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-日記連載-
3.
『今!早く、アレルヤ、早く!!』
食べたばかりで、部屋に戻ったばかりなのに、温泉に入る!と、落ち着かない様子のティエリアが、荷物の前で、うろり、と、立ったまま待っている。
荷造りを自分でしたわけでは無いので、アレルヤが出してくれないと解らないので、出すのは口だけで手は出せない。
手を出したとしても、何を持って行っていいのかも解らないのでので、アレルヤ頼みなので待つしか無いのだが、待ち切れない空気を纏っている様が子供みたいで可愛いらしい。
『ティエリア、お風呂は逃げないから。もう少しして入ろう?』
『嫌!今なら”空”ってなっていた、今がいい!!』
露天風呂は予約制では無く、空いていれば使えるというもの。
部屋に戻る途中で目敏く”空”を見つけ、部屋に入った途端にこの騒ぎと為っていたのだった。
『サムエとかユカタとかも着てみたい!』
『それは部屋のお風呂でね。外の露天では駄目』
『嫌!アレルヤぁ…』
完全に駄々っ子モードのティエリアに、アレルヤは小さく溜息を零す。
普段は、冷静で落ち着いているティエリアだが、実体験の無い、知らない、そして興味のある、面白い事や楽しそうな事を見つけると、それまっしぐら!で子供っぽくなるのだが、それはアレルヤ限定なので、アレルヤとしては嬉しい事なのだが、ティエリアの分も食した身としては少し休みたいのも事実だった。
『アレルヤぁ、』
『解った、少し待ってね』
ティエリア自身は気付いて無いだろうが、この名前の呼び方と、どうしてもダメ?的に見詰めて来るこの視線と、がっかりとしょんぼりが入り交じったようなこの表情で強請られたら、日頃のティエリアを知っている者なら、いや。知らなくてもこの可憐さで、アレルヤで無くとも陥落するだろう。
『先に行って”空”の札を変えてて…』
『駄目!夜だし危ないでしょ』
膨れっ面をしながらもティエリアの眼は、言い分が通った事で期待に輝いていた。

出入り口と、脱衣所の鍵をアレルヤがしっかりと閉めている間に、衣服を脱ぎ去ると、ティエリアが境戸を開けてアレルヤを捨てて風呂場へと入る。
湧き出す温泉の湯気と香、繁る木々の囁きに、風が優しく撫であげ、見上げた天空に降り注がんばかりの星々。
都会では掻き消される等級の星達も輝き、その中を幾つかの星が尾を引いて流れて行く。
見上げたまま立ち尽くすティエリアの横にアレルヤが立ち、優しく肩を抱き寄せる。
『下からの星もいいでしょ?』
『悪くな…あ!』
『何?』
ムードも何も無い声を上げるとティエリアは、びしり、と、風呂を指差した。
『アレルヤ!』
『はいはい、まずは掛かり湯をしてからね』
今にも飛び込む勢いのティエリアに苦笑しつつ、洗い場に連れて行く。
途中で上がりそうに無いな、と、ティエリアの行動を予測したアレルヤは、本当は湯舟のお湯を浴びるんだけど…と、言いつつティエリアの髪と体を手早く洗って行く。
その間もされるがままに、じぃっ、と、お風呂から眼を離さないティエリアに、思わず笑ってしまう。
『アレルヤ?』
『いや、ほらいいよ。お湯の温度を確認してね』
『解ってる!』
湯舟を覗き込むと、そぅっ、と、足先をお湯に近付けたが、そのままゆっくり少し…では無く、どぷり、と湯に浸け込んだ。
『熱っ!』
『ティエリア!!』
結局、アレルヤが湯の温度を見て調整し、湯舟に入れるようにしてやる。
『ゆっくり、だからね?』
『解ってる!』
そろり、と、足を入れ、湯舟の中の段を踏み底まで降りると、緊張気味だったティエリアの表情が柔らかく溶ける。
『温かい…』
立ったままのティエリアに、手足を伸ばして寛ぐように促すと、ゆるゆる、と、その湯に身を沈めて行く。
『…アレルヤ、底に座れる程座高が無い』
思わず声を立てて笑うアレルヤに、むぅっ、と、むくれて見せるティエリア。
『ちょっと待ってね』
自らも湯舟に入ると、湯が腰辺りに来る段に座り、ティエリアを手招きをし、左腕を縁にかけて広げる。
『おいで』
アレルヤを真似てその腕に収まるように座ると、肩に頭を凭れさせる。
二人の前に広がるは闇色、それに零れた宝石のような輝(てる)星達。
何を言うでも無く、夜と刻(とき)の腕(かいな)に身を任せ、そのゆるなやかな流れを堪能する。
『見て、アレルヤ』
『わぁ、』
水面に夜空の星が降り注ぎ、二人だけの小さな宇宙が現れた。

横に座るティエリアを両腕に緩く閉じ込め、その横顔をじぃっ、と、見たアレルヤが言葉を小さく発した。
『…見つけた』
『何?』
こちらを向いたティエリアに、もう一度先程の目線を要求すると、アレルヤの顔がティエリアの顔に、ゆる、と、近付く。
『アレルヤ?』
そうっ、と、アレルヤが瞼に唇を寄せ、離すと、目を閉じてそれを受けたティエリアと視線が合わさる。
『ティエリアの瞳にも宇宙が在るよ』
『その宇宙には君しか居なかったろう?』
『独り占めだった』
湯舟よりも小さな小さな瞳の宇宙には、他の誰も立ち入れ無い、アレルヤだけが許された場所。
『他も僕が独り占めしたいんだけど?』
『今更!』
護るように自分を抱(いだ)くその腕に、自らの腕をのばし、胸に抱き寄せ抱きしめる。
『では、この腕も、体も、心も、全てティエリア・アーデが独占する』
『勿論。ティエリア以外は要らないよ』
そっとそうっ、と、でも、強く逃がさぬ様に抱きしめた。

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