03
あのあと、部屋へと戻ったアキラは机にたまっている書類から目を離し、窓から見える薔薇園へと視線を映した。
赤と白のコントラストが綺麗な薔薇たち。
その薔薇園は、妹のイーヴリンが育てているものである。
どんなに忙しいときでも、イーヴリンは手入れを欠かさない。
雨が降ろうと、傘を差しながら毎日欠かさず薔薇の様子を見に行っている。
「旅行の間、この薔薇園はどうするつもりなんだ。」
ふと、思い至った疑問に薔薇園を見ながらアキラは首をかしげた。
「家で雇っているメイドたちに頼むみたいですよ」
自分以外誰もいないと思っていた空間に響いた声。
その声に、アキラは小さく肩をはねさせた。
しかし、そちらへと視線を移したところで眉間にしわを寄せる。
「セルゲイ。いきなり入ってくるな」
それから、普段は敬語を使わなくていい。と続けると、セルゲイは口端を吊り上げて笑った。
「ちゃんとノックはしたんだぜ。気づかなかったのはそっちだろ。」
いいながら、セルゲイは持ってきた書類を机の上に並べていく。
「これは坊主がいなかった間に届いた貴族共からの書簡だ。」
「・・・こんなに?」
「ああ。っていっても、ほとんどが見合いの申し込みだけどな。」
セルゲイの言葉を聞き、アキラの表情がゆがんでいく。
「この間、断りをいれたやつで最後だと思ってたんだけど」
はぁ、とため息をついてアキラは机へと倒れこんだ。
アキラがリンチェ家に養子に入ってすでに5年。
毎度毎度、飽きることなく送られてくる見合いの山に、アキラはいい加減うんざりしていた。
「・・・いっそのこと、誰かと縁談を組んでしまおうかな」
脳裏に浮かんだのは、ついこの間あったばかりの踊り子の女の子。
しかし、横から入った執事のお咎めにすぐさま考えを改める。
「わかっているよ、セルゲイ。・・・自分の立場くらい。」
そう言ってアキラは再びため息をついた。
「それより、旅行のことなんだけどさ」
いい加減、疲れる話題はやめようとアキラが話題を変える。
「俺とリン。それからセルゲイの三人がこの屋敷を留守にする間、あいつにこの家のこと頼んでいいか?」
「あいつとは、イヴァンのことか?」
「そう。まぁ、昔のことは水に流していいってリンが言っていたことだし」
派手な赤毛の親友を思い出しながら、アキラが言う。
その提案でいいのか、セルゲイは軽く頷き笑みを浮かべた。
「ククッ。うちの屋敷に忍び込もうとして怪我したときのことだろ?
あれは、あんな罠をしかけた俺らも悪いからな。別にかまわねぇよ」
当時のことを思い出したのか笑いだすセルゲイ。
そんな彼の姿を見ながら、アキラは再び大きなため息をつくのだった。
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