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連綿たる経常
貴方と思い想う事。

【2011.12.18〜2011.12.25連載】
クリスマスに合わせてリアルタイムに連載した物を纏めました。
**********

灰色に塗り込まれた空は、冷たい空気を運び、遥か蒼空はどれくらいの寒さか。

軈(ヤガ)て、その大気は水分を凍結させ、白い申し子達を地上へと送ろうとしていた。

吐息は既に白く、吐き出された呼気の暖気も惜しい程に、寒々と、晒された肌を刺す。

寒い、ではなく、痛いと、その表現がぴたりと嵌まる程に凍てつき、流れ行く風。

黒い教団支給の特殊素材のコートを以ってしても、完全に遮断できぬ今日の寒さは。

それはきっと、この空模様と、季節と、風と、その感覚的な寒さだけが、原因ではなかった。

乾燥しきった石畳は、踏む度に、ざらざらとした音と、頑なな踏み心地を返し。

乱暴に歩くその靴裏に、同様のその硬さで押し返し、頑固に言いなりを阻む。

土や泥や砂のように、柔軟に、軟弱に、打たれ弱く、そんな譲歩もなく、見せず。

踏んだ強さ以上に強固に押し返し、自らを保ち、また八つ当たりをするなと言うようで。

必要以上にガスガスと踏み締めて、荒れた心を踏み固める作業のように地面を蹴って。

コートの裾がよりはためいて、頭を冷やせとばかりに熱を奪い、だがそれがまた腹立たしく。

乱暴に進むその歩みは、暫く、誰にも阻まれる事もなく、落ち着くまで続いた。


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木枯らしとなり、吹き荒ぶ風が、髪を嬲るように攫い、容赦なく体当たりをして来る。

幸いにも自由を持てる日で有ったから、勢いのままに教団から出(イ)でて、独り道を歩いた。

はぁ、と、息が上がったからか、溜まったものを吐き出す為か、肺から酸素を追い出し入れる。

冷めた空気は、体の内から冷えを呼び、頭の芯から爪先まで、冷たくして行く。

体からの低温が、精神へと浸食するように、昂ぶっていた気持ちを、ゆるゆると抑えつけ始めた。


「馬鹿……ユウの、馬鹿……」


風音に紛れるように、その言葉は呟かれ、流され、消えて、無となってしまう。

だが、未だに、この燻る思いは、怒りを孕む感情は、なくならずに持て余す。

別に、彼に悪気があったとは思わない、裏表なく、常に直球であるのだから。

だからこそ、その真意が、偽りなく、本当だけを突き付けているであろうと、苛立ったのだ。

自分でも、自身が、真実だけを述べているかなんて、後から隠れた意味を見付ける事も。

そんな事は解ってはいるし、知ってもいるが、何故だか他人事のように聴こえた言葉に。

どうしようもなく、もやもやとした、納得の出来ない、その表の言葉の意味だけを。

捉え、捕らわれて、多分、自分独りが熱(イキ)り立って、だからこそ今、このような状態で。

拗ねた子ども染みた行動にも、嫌悪と苛立ちを覚え、下の唇を強く噛み締めた。


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クリスマスは家族で過ごすのが世の流れで、でも、教団に在る身としてはそれは叶わぬ事。

