X 4-12 イバルは決して弱くはない。 けれども、 「どうして……」 彼の信念は、ジュードを倒すということだけ。 「どうして俺は勝てないんだ!クソー!」 狼狽するイバルを置き、霊山へと足を進める。 「俺はミラ様を守る使命をもった巫女!俺は特別だ!特別なんだ!」 ただ、巫女という優越感に浸る彼。 そんな彼が、こえられるわけがない。 「……イバルも僕もまだ特別な存在じゃない」 成長した、ジュードには。 「なに!」 「僕はどうやったら二人のように、特別になれるのか知りたい」 「貴様などになれるか!ミラ様を見殺しにしたお前が!」 「イバル……君はミラのこと……」 後悔、懺悔。 全てが入り混じっている。 「あの時、僕が特別な人間だったら助けられたかもしれない」 けれども、もう過ぎた過去。 そしてジュードは特別な人間などではない。 「ごめん、イバル」 謝る必用などない。 イバルもまた、同じなのだから。 「…………!」 けれども自分の向ける感情が、それをジュードにぶつけるのは間違い。 それは、イバルもわかっていた。 守れなかったのは自分も同じだ。 見殺しにしたのは自分も同じだ。 自分が、原因を作ったのだ。 けれどもこの行き場のない怒りをただ、ジュードにぶつけていただけなのだ。 「……霊山は社の先だ」 「イバル?」 「さっさと行け!俺の前から消えろ!」 そのまま、自分が走って行った。 「自分から消えたー!」 不覚にもリセリアが噴出した。 意外そうにその場の誰もがリセリアを見る。 「イバル、よっぽど悔しかったんだね」 「彼にとっていい薬となったでしょう」 しかも、速い。 いままでシリアスだったような気がするがその面影もなくなるくらいに。 「そうかも。次に会う時、どんな反応するか楽しみだね」 しかし反応が違うのはジュード。 「イバル、もう来ないんじゃないかな。行こう」 「え?待って、ねえ、どうして?」 それはきっと、イバルもまた……。 『リセリア』 なんだか、ものすごく久しぶりに声を聞いた気がする。 (ラタトスク) 自分からお願いしておいてだが、久しぶりだ。 (おかえりなさい) 『……なんだ、その怪我は?』 それは手のことか、はたまた体のほうだろうか。 そう思っていれば、どっちもだと怒られる。 「これは僕の……」 (ちょっと油断したの。それより……) 『あとはあいつ次第だな』 「あいつ?」 『知りたかったらこいつに聞け。俺はもう戻る』 (ありがと) 「あいつって、誰ですか?」 「……」 悩むしぐさを見せたが、言う必要もないだろう。 何も答えずにミラの社へと入っていく。 「誰なんだよー!」 「教えてほしい……です」 エリーゼはわからないのか、リセリアに纏わる。 それでも言う気はないらしい。 「いつもいる精霊を……もしかしてリセリア……ミラに?」 「リセリアさんに言うつもりがないようですが、恐らくは」 「……げふ」 「あぁ!リセリアが血を吐きました!」 「まだ治ってなかったのー!」 「もう……また無茶して……」 ジュードが足早に寄って行き、社の中に引っ張っていく。 そのまま床に座らせ説教しながら怪我を治す。 当のリセリアは、というと聞き流している……。 いや、ラタトスクと話しているようだ。 「……あはは」 失恋、なのに。 けれどもレイアは清々しい気分だった。 (土産だ) (……これって……) [*前へ][次へ#] |