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-日記連載-
7.
穏やかに上下を繰り返す背中をぼんやりと眺める。
いつもと変わらぬ広くて、逞しくて、大好きな背中。
俯せて左側を向いているため、右側の自分からはその表情が見えないのが何故か寂しい。
いつもは、手を延ばせば、いや、抱きしめたり、抱きしめられたり、必ず何処かしらが触れ、寝ている間に離れてもその温もりは伝わるのだが、今日は別々。
同じ部屋に居て別々なんて初めてかも知れない。
喧嘩をしても、拗ねても、怒っても、同じ場所を共有して触れ合えば、何と無く、氷が溶けるように、また平穏で幸せな日々と同じように何事も無く眠るのだから。
風呂場で綺麗に洗いあげられ、柔らかなタオルで包み拭かれると、そのまま運ばれ、ベッドに下ろされると、アレルヤが出してくれたお気に入りのパジャマに袖を通す。
その間に自分の事を手早く済ませたアレルヤが、上半身にタオルをかけたまま、ティエリアに飲み物を準備をして戻って来た。
床に滴った水分も、きちんと片付けてあるのがアレルヤらしい。
ティエリアに飲み物を手渡すと、その向かい側に腰を下ろし、飲み物を口に運んだ。
いつもなら隣に座るのに、何故とは思ったのだが、風呂から上がったばかりで暑いし、この方が話をしやすいからだろう、と、その時は何も言わなかった。
それがそのまま就寝に至ってしまい、何と無く言い出せず、おやすみ、と、口にしてしまったのだ。
別に喧嘩をした訳でも、用がある為に離れてもいる訳でも無いのだけど、何故か言いようも無く寂しさが増えて行く。
旅行は楽しくて、食事も美味しかったし、星空も綺麗で、アレルヤにも愛された。
でも、何故か、違うベッドに横たわって居るのが無性に寂しい、寂しくて仕方が無い。
旅行の前の準備をし、運転や、ティエリアの為にプラン以外にも気を配り、いつものように世話をし、いつも以上に甘やかしてくれたアレルヤが疲れているのは解っている。
ベッドもシングルで2つ用意されていれば当然の事だけれど、この距離が寂しくて仕方が無い。
『…アレルヤ』
口だけを動かし声には乗せずに名前を呼ぶと、涙が零れた事に驚く。
次々と流れ続く水分を、慌てて手の甲で拭うが、なかなか止まら無いばかりか益々溢れて来る。
『…っ、アレ、ル、ヤ……』
思わず漏れた声にも涙が混じり、感情が抑えられなく為るのが自分でも解るが、眠るアレルヤを起こしたく無い。
両手を使って拭いても、拭いても、ぼやける視界を、掌で押さえるように拭(ぬぐ)う。
『駄目、痛く為っちゃうよ?』
やわり、と、その両の手を纏めて退けられると、よく知った掌で瞼が覆われ、その心地良い体温が伝わって来る。
『…っく、ア、レ…ルヤぁ…っ』
『どうして呼ばないの?言わないの?』
『だっ、て…っふ、…』
寝具とティエリアの体の間に腕を入れ込むと、抱き竦めるようにその体を起こす。
『ティエリア、気遣ってくれるのは嬉しいけど、ティエリアにそんな姿をさせてまでは欲しくない』
少し力を込めて、閉じ込めるように抱きしめてくれるアレルヤの温もりと匂いが、あれほどに寂しかった感情を掻き消して行く。
『アレ、ル…ヤ、一緒に…』
『このまま眠ろうね。たまにはベットを独り占めもいいかな?って、思ったんだけど、寂しくさせたみたいでごめんね』
胸に凭れるように抱かれていたティエリアが、弾かれたように顔を上げ、泣いていた時よりも悲しそうな顔をするのと目が合った。
『違うよ、ティエリア。家のはダブルベッドだけど、僕の方が占領しちゃうでしょ?だからたまには広々とティエリアに寝て…』
『嫌!』
『ティエリア?』
『アレルヤとぎゅっとが好い。側が好い』
言いながら体が密着するようにティエリアは抱き着くと、アレルヤも優しく、強く抱きしめ返した。

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