S 0-10 申しわけないと思いつつも、今してあげられることは浮かばなかった。 ただ、少しでも早く楽にしてあげること。 それが今できる、精一杯だ。 軽い振動を響かせ"化け物"が倒れた。 「フォシテルさま!やはりあの小僧エクスフィアを装備しています!それにあの小娘もです!」 「……やはり我々が探していたエンジェルス計画のものかっ!それをよこせ!」 「ん……渡す必要が感じられないです」 それはもう、挑発するようにニヤリと笑って言った。 その反対にロイドは感情をあらわにする。 「いやだ!これはおまえらに殺された母さんの形見だ!」 「何を言うか!おまえの母は……」 最後まで言われる前。 "化け物"が起き上がりフォシテスをを羽交い絞めにする。 『逃げな……さい……ジーニアス、ロイド、お嬢さん……』 電子音のような、くぐもった音のような、はっきりとしない声だ。 「な、何、今の声……。ま……まさかマーブルさん……?」 「……そんなバカな!」 『ゥ……ウゥ……グウゥ……離れて……早く……っ!』 彼女が選択したのは、自爆だったはずだ。 『ジーニアス……新しい孫ができたみたいで嬉しかったわ。さようなら……』 その体が光り出す。 記憶に違いはない。 動かないジーニアスの前にリセリアは立つ。 爆発はこちらにもダメージを与えるが、今まで受けてきた痛みに比べれば大した痛みではない。 爆風から目を守った右手に火傷を負ったくらいだ。 皮膚が焼け、血が滲む。 そして、ジーニアスの足元にエクスフィアが転がってきた。 彼女の肉体は……跡形もない。 「……くっ」 直撃をくらってさすがに無事ではない様子。 ここで、始末する。 そう彼に剣を向けようとした。 が、それを見ていたようで、 「……まずい。フォシテスさまをお助けしろ」 下っ端たちが囲むようにフォシテスを守る。 「……ロイドよ。その左腕のエクスフィアがある限りおまえは我々にねらわれる……覚えておけ!そこの小娘もだ!」 部下に庇われながら、そう言い残して去った。 「マ、マーブルさん……!マーブルさんっ!!うわぁぁぁぁぁ!」 エクスフィアを握り締め、ジーニアスは慟哭した。 「大変なことをしてくれたな。見ろ!この村の参上を!……おまえのせいだ」 燃え盛る家。 地面に横たわる死体。 「ごめん……なさい」 ロイドからはそんな謝罪の言葉しか出てこない。 「あやまってすむ問題じゃない。奴らはおまえを敵を認定した。お前がいる限りこの村の平和はないのだ……わかるな?」 ああ、こんなに胸糞悪い場所にいたのだ。 人の汚さを……それを知ったのはこの場所だ。 そう、育った場所で見てきた。 「ちょっと待ってよ!それってロイドを追い出すってこと!?」 庇うようにジーニアスがロイドの前に出る。 「そうだ」 「そんな!ロイドは悪くない。ただマーブルさんを助けただけなのに……」 「牧場に関わするべてが禁忌だ。例外はない」 「じゃあ、村を守るためなら人間牧場の人は死んでもいいの!?」 「どうせ牧場の人間なんてあそこで朽ち果てる運命じゃないの」 「そうだ。余計なことをしなければ死ぬのはそいつだけですんだのに」 「……人間なんて、汚い」 ジーニアスが言うその言葉は、まったくもって正解だ。 けれども汚いのは人間だけではない。 エルフもハーフエルフも同じように……汚い。 「もうよせ、ジーニアス。今回のことは確かに俺が悪かったんだ」 ロイドは、誰のせいにもしなかった。 自分が悪いと、自分の罪をかみしめて……。 「……出ていきます」 「村長。こんな子供にそこまで厳しくしなくても……」 「何をいってるんだ。こいつのせいでたくさんの人間が死んだんだぞ!」 「ロイドは悪くない!牧場に誘ったのはボクだ。だからボクが悪いんだ!」 「それでもディザイアンがねらっているのはロイドだ。それにロイドは元々村の人間じゃない。ドワーフに育てられた、よそ者だ」 「だったら、ボクも出ていく。ボクも同罪だ!」 「ジーニアス、おまえ……」 「……ならば、しかたがない。村長権限でここに宣言する。ただいまをもってロイドとジーニアスを追放処分とする」 そして出て行けと村人たちの言葉。 人間牧場に連れて来られた人たちへの心無い言葉。 腐った、世界だ。 「迷惑かけて、すまなかった」 「あ……はは……あははははは!」 笑いがこみあげてきた。 リセリアの高い笑い声が、村人の言葉を切る。 愉快そうにけれども、汚いものを見る目をしているリセリアの異常に、僅かな恐怖を覚えて。 「そう、わかってたはずだったのにね。この村は腐っていて、村長だけじゃなくて村人もそうだってわかってたのにね!あははははは!」 ふらりと村長の前へ。 綺麗な微笑みを向け、そのまま、殴った。 「あー……スッキリしないや……わたしこんな所で育ったなんて……向こうの人たちはあんなにあったかかったのに……」 先の、正しい選択の未来なんて……もう、どうでもよくなってきた。 「かえりたいなぁ……はやく……」 そう、光のない瞳を、村長ら村人へと向けた。 けれども帰れない以上はまずテセアラに行くしかない。 もうここにはいたくない。 ふらふらとリセリアは歩きだした。 何か村人が言っているが、耳には入らなかった。 [*前へ][次へ#] |