S 3-13 マナの守護塔の奥に進めば、祭壇の前にはクラトスがいた。 「待て!」 声は穏やかではない。 待っていた……のは、最後の契約を止めるためだろう。 「クラトス!じゃまをするな!」 「そうはいかん!今、デリス・カーラーンのコアシステムが答えをはじき出した。精霊と契約をすれば大いなる実りのマナは完全に失われてしまう!」 「それこそ我らの願うところだ!」 後ろから魔術。 追って来たのか、ユアンだ。 「わからないのか!おまえの望む結果は得られん!」 「黙れ!この機会を逃すと思うか!」 クラトスと対峙する。 「ロイドよ!こいつの相手は私にまかせろ!おまえたちは一刻も早く光の精霊との契約を済ませるのだ!」 クラトスの動きを止めるユアンを横目に、祭壇へと向かう。 祭壇には光が浮かんでいる。 「これで大いなる実りの守護がとけるんだな」 「しいな。よろしくね」 「わかってるよ」 そして……。 あの時。 この封印を解いた時と同じ、ルナの姿が現れた。 「我が名はしいな。ルナとアスカがミトスとの契約を破棄し、私と新たな契約を交わすことを望んでいる」 「アスカは?」 「来るはずさ。約束したからね」 「そうですか……。それならばいいでしょう」 安心したようでルナはほっと息を吐いた。 「リセリア」 ここまで来たら、もう何も驚かない。 「あなたの答えを聞かせてもらえますか?」 「答え?」 「ええ。あなたはこの世界をどうしたいのか。嘘偽りのない答えを聞きたいのです。魔物の王に愛されたあなたに」 「……」 「魔物の王?」 それには答えずに。 「……」 「どうでしょう?」 「……世界なんて、どうでもいいって思ってる」 「リセリア……」 「コレットやゼロス君……みんなを苦しめたのはこの世界。"彼ら"を苦しめたのもこの世界。だから、こんな世界はなくなればいいんだって」 「……」 「だから。今二つに分かれているこの世界がなくなって新しい世界になれば何か変わるかもしれないんだって」 「!」 「それじゃあ、答えにならない?」 「希望を持ったのですね」 「わからない。この世界では多分、希望は持てないと思う。だって、とても大切な存在を想っているから」 けれどもルナは納得したように何度も頷いた。 そしてアスカが空から現れる。 「迷い、苦しんでいるのはわかっています。けれどもその中でもあなたは、あなたを忘れないでくださいね。さあ誓いを立てなさい。私との契約に何を誓うのです」 「大いなる実りの発芽と、二つの世界の真の再生を誓う」 「いいでしょう。私たちの力を契約者しいなに」 そして、最後の契約が終わった。 「……やったか!」 「しまった!」 起こったのは地震。 そして、それぞれの神殿から光が立ち上る。7 とたんに地面から現れたのは、巨大な根。 それは世界各地に現れる。 街を家々を破壊していく。 人を崩落が襲う。 マナの守護塔も例外ではない。 敵も味方もなく、脱出をする。 その現実をただ見ていることしかできずに。 悲鳴がリセリアの耳に届く。 それは多分、マーテルの悲鳴。 耳を塞いでもその声は頭の中に響いてくる。 耳を塞ぎ、地面にうずくまる。 誰もそれを、気にする余裕もなく。 「一体何が起きたんだ!」 「めちゃくちゃじゃねぇか……」 「ねぇ……あれが……大樹カーラーンなの?」 「……誰だろ。どこかで……会ったような……」 「……マーテル!?」 「マーテル?あの木に取り込まれようとしている女性が?」 「……誰かに……似てる……。あれはたしか……」 「何故マーテルがあのようなグロテスクな大樹と復活するのだ!?」 「やはり……こうなってしまったか」 クラトスは分かっていたようだ。 「どういうことだ!」 「大いなる実りが精霊の守護という安定を失い、暴走したのだ」 「そんな馬鹿な!」 ユアンが狼狽した。 「精霊は、大いなる実りを外部から遮断し、成長させないための手段ではなかったのか?」 「それだけではない。二つの世界はユグドラシルによって強引に位相をずらされた。本来なら、互いに分離して時空の狭間へ飲み込まれてしまうのだが、二つの世界の中心に大いなる実りが存在しているからこそそれは回避されている」 「そんなことはきさまの講釈を受けなくてもわかっている!」 「大いなる実りは離れようとする二つの世界に吸引され、どちらかの位相に引きずりこまれようとしている。ゆえにいつ暴走してもおかしくない不安定な状態にあった」 「……待て!それでは精霊の楔は大いなる実りを二つの世界の狭間にとどまらせるための檻として機能していた。……そういうことか」 「その通りだ。安定を失った大いなる実りにおまえたちがマナを照射した。