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-日記連載-
8.
『大丈夫、任せておけ』
『いや、ね…ティエリア』
きぃらりぃんっ、と、瞳を輝かせて、しかも満面の笑みでティエリアが応える。
『ほら、宿の者も待っているぞ!』
本日の天気は、台風が発生した為に生憎の雨。
そんな中ご機嫌なティエリアは、荷物を持ってお見送りをする為に待っている宿の人にまで、にこやかに挨拶をしている。
有り得ない。
…だから雨なんじゃ無いの?と、思ったりもしたが、アレルヤは口にしなかった。
そのティエリアが握って離さないのが車の鍵。
そう、運転を代わる!と、張り切っているのだ。
今日は海まで抜けるルートなのだが、雨な上に山間部を、そう、カーブの多い道を、しかも日頃は助手席が指定席なティエリアが運転をすると言う。
アレルヤで無くても、それはちょっと…と、思うのは仕方の無い事に思えた。
宿の人に傘を差し掛けられ、ティエリアはアレルヤを置いて車に乗り込んでしまう。
ふぅ、と、溜息をつき、運ばれた荷物をアレルヤは積み込み、助手席に座った。
見送りを受けながら、車は緩やかに発進する。
『知っていたか?君が居ない間に出掛けていたのを』
『ティエリアが?一人で?!』
人込みが嫌い、出掛けるのも面倒臭い、外に出る事はアレルヤに任せる、そんなティエリアが外に出掛けていたなんて。
ふふぅん、と、少し得意気なその顔を見ながら、アレルヤは反対に複雑そうな表情を浮かべる。
大事で、大好きで、大切なティエリア、自分だけの、独り占めにしたいティエリア。
知らない事なんて無いと、自分が居ない昼間の事でお喋りしてくれ無い事等無いと思ってたのだ。
『内緒にしていた。運転は交代の方がいいだろう?家の近くだけで、誰にも会ってない』
見透かしたようにティエリアが、くすすっ、と、笑いながら伝える。
『僕の為って自惚れていい?』
『勿論。…で、アレルヤ、』
『なぁに?』
『道が判らない。どっちだ?』
一瞬?マークを浮かべたアレルヤがナビを立ち上げて入力をすると、機械の音声が行く先を告げ始めた。
段々と道幅が狭くなり、正しく蛇行、と言うように曲がりくねる。
その視界を乳白色の霧が覆い尽くし、たまに擦れ違う対向車も霞むくらいの天候の悪さだ。
『うわぁ、真っ白!晴れたら景色もよかっただろうね』
窓から外を眺めながらアレルヤが呟く。
かなり登って来たので、晴れていれば山の緑や、近くに広がる雲、下とは違う空気を味わえた筈だったが、ティエリアは楽しそうに笑う。
『そんな誰でも見れるモノより、なかなか見れなモノが見れるんだぞ?凄く無いか?』
突如白いカーテンを割裂いて現れる景色を後ろに送りながら、車は山道を進んで行った。
海に近付くにつれ段々と霧は晴れ、山に挟まれ海に並走する道を走らせて行く。
降っていた雨もいつの間にか止み、雲の切れ間から青空が覗いている。
まだ灰色の雲が立ち込めている事から、まだまだ降りそうだが、海に差し込む光が波を反射して美しい。
窓を開けるとその空気と眺めをアレルヤは楽しむ。
『アレルヤ、見て!』
運転をするティエリアが指差す先には、海から山に延びる大きな、大きな、はっきりとした虹の掛橋。
『うわぁ、綺麗だね!ティエリア!!』
『アレルヤ、よく見て』
ティエリアがもう一度指差す先に、うっすらと寄り添うようなもう一つの虹の橋。
『凄い!ダブルアーチだ!!』
『祝福されているようだな』
『そうだね、ティエリア。そうだよ!これからも一緒だからね』
『勿論だ』
幸せな微笑みを浮かべた二人を乗せた車は、祝福するような虹の門を潜り抜けて行く。
これからの二人の未来を祝福するウエディングアーチのような二つの虹だった。

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あきゅろす。
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