X 2-sub4ジュードの代診1 「……」 せっかく寄ったのだから帰ればいいのに。 「どうした?家に入らないのか?」 「ジュード君、家が苦手らしいから」 苦笑してリセリアが言う。 「だが、前に来た時はリセリアもだったぞ?」 「あれは……申し訳なさが勝って……」 居候だし、とそう言う。 「ははーん、これが『敷居が高い』って状態?」 「珍しそうに見ないでよ」 本気で、肩を落としてしまった。 帰りたい、とは絶対に思っているだろうが。 そこに勢いよく治療院の扉が開く。 「あっ、お兄ちゃん先生!お姉ちゃん先生!いいところに!」 慌てぶりから、遊んでいるわけではないのはわかる。 「こら、治療院で騒いじゃいけないっていつも言ってるでしょ?」 「でもでも!大急ぎで大先生を呼んできてって言われたんだ!大先生じゃなくて、お兄ちゃん先生とお姉ちゃん先生でも大丈夫だよね?「多分ダメだと思う」 リセリアが即答した。 言い切った割に、多分と入ってるが……。 この多分は、いつもの診察での癖のほうの多分だろうとジュードは思った。 「大丈夫って何が……?」 それに苦笑いしながらジュードは状況を聞く。 「もー、聞いてるのは僕!」 「何かが起こったらしい。行ってみよう」 それにジュードは頷くが、 「おじさん探したほうがいいんじゃ……」 そう渋るのを引っ張られて治療院の中へ。 「そもそも、わたしもジュード君もまだ無免許だから、おじさんいないとダメだよ」 「でもでも!お兄ちゃん先生もお姉ちゃん先生も医者の勉強してるんでしょ!」 ぐいぐいと引かれていく。 診察室には、確かにディラックはいなかった。 エリン一人だ。 「ジュード、リセリア」 「急患?」 「ええ、突然意識を失ったって運び込まれてきたの。危険な状態だけど、詳しいことはお父さんでないと……」 「父さんは往診?」 「ええ、街はずれに。戻ってくるにはまだ時間がかかるわ……」 見た感じ、早い処置が必要だろう。 「僕が……診てみる」 そう、言う。 どれどれ、とリセリアも。 「なるほどね……」 「……多分、霊力野の急性硬化だ。このままだと命に関わる」 「じゃ、早く治療しなきゃ!」 (……おじさんがすぐ戻って来るならいいけど……) いつ帰って来るのかわからないディラックを待っている時間もない。 「……けど、原因は、いくつも考えられるんだ。大病院の検査精霊術で調べないとはっきりはわからない……」 ジュードはこれだ。 多分、彼は治療は出来ないだろう。 「大病院に送ってたら多分手遅れになる。ここで処置するよ」 仕方がないが、覚悟を決める。 そこへ、 「父さん!?」 リセリアの横にディラックがずいっと入って来た。 「この患者さん、多分霊震偏差による霊力野の急性硬化ですよね」 リセリアのそれにディラックも患者の様子を確認し、頷く。 「エリン、マスターゼとミクアスの投与を」 「はい!」 「リセリア!父さん!もし霊震偏差じゃなかったら、その薬は逆効果だよ!?」 リセリアは動きながらもジュードを一瞬だけ見るが、何も返さない。 「手伝わないなら出ていけ」 「……」 「おじさん、おばさん。マスターゼとミクアス用意できましたよ」 エリンにそれを、渡した。 ジュードたちが出ていくのを見ながら。 「患者さんの意識が戻ったわ。もう大丈夫よ」 三人は部屋から出て、ジュードたちに言った。 「よかったぁ……」 「見事な決断だったな」 「それが仕事だ」 「わたしの先生も、それ言ってました」 と、診察だけでなく、手術に立ち会った時もそうだった。 「けど、もし診断が間違ってたら、あの患者さんは助からなかったよ」 「?」 ジュードが何を言っているのか、理解できない。 いや、助からないというのはわかるのだが。 「当たり前のことだ。判断の責任は、すべて私にある」 「それが……医者?」 「医者だからじゃない。大人だからだ」 「……」 「うーん……ジュード君には、まだ難しいことなのかな?」 「リセリアは、もしあの患者さんが助からなかったらどうするつもりだったの?」 「それは、正しい処置ができなかったわたしの責任でしょ?これで検査のために別の病院に搬入する、とか言ってたら間に合わないだろうし」 それに、と言葉を切る。 「先生の指導でもうオペ入ってるからね。決断するのは、わたしたちだから」 どこまで行っても、命の選択をする現場だ。 「決めたのがわたしたちなら、責任もわたしたちのものだよ」 難しいかな、と再びジュードに言う。 「……」 それにも、ジュードは答えられなかった。 [*前へ][次へ#] |