結果、それはゆがんだ形で発芽し暴走している……。融合しかかったマーテルをも飲み込んでな」 「理屈はどうでもいい!このままだと、どうなるんだ!」 「……クラトスの言葉が事実ならシルヴァラントは、暴走した大樹に飲み込まれ、消滅する。シルヴァラントが消滅すれば聖地カーラーンと異界の扉の二極で隣接するテセアラも、また消滅する」 「……みんな……死ぬんですね」 冷静に、けれども声を震わせプレセアが言った。 「あのゆがんだ大樹とデリス・カーラーンに住む天使以外はな」 そんな、結果だったろうか。 けれどもこれではラタトスクがあんまりだ。 「……何とかしないと!」 「何とかって、どうするんだい!」 「ユアン。きさまは……この始末、どうつけるつもりなのだ?」 「……マナの流れを切り替えて照射を止めることはできる」 「しかしそれではあの大樹をおさめることはできない。サイは投げられたのだ」 「テセアラでも、あの大樹は同じように暴走しているのか?」 「いや、それはなかろう。影響を受けて、地震程度は起きているだろうが……」 「……そうね。恐らくコレットの世界再生によってシルヴァラントの精霊が活性化しているはず。だからシルヴァラントの精霊に引きずられて、こちらで大樹が暴走しているのよ」 「それは正しい。精霊たちはそれぞれ陰と陽の二つの役割を神子の世界再生によって交代でうけもっている。現在、陽であるマナの供給を担当しているのがシルヴァラントの精霊だ。だからこそ、大樹はマナの過摂取で暴走しているのだろう」 「……ユアンさんに乗ったのはわたしたちだし、元は精霊との契約が原因なんだから。ユアンさんだけのせいじゃないよ」 責める視線を向ける面子に言った。 そしてロイドは何か思いついたようだ。 「……だったら相反するもう一方の精霊の力をぶつければ中和されるんじゃないか?」 「……ロ、ロイド!?意味わかってる?」 「馬鹿にするな!前に先生が磁石のプラスとマイナスは中和されるっていってた。そういうことだろ?」 物が違う。 けれども多分、それで落ち着くはずだ。 「ロイド!ちょっと違うけれどあなたにしては冴えてるわ」 「仮にテセアラ側の精霊をぶつけるとして、どうやってぶつけるんだい?あんな風に暴れてる大樹の足下までは近寄れないよ」 「あれはどうですか、ユアンさん。魔導砲でしたっけ?」 「魔導砲って、あのロディルが作っていたという機械ですか」 「あれは元々我々がロディルを利用して作らせていたものだ。精霊の守護がとける前は、ロディルに救いの塔を破壊させて直接種子に近づくつもりだった」 「魔導砲にテセアラの精霊のマナを込めて、大樹に向かって放つ……ということか」 「です」 「たしかにそれ以外、方法はなさそうだな」 「まずは現状のマナの照射を止めなくては。マナの照射が続けば、大樹はますます成長して中和どころのさわぎではないわ」 「ではこうすればいい。ユアンよ。きさまがどこに所属し何をしているのか私は見なかったことにする。だから今すぐにレネゲードへ指示を出し、マナの照射を止めろ。ロイドたちは魔導砲へ向かえばいい」 「……よかろう」 しかし、 「無理です!イセリア牧場に潜入した同志はフォシテスによって処刑されました!」 「フォシテス?」 聞いたことないような名前にリセリアは首をひねる。 「どういうことだ?」 「……イセリア牧場はまだ機能している。内通者にマナ照射の切り替えをさせていたのだ」 「ようするに、今から侵入して照射を止めなくちゃならねぇってこったな」 「……では私が行こう」 「貴公が?敵対する貴公一人を行かせるというのか?」 クラトスの信用度ゼロだ。 「我らの同志を向かわせる」 「いや、ユアンさん待ってくださいよ。それはちょっと……」 「リセリアの言う通りだ。魔導砲の準備。各地の魔導炉の停止。……レネゲードにはやってもらわねばならないことが多い。余計な手勢をさくな」 「わたしも行きますから。二人いればなんとかなるでしょう」 「……俺も行く」 「何言ってんだい!こっちは魔導砲へ向かわないと」 「しいなとレネゲードで魔導砲にむかってもらう。俺たちと……クラトスでイセリア牧場へ潜入する。しいなは俺たちの指示で魔導砲を撃て。しいなだってクラトスからの指示だけを信用はできないだろ」 なんだか大人数になった。 「……そいつはそうだけど……」 「……ショコラか?」 「ショコラ?…………ああ、確かパルマコスタの」 絶海牧場で一瞬浮かんだ存在を想い出す。 「そうか。ショコラはイセリア牧場にいるんだよね。ロイド……ちゃんと約束を覚えてたんだね」 「わかった。おまえたちに任せる。後はたのんだぞ」 「……行くぞ、みんな!」 [*前へ][次へ#] |