面倒で、軽く頷いてから扉を開けて外へ出た。


「…ねえ、白石くんってほんとに終のこと嫌いだね」

「あんなにあからさまにしなくてもいいじゃんねー」


俺に聞かせるようにわざとらしい大声で高い声が響く。
不快でしかないそれを振り払うように早歩きのまま駅へ向かった。
イヤホンを付けて外部の音を遮断しながら、後ろを歩いているであろう終に一人で来いとだけ書いてそのままメールを送信する。
どこにいるかなんて分かりきっていることだから、わざわざ書く必要なんてない。
それでなくてもどうせ夜になれば家に行くんだろうけど。


「お待たせ」


突然右側のイヤホンを取られ、今まで聞こえなかった音が一瞬で入り込んでくる。
そんな中でも一際大きい、後ろで言われた声に遅い、とだけ返した。


「ごめんって。遊びに行こうって誘われてさ」

「……行くのか?」

「行くわけないだろ、奏十がいるし」


俺の名前を呼んだ終は、もう大丈夫と言うように隣を歩き始めた。
それは俺たちの関係が変わる合図で、今までの距離はもうなくなる。
俺は終の隣を当たり前に歩く、幼馴染みになる。






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あきゅろす。
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