家族、そんな人達が実際に居る訳ではない、天涯孤独と言う身の上の自分。

だから、本当の家族で過ごす事はないけれど、それは出来ないけれど、求めてはないけれど。

疑似でも、心の上でも、独り善がりでも、教団で仲良くなった皆と、過ごしたいと。

願う事は、思う事は、温もりと笑顔を共有したいと考える事は、いけない事ではない筈だ。

彼が人と交わり、戯れ、馴れ合い、構う事を好まないのは知っているし、理解している。

でも、この、年に一度の、皆で集まれる口実を、楽しみに、浮き足立ってはいけないのだろうか。

『意味が解らねぇ』
『必要じゃねぇし』
『別に興味もねぇ』

何時もより不機嫌そうに彼から返される言葉に、気分が沈んで行って、それで……。

『馬鹿!ユウ何て知らない!独りで過ごせば良いっ』

アレン、と、呼び止められた声を無視して、居心地の好い彼の隣から飛び出した。

大好きで、常に傍に居て、離れたくない、彼の腕から、部屋から、外へ、駆けた。


**********


今の気分とは対照的に、華やかに高揚して行く、普段なら目に映すだけで笑みを溢す。

そんなクリスマスに向けての飾り付けは、軒に、窓に、其処彼処に、喜びを振り撒いて。

また迎えられるその日を、待ち侘びる待ち遠しさを、楽しい物にしているのだが。

今はそれが悲しくて、先程までなら間違いなく、それは幸せを現す物で有ったのに。

クリスマスらしい色や飾りが、とても苦しくて、色褪せて目に映り込んで来るのが。

寂しくて、辛くて、遣り切れない気分が、入れ替わりに沸き起こっていた。


**********


目先に揺れる、飾りから解けかけたリボンに腕を伸ばし、きゅ、と、強めに結び付ける。

はたはたと赤い帯びは風に靡き、一度だけ礼を言うかのように、指先に絡み付いた。

「離れると迷子になっちゃうよ。戻れなくなるからね……」

ぽつ、と、呟き、ゆっくりと足を運ぶ、静かに、風に押されるように、町並みの中を。

きっと、このクリスマスの飾りを、独りではなく、そう、彼と見る事が出来たなら。

とても嬉しくて、幸せなのに、でも今は、自分から出て来たのだけれど、とても……。

今、会いたくて、あいたくて、涙が、求めてもないのに、溢れそうになった。


**********


とすん、と、低い位置に感じる衝撃に、耐えた筈の水滴が一粒、それを与えたモノへと落ちる。

ひとつ落ちてしまえば、次々と、瞳から生み出される涙は、下へしたへと落ちて行く。


「ご、ごめんなさいっ おにいちゃん、いたかった?ごめんなさい……」


見上げて来る泣きそうな顔に、慌てて頭(カブリ)を振ると、その頭に手を乗せて撫でる。


「ごめんね、吃驚させて。目に、ね……塵(ゴミ)が……入っただけ、だから」
「……だいじょうぶ?おにいちゃん」
「ん、大丈夫。ごめんね、驚かせて」


片方の掌で、ごしごしと水分を拭いながら、男の子にやんわりと笑って見せる。


「ほんとう?いたくなかった?ごめんなさい」
「ん、大丈夫だから。ありがとう」


きっと、自分の方がぼんやりと歩いていたのに、ぶつかってしまった事を気にしてか。


「これあげる!」
「僕に?」
「うん!」


コートのポケットから出された手の上には、紙に包まれた、クリスマス仕様のキャンディ。


「ありがとう」


膝を折って、目線を合わせて礼を言うと、キャンディが消えた手で、頭を撫でられた。


「いたいの、いたいの、とんでいけー!」
「……ありがとう」


バイバイ、と、手を振り、走り去るその小さな姿を、見えなくなるまで見送った。


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ふ……、と、好き勝手に振る舞っていた風が止んだ、が、目の前に揺れる物は変わらずに在る。


「子どもに気を使わせてんじゃねぇよ」


背後からの声は、自分が拒絶した、置いてきた筈の、大好きな、だいすきな彼の……。


「……ユ、ウ」


後ろから肩を抱き竦められ、冷えた彼の頬辺りが、自分の目元近くに当たると。

靡く彼の長い髪が、目の端で踊り、閉じ込められた体に、温もりが、じわり、と、広がりはじめる。


「この馬鹿。心配するだろぅが。馬鹿アレン」
「……放し、て」
「嫌だ」
「ぁ、……人が、」
「放っておけ」


こんな寒い日、人通りが多い訳ではないが、それなりに、しかも此所は往来で。

明らかに何事か?な、視線を感じ、通行の邪魔になっているのは、間違いないだろう。


「ユウ、放し……」
「そしたらまた居なくなるだろ、お前は」
「……ぇ、」
「逃げんなよ、アレン」
「……」
「返事は?」
「……は、い」


交差していた片腕が外されても、もう片方は肩を抱いたままで、下に滑らせた腕は手首を掴む。

そして、もう片側も解放すると、その左手の指を掴んだ方に絡めてから、右手を離した。

逃げられないように、逃がさないように、離す事なく、離さぬように、手が握られる。


「ユ、……ユウ、ぁの、」
「何だ?」
「……手、」
「嫌なら振り払えば良い」


そんな事が出来る筈もなくて、繋がれたままに、引かれるままに、道なりに歩き始める。

整った顔に、黒髪の長髪を束ね、背が高く、人目を惹く、その彼と自分の手も人目を引く。


「……逃げない、から……手」
「は?何で」
「見られてる、し……」
「だから?」
「ぇと、あの、……ほら、他の教団員とか、」
「放っておけ。気になるなら、後でそいつを絞めてやるから」


離す気はないらしく、聞く耳はあるが、聞く気はないようで、反って掌に力が込められる。


「良いんだよ。俺はお前が好きなんだから。言わせておけ」
「……でも、」
「お前は俺が嫌いか?だったら離してやるよ」
「……す、き」
「だったら、問題ねぇじゃねぇか」


