X 1-25 ドロッセルに言われた場所へと向かうと、そこにはドロッセルとローエンが待っていた。 よほど、ドロッセルは楽しみだったのだろうか。 手を振って出迎えてくれる。 「お待ちしておりましたわ」 奥が、彼女の家だろうか。 「すごいお屋敷……」 予想していたよりも、身分の高い女性、のようだ。 「おっきい……」 もしやまずいところへ招待されたのでは、と不安になる。 と、そこへ。 屋敷から出てくる姿。 兵士だ。 「ラ・シュガル兵!」 ここはラ・シュガルなのだから確かにいてもおかしくはないが……。 ミラは剣を抜こうとする。 が、 「待て」 アルヴィンがそれを止めた。 次いで出てきたのは初老の男性と、その付き人だろうか。 屋敷の前に止めていた馬車に乗り、兵と共に去っていく。 「今のは……」 「……お客様はお帰りになりましたか」 安心させるように、ドロッセルは笑った。 そして一行を屋敷へと、招き入れる。 反対に屋敷から細見の男性が歩いてきた。 ドロッセルと似ている。 「やぁ、お帰り。お友達かい?」 嬉しそうにドロッセルは駆け寄る。 「お兄様!紹介します。……あ、まだみんなの名前を聞いてなかった」 と、今ここでやっと気が付いた。 「ははは、妹がお世話になったようですね。ドロッセルの兄、クレイン・K・シャールです」 「クレイン様は、カラハ・シャールを治める領主様です」 「この街の領主……!?」 まさか、そんなんい偉い人だったとは。 その若さで、この街を統治しているなど簡単ではない。 それでもこの街の雰囲気がいいのは、きっと彼のおかげなのだろう。 「立ち話もなんです。さぁ、どうぞ屋敷の中へ」 招かれるまま、屋敷へと入ることになった。 「……」 「大丈夫?宿で休む?」 リセリア一人なら宿も取れるだろう。 ジュードは心配して声をかける。 けれども、 「ん?大丈夫だよ」 いつもの返事が返って来る。 「そこのお嬢さんは、どこか悪いんですか?」 「いえ、大丈夫ですクレインさん。ありがとうございます」 心配させないよう、また知られないよう。 リセリアはすぐさまクレインへと答えた。 不調だと思えない笑顔で、声色で。 「なるほど、また無駄遣いするところをみなさんが助けてくれたんだね?」 ドロッセルの買い物は割と日常茶飯事なのだろう。 「無駄遣いなんて!協力して買い物をしたのよね」 少しムキになっているのがその証拠じゃないだろうか。 「ねー」 「ははは……」 ティポが答えた。 せっかくなのでと、出された紅茶にリセリアは口を付ける。 「ふわ……」 変な声を上げるリセリア。 「お口にあいませんでしたか?」 「あ、違います。おいしくて……」 ほう、と息を吐く。 「それはよかったです」 クレインがリセリアを見て嬉しそうに笑う。 つられて、リセリアも。 「……」 クレインとリセリアの様子に、少しイラっとするジュード。 とそこへ、ローエンが入ってきてクレインに耳打ちする。 「……わかった。みなさんのお相手を頼むよ」 「かしこまりました」 「申しわけありませんが、僕はこれで」 クレインは仕事が入ったのか、その場を後にした。 「俺も、ちょっと」 「アルヴィン?」 「生理現象。一緒に行くかい?」 ウィンクまでつけたアルヴィンに、ジュードは無言。 そうして彼もまた出ていった。 「ねぇねぇ、みんな旅の途中なんでしょう?旅のお話を聞かせて」 ドロッセルはどうやら、エリーゼが気になるようだ。 「あの……わたし……」 「私、この街から離れたことがなくて……だから、遠い場所のお話を知りたいの」 「わたしも……外に出たことなかったです。でも……」 「ジュード君たちが、エリーを連れ出してくれたんだー。海と森を通ってねー、波やキノコがすごかったー」 「エリーは海を渡ったんだ?いいなぁ。私、まだ海を見たことないの」 「海には気をつけろ。岩に化けるタコがいるからな」 ミラも話に混ざる。 「岩に化けるタコさん!?」 「あの、貝や魚も……います」 「あ、貝殻で作ったキレイなアクセサリなら、広場のお店で見たわ」 「キレイなアクセサリ……」 「興味あるの?だったら今度プレゼントするわね。お友達の証よ」 楽しそうに、三人で話している。 「お茶お代わりはいかがですか?」 空になったカップを見て、ローエンが言った。 「あ、すみません。いただきます」 すぐに暖かい紅茶が注がれる。 「……エリー、嬉しそうだね」 そういうリセリアも嬉しそうで。 「うん、そうだね」 ジュードと二人で、見守っていた。 ただ、時折ティポが呆れていいのか怒っていいのか。 そんなことを言うのだが。 (……おいしいお茶) [*前へ][次へ#] |