朝練06
土煙を上げながら現れたそれは、勢いを殺さないままこちらへと向かってきた。
否、正確にはセナに向かって。
よく見ると、よだれをたらしとるわ。
ここまできて、ようやく先ほど部長が開けた袋の中身の使用用途がわかった気がする。
餌の匂いにつられて、セナを追いかけるケルベロスと
ケルベロスから逃げるセナ。
「Ya-Ha-!!
見やがれ、やつの本領を!!」
そんな一人と一匹の追いかけっこをぽかんと眺めとるうちの耳に、喜色ばんだ部長の声が届いた。
左手に持ったストップウォッチを見ながら、そう叫ぶ部長の表情が生き生きとしている。
「高校記録どころじゃねえ!
プロのトップスピードだ!こんなもん誰にも止められねえ!」
「黄金の足だ!!」
そんなに、凄いタイムやったんやろうか。
と思いながら、部長の手の中をのぞきこむ。
「4秒2・・・。」
そこに記されている数字に驚愕した。
確か、プロでも4秒2なんて出すやつおらんかったよな。
知らず知らずのうちに、自然と口角があがる。
昨日調べたセナの過去。
今までずっとパシリだった気の弱い少年が、もしかすれば大スターになるかもしれない。
そんな、漫画のような出来事に立ち会えたことに、うちは内心とても興奮していた。
「はやーーーー!!」
抑えなければにやけてしまいそうな自分を必死で押し殺しとるうちの耳に、突如叫び声が聞こえてきて、うちはビクリと肩を揺らした。
「ど、どったの?」
「あ、朔夜。春大会明日からなんだって。」
「え、セナ知らへんかったん?」
驚愕に目を丸くするセナと栗田先輩に、逆にこっちが驚く。
昨日入ったばっかのセナはともかく、栗田先輩は知っとらなあかんやろ。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!