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3-21
時間、だ。
船の掌握が終わったと、兵士がわざわざ教えに来てくれた。
体を横にして休めることは出来たが、休めたとは言えるものではない。
どうするべきか答えは出ない。
一番自分の中では、きっと誰からも離れるのが楽なんだろう。
しかしジランドをこのままにしておくわけにもいかない。
ミラたちもガイアスも、どちらもジランドを倒しに行くだろう。
そして、自分も。
答えは出ないままだが、決めるしかない。
けれども同じ、ジランドを止めるというのだけは、確か。
新調した剣を2本腰に下げ、呼びに来てくれた兵について行く。
「各突撃部隊に通達」
ウィンガルだ。
「敵拠点は巨大な建造物と推測される。室内戦用の戦闘連携を再確認せよ」
突撃するであろう兵の、おそらく上官へと指示を飛ばしている。
「はっ!」
「命令伝達の困難が予想される。伝令舞台に予備人員の確保を徹底させろ」
「了解しました」
指示がされ、着々と準備は進められているようだ。
「忙しそうだな」
「当然だ。勝敗の九割九分は戦う前に決するものだ」
「勝つべくして勝つ、というやつか」
「安心しろ。お前たちの戦力は計算にいれていない。敵を撹乱してくれればよし。戦死しても、私の策に支障はない」
「!」
想像はしていたが、ウィンガルはかなり冷酷に結果を考えているようだ。
「いいだろう。こちらも異存はない」
「……ジャオさんも同じなんですか?死んでも困らないって!」
「同じではない。ジャオの力は、お前たちの不安定さとは比較にならないものだった。かつて、この私を倒し、ガイアスに一騎打ちをいどんだほどの男だからな」
「……」
(ジャオさん、強かったんだね)
(ただものじゃねえとは思っていたが……)
「大っきなおじさんと友達だったのー?」
ティポのその問いかけに、少し嘲笑うように。
けれども、思い返すように言う。
「友……か。子どもの発想だな」
その後には、確固たる意志の篭った言葉。
「ジャオの抜けた穴は、私が埋める。そのための増霊極だ」
「どこまでが本心か、わからない奴だ」
「……無駄な思考に力を費やすな。決戦は近い」
不器用だが、彼なりに心配をしているのだろうか。
それとも本当にそう思っているのか。
おそらく、後者だろうけども……。
ウィンガルが去り、ジュードとミラと目が合う。
随分落ち着いたものだとリセリアは自分を嗤った。
そして薄い笑みを向ける。
「あ……」
「出発の準備は整ったのか?」
「ああ」
ミラが答え、ガイアスはリセリアにも顔を向ける。
返事の代わりに、新調した剣を軽く叩く。
「答えは出たか?」
「答え?」
「俺と行くか、それともジュードたちと行くか」
「……」
「ガイアスと!?」
ジュードが声を上げる。
何を、そんなに驚くことだろうか。
答えは出ていないが、一つだけ答えられることはある。
『その答えはまだ出てないけど、精霊を、人を殺すならジランドは絶対に止める』
ただ、それだけは言える。
「……あの……さ……」
恐る恐るジュードが言う。
けれどもそこだけを絞り出し、先の言葉は続かない。
他の皆からも、困惑が強く浮き出ている。
あの精霊は、何を考えているのかわからないが……。
「リセリア」
そんな中、ミラだけは違った。
「私たちと一緒に来ないか?」
迷いなく言い放つ。
「?」
「リセリアとの間に失った信用を、私は取り戻したい」
そう言われてしまうと、悩んでしまう。
ミラの事は嫌いではない。
そして、みんなの事も嫌えないでいる。
けれども、
『それは……言っていいのか?』
嫌だと首を強く振るリセリア。
「嫌なのか?」
ミラがしゅんとして言う。
「……」
まるでミラは捨てられた子犬のようだ。
それにも、首を振った。
「ならばよかった」
どう、反応したらいいのだろうか。
「あの、リセリア!」
つられてかジュードも声を上げる。
「僕と……僕たちともう一度一緒に行こうよ!」
決意をしたように、けれども真っ直ぐにリセリアを見て。
「……行ってやれ」
ガイアスがジュードの背中を押すように言った。
「リセリア……私たちはもう、仲間にはなれないのか?」
「……」
「また、一から関係を築きたい」
『今は仲間とかそういうのじゃなくて、確実にジランドを止められるように使って欲しいの』
誰と行く、ではなくそれが今一番の本心かもしれない。
誰とこれからいる、だなんて今必要のないことだ。
これからジランドを倒す。
ならば、必要な場所にいればいい。
後の事はまた後で考えればいい。
「ならばジュードたちと行け。俺の所は間に合っている」
『わかりました』
一度リセリアは自分で自分の頬を叩いて喝を入れる。
その後の目は、多分今までで一番鋭い瞳をしていた。
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