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2-25
「だめだ。このあたりにもエクスフィアはない……」
帰り道。
ガラの悪い男が鉱山の中にいた。
その姿に、リーガルは怒りを露わにした声をあげる。
「……ヴァーリ!」
「リーガル!」
しかし、その顔が下品な笑みに変わる。
「そうか。外のガードシステムを破壊したのはおまえだったのか」
「誰だ?あれは……」
見るからに悪そうな奴だ。
「あいつは……エクスフィアブローカーのヴァーリだ。何でこんなところに……」
「きさま、何故ここにいる!教皇は何故おまえを野放しにしているのだ。私との約束がちがうではないか!」
しかしリーガルの言葉をヴァーリは笑い飛ばす。
「ハハハ!教皇さまが人殺しの罪人と本気で約束なさると思ったか?」
ギリ、とリーガルが歯をかみしめる。
「おまえこそ、コレットを連れてくるという約束を忘れて仲間に成り下がってるじゃねーか!」
「だまれ!教皇が約束をはたさぬと言うのなら、私みずから、きさまを討つ!」
しかしリーガルの強さは、彼も知っているようだ。
「冗談じゃねぇ!ズラかるぞ!」
逃げ足だけは早い。
リーガルが飛びかかろうとする姿に逃げていく。
追いかけることもできるが、優先すべきことはちゃんとリーガルの頭に入っているようだ。
追いかけようとはしない。
「リーガルさん。今の人は何ですか?」
「それに、人殺しの罪人って言ってたけど……でもリセリアは人殺しじゃないって前に言ってたよね」
「私は人をあやめた罪で服役中の囚人だ。軽蔑してくれてかまわん」
言い訳は、ない。
「何があったんだ?」
「言えば言い訳になる。私は罪を背負ったのだ。それでいい」
それにロイドは、絞り出すよう言葉を出す。
「……俺さ、俺のバカな行動で沢山の人を……殺しちまった」
それはイセリアのことだろう。
「……あんたが何をしたのか知らないし、罪は消えないけど、苦しいときに、苦しいって言うぐらいはいいと思うよ」
それは、リセリアにはできなかった。
「あのね、うまく言えないけど人の心の中に神さまはいるんだと思う」
自分の心の中にいる神さまは、所詮は自分だった。
「だからリーガルさんが背負っている罪は、神さまも一緒に背負ってくれてると思います。えっと、それだけです」
「……いずれ、話す機会が与えられればその時には……すまない……」
ただ、それだけを言った。
「……神さまなんて、結局はいないし、自分の罪は自分にしか背負えない……一生、消えないんだよ……」
誰にも聞こえない声でリセリアは呟いた。
救われていた。
けれども思い知った。
結局罪は、どこまで行っても背負っていくものなのだと。
オゼットには教皇騎士団がいた。
住民が通報したのだろうか……?
「教皇騎士団の皆さま!あいつらです!手配書の連中です!」
こちらを見つけるや否や、これだ。
別に構わないけれども。
リセリアは剣を抜いた。
「うへ〜、また教皇騎士団かよ!」
うんざりだとゼロスが言う。
「何だってこいつら、あたしたちの行く先に先回りしてるんだい!」
「これはこれはゼロスさま。ご無事でしたか」
にやにやと下品な笑みを浮かべて騎士は言う。
戻ってくるとわかっていたようで、兵士に囲まれる。
「くそ!」
「皆の者!コレットは生け捕りにせよ!」
「……もう、めんどくさいなぁ……」
一人色違いの鎧。
多分隊長と思われる人物の鎧兜を剣の柄で殴った。
金属でできたそれは、多分いいように衝撃が走っただろう。
兜もついでにへこんでいる。
それを見て唖然とする兵士。
その隙にリーガルも兵士を蹴り飛ばす。
「また私のせいだね、ごめんねみんな」
兵士を2人で片づけたところでコレットが言った。
しかしゼロスは否定する。
「そんなことないでしょーよ。俺さまだって命をねらわれてる。先生とジーニアスはハーフエルフだから追われている」
それにコレットが乗っかっているだけの話だ。
「しいなは裏切者のミズホの民。リーガルは裏切者あつかいだ」
「……うん。ありがとう」
「おまえ何でも自分のせいだと思いすぎだぞ」
「ごめんね、ロイド」
「別にあやまらなくても……」
コレットが、膝を着いた。
「痛いっ……!くぅ……!うう!」
「コレット!?先生!コレットが!」
急にコレットが言う。
ここまでなる前兆は、なかったのだろうか。
リフィルがコレットの額に手を置いた。
「寝るがあるわ。でもこの痛がりようは……?」
原因は、リフィルにはわからない。
「……どいて……私に……まかせて下さい……」
確か、このプレセアは……。
「プレセア?え、ええ……」
今まで無関心だった彼女が、来た。
リフィルは困惑しながらも近づけさせるが、いきなり斧を振り回す。
皆散るが、好きにはさせない。
コレットの前にリセリアは立ち、プレセアの斧を受けた。
「お……重……」
エクスフィアをリセリアも使っている。
それでも、受けるので精一杯だ。
「……邪魔……です……」
抵抗する力など大したことがない。
そう言うかのように剣で受けたままプレセアの斧に吹き飛ばされた。
「リセリア!」
斬られたわけではないが、木にぶつかって痛い。
そして邪魔者はいなくなったと、コレットの腹に斧の柄を一発。
後ろには、
「よくやった、プレセア」
ここオゼットで会ったハーフエルフだ。
空からは飛龍が。
「くそっ!コリン!」
コリンがプレセアが着いて行こうとするのを止め、その体を転ばす。
しかし最初からプレセアなどどうでもよかったのか、気を失っているコレットを飛龍が掴んだ。
「わしの名はロディル!ディザイアン五聖刃随一の知恵者!再生の神子はいただいていきますぞ。ふぉっふぉっふぉっ!」
「ディザイアン!?どうしてテセアラにディザイアンが!」
聞こえているのか聞こえていないのか、返事はなかった。
そのままコレットを連れてどこかへ飛び去っていった。
追いかける術は、ない。
「コレットーーー!!」
叫び虚しく、コレットが戻ることはない。
「……ロイド、プレセアに……」
痛みで僅かに顔を歪めながらリセリアは言う。
「ロイド。プレセアを頼めるか?」
こんな時だが、本来の目的は彼女だ。
「…………。……ああ」
応急的な要の紋を、プレセアのエクスフィアに取り付けた。
「まじないは彫ってある。これで正気になるはずなんだけど」
「……?」
プレセアの瞳に色が入った。
「プレセア?大丈夫?」
「……私?何をしているの?」
どれだけの時間が、流れていったのだろうか。
「パパは!?」
「……お父さんだって言ってもいいなら、家の中だよ……」
いたた、とリセリアはよろりと立ち上がる。
「一応、止めておく」
「家の……」
プレセアは恐る恐る家の中へ足を踏み入れていく。
そして父親が寝ているはずのベッド。
もう、家の中に漂う腐敗臭にももちろん気が付いているだろう。
それを見て、
「私……私、何してたの。いやぁーーーーーー!!」
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