S 1-15 「ロ、ロイド……」 ジーニアスが思い出したように言う。 「ああ、この光景みたことあるぜ。イセリアだけじゃなかったんだな。人間牧場ってのは」 「もうマーブルさんのような犠牲者を出したくないよ」 「ああ、もう犠牲者はいらない。行くぜ、ジーニアス!」 「……」 全てがその手で救えると、そう思っているのだろうか。 両の手で救えるものなど、ほんのわずかでしかない。 ほとんどが手をすり抜けていき、つかめず、救えず。 この牧場でショコラを助けて、そしてパルマコスタ軍が来ると本当に思っているのだろう。 牧場へ。 しかしながらそれを、草陰に隠れるようにいたニールが止める。 「お待ちください、神子さま」 誰かがいないか、見られていないか警戒しながら小声で言った。 「ニール!ショコラがさらわれたんだって?」 「……はい。そのことでお話したいことがあります。とりあえずこちらへ……」 「……あまりいい話じゃなさそうね」 声を顰め、隠れていた陰へ。 道からは見えず、静まり返っている。 「みなさんにはこのままパルマコスタ地方を去っていただきたいのです」 「でもそうしたらショコラさんはどうするんですか?」 「そうだよ、パルマコスタ軍と連携を取ってショコラさんを助け出すんでしょ?」 「いえ、それが……」 あまり言いたくない話だが、事実である以上は隠していても仕方がない。 それに言わなければきっと、人がいい3人はあの兵士の言葉を信じているままだろう。 「やはり……わなか?」 クラトスの指摘にニースがはっとする。 「……いやな方の想像が当たっていたようね」 「……できたら、思い違いだったらよかったのに」 「クラトス!リセリア!それに先生も!どういうことなんだよ?」 「ディザイアンが組織だった軍隊を持つ街をおとなしく放置していることが私には疑問だった」 「ええ。その通りだわ。反乱の芽をつぶさないのはそれが有害ではないから……力がないから放置されているのかあるいは有益存在なのか……」 「それにタイミングがよすぎる。さっきも軍のほとんどが演習に行ってたと言い、ショコラが誘拐されてそのために動くことと言い……」 三人の指摘にニールは何も言うことはない。 「……おっしゃるとおりです。ドアさまはディザイアンと通じ、神子さまをわなにはめようとしています」 「どうしてそんなことを」 「昔はこんな方ではなかった……。本当に街のみんなのことを考えておられたのです」 ドアの、まだ正義感が強かったころの話だろう。 そしてその強すぎる正義感が、ドアを変えた。 「五年前、クララさまを失ったときもディザイアンと対決することを誓っておられたのに」 「それなのにどうして……」 しかしそれはニールにもわからないようだ。 ただ、首を横に振った。 「わかりません。とにかくこのまま牧場に突入しては神子さまの身が危険です。ショコラのことは私にまかせて皆さまはどうか先にお進み下さい」 ここでこのニールの申し出を受けてくれるのが一番いい。 けれどもそんなことには絶対にならないだろう。 「一刻も早く世界を再生するために」 世界再生が成されれば世界は救われる。 しかし神子は……。 けれども目的は世界再生。 ここで足止めをされている場合ではない。 それを、理解して切り捨てられるのならば……。 「……ふむ。確かに世界再生のためにはここを捨て置くべきだろうな」 クラトスのその言葉もまた、真理だ。 「だめです!このまま見過ごすなんてできない!」 しかしコレットの意見は、これだ。 「そうだよ。もしこのままにしておいたらパルマコスタもイセリアみたいに滅ぼされちゃうかもしれない。そうでしょ、ロイド!」 それも、また真理。 「そう。それはその通りよ。でもあえて私はクラトスの意見に賛成したいわね。街が滅ぶのがイヤなら、今後不用意にディザイアンと関わらないことだわ」 「そんなのダメだよ。世界を再生することと目の前の困っている人を助けることはそんなに相反することなの?私はそうは思わない」 「でも神子はコレットだけでしょ?目の前の人を助けて進むことで世界再生は遅くなる。ううん、命を落として失敗する可能性もある。別の場所で誰かが苦しんで、殺されているかもしれないんだよ。どちらの犠牲も減らすには、旅を急いだほうがいいと思う」 「リセリアまで!」 「けど、コレットがそう言うなら私たちにそれを止める権利はなくてよ」 リフィルのそれに、リセリアも軽いため息を吐いた。 ただ、それを聞いて欲しかっただけだ。 「この度の決定権を持つのは神子であるコレットなのですから。ロイドも、それでよろしい?」 「俺ははなからそのつもりさ。言ったろ。牧場ごとつぶしてやるって」 最初から、こうなることは決まっていた。 「しかし……」 ニールはコレットのこの決定に渋る。 神子を危険に晒すことになるのだ、当たり前だろう。 「いいっていいって。コレットがイヤだって言ってるんだから」 「さてこれから取るべき方法は二つ。このまま正直に牧場に突入してショコラと牧場の人々を救い出すこと。こうなった以上牧場を放置しておくことは第二のイセリアの悲劇を生み出すでしょうから」 まず、罠にはまってやるパターンだ。 「もう一つはドアの真意を確かめること。彼がわなを仕掛けたのなら牧場の配置もきっとよく分かっているでしょう。……少しだけおしゃべり好きにしてあげましょう」 そんなリフィルのドS発言にニールが焦る。 「ドアさまに、何をするのです?」 「……聞かないほうがいいよ。姉さんのせっかんはすごいから」 そう場違いなことを言い、ジーニアスははたかれていた。 「順当に考えればまずドアを押さえるのが正解だろう」 「ロイドはどう思う?」 「パルマコスタへもどろう」 正面突破、と言うかと思ったが予想以上に冷静なようだ。 "前の旅"では、ロイドは正面突破を選んでいた。 僅かだが、未来が異なった。 「まずはドアの口から話を聞こうぜ」 「そうだね」 冷静な判断だが、コレットは心配もあるようだ。 「でもなるべく早くショコラさんを助けてあげようね。きっと一人で心細いはずだから」 「まあ、ロイドもたまには冷静な判断をしてくれるのね」 「そのようだな。では……行くぞ」 「私は……」 「嫌ならむりについてくる必要、ないと思います」 「ああ。あんたはここにいなよ。これからあんたの上官を締め上げるんだ。……見ない方がいい」 だが、不安そうな顔のニールにコレットは優しく言った。 「ここで、牧場の様子を見張っていて下さいね」 「……はい」 一旦、パルマコスタへと戻ることとなった。 [*前へ][次へ#] |