口の端を僅かに上げると、悪戯を楽しむような、悪い事を嬉々として仕掛けるような。

彼の笑みと、掌の熱さに、何も言えなくなり、黙って手を繋いだまま、寒い路地を歩いた。


**********


「……なぁ、」
「ぇ、」
「見てるのか?」


何を言われているかが判らず、隣を歩く彼の顔を、ちら、と、眺めて、考える。


「飾り。好きなんだろ?こう言うのが」
「……ぁ、」
「下ばっか見てんじゃねぇよ。折角の二人きりなんだろぅが」


くしゃ、と、髪がやわらかくかき混ぜられ、頭をぽんぽん、と、子どもにする仕種で。

怒っている風もない、優しくも擽ったい行動に、自分より背の高い彼を見上げる。


「何だ?」
「……怒って、……ない、の」
「あぁ、怒ってるさ」
「……」
「冷えるな。店に入るか。何が良いんだ?アレン」


また下を向いてしまうその頭に声が落ち、次いで顎先に指が掛けられ、強制的に上向きとなる。


「寒いだろ。何が食いたい?」
「……何、でも」
「アレン。何が良いんだ?答えろ」
「……ぁ、……甘、いの」
「了解」


ふいに、にこり、と、微笑んだかと思えば、返す言葉と共に、ほんのりとキスが唇に施される。

思わず空いていた左手で、口を隠すも既に遅くて、にやり、と、笑う彼の顔を、目を丸くして見た。


「可愛いな、アレンは」


**********


意味が解らない、混乱する頭と僕を気にするでもなく、何時もとは違う様子の彼にも驚く。


「何だ?」
「……どうし、た……の?ユウ」
「別にどうもしねぇよ」
「……」
「行くぞ」


普段から優しい、優しくて、笑顔も見せるけれど、それは僕だけの特権で、でも珍しくて。

そんな彼が、今日はよく笑う、手なんかも繋いで、こんな昼日中に、嬉しいけど、でも。


「……あの、」
「別に頭は打ってねぇぞ」


余程不審か、不安気に見てしまったのか、彼の口から、先手を打つように言われてしまった。


「だって。……怒って、」
「後だ。今はこの状況を楽しめよ?アレン」


気にはなるけれど、言われた通りに飾りを、そのクリスマスの雰囲気を、彼と感じて歩いた。


「此所にするか……」


そう言って彼が立ち止まったのは、甘い物を好まぬ彼には、本当に似つかわしくないお店。

確かに甘い物とは言ったが、スイーツの専門店を選ぶ等、立ち止まる等、思いもしなくて。

可愛い佇まいの、その店の中が見える窓からは、女の人ばかりが見えていた。


**********


中に入れば、彼が注目されるのは必至で、自慢の彼氏だけども、恋慕の視線には晒したくはない。


「あ、あのっ!」
「何だ?」
「あの、ね、」
「ん?」
「や、やっぱり、やっぱり僕、お腹が空きましたっ だから、あのっ、」
「焦るな、解ったから。しかし、何時も腹が減ってないか?お前は」
「そっ、そんな事はっ、ぇと、」
「ふ……、必死過ぎ。その先の店にするか」


軽く笑われるも、他所の女に見惚れられるよりは、笑われた方が良いに決まっている。

少なくとも、その笑いは自分が提供をし、良くも悪くも、彼を笑顔にさせているのだから。


「ユウ……」
「ん?」
「あの、」
「……店に入ってからにするぞ。降って来た」


ひら、と、小さく冷たい花弁(ハナビラ)が、風に舞いながら、はらはらと散り落ちる。


「ん、……解った」


**********


リースの掛かる茶色のドアを押し開けると、ふうわりと、暖気が誘うように流れ出す。


「あ!おにいちゃん」


彼が体をずらし、先に店内へと入れられると、中から元気の良い声が掛けられた。


「ぁ、さっきの」
「さっきはごめんね」
「ぃや、あの……」
「お前は悪くねぇよ。通りで呆けていたこいつが悪い」


後ろから来て会話に割り込むと、その子の頭をわしゃわしゃと、撫でる様子に吃驚する。


「何だ?」
「ぇ、だって……」
「俺が詫びて悪いか?俺のモノが迷惑を掛けたからな。当然だろ」
「……もの?おともだちじゃないの?」
「いや、違う」
「ちがうの?」
「大事な人だ。誰よりも大切な人だ」


今の、彼から聴かされたその言葉に、心臓の血流が上がり、頬が染まるのが判った。


「こら!何時までお客様を立たせとく気だい」
「ごめん、かぁちゃん。いらっしゃいませ!」


**********


紅い頬と、まだ落ち着かぬ胸の鼓動を抱えて、奥のテーブル席へと案内を受ける。


「全部か?」
「……へ?」
「メニュー、全品で良いのか?」
「ぁ、いえ!選びますっ」
「悪いがまた後で呼ぶ」
「はぁい、ごゆっくり!」


視線はメニューを追うけれども、大好きな食べる事なのに、頭には何も入って来ない。


「どうした?」
「ぇ、あ……うん、」
「やっぱり全部にするか?」
「いぇ、……この、」


男の子を呼び寄せ、幾つかの料理と、数種類の甘い物、珈琲、紅茶等の茶類を頼む。

先に運ばれた珈琲に口を付ける彼を、ココアの入ったカップを弄びながら、ちらり、と、見ては。

視界から外し、また……、を、幾度か繰り返し、考え倦(アグ)ねている所に、彼から言葉が掛かった。


「アレン」
「は、はいっ?!」
「お前、何か言いたいんだろ。何だ?」
「……、ユウも……、何か僕に……」
「あぁ、有るな。だが、お前が先だ。その前に、」
「……前に?」
「冷めないうちに食うのが先だな」


**********


トード・イン・ザ・ホールを切り分けて、皿に乗せ、オニオングレービーを掛ける。


「はい」
「……俺に?」
「嫌い……、だった?」
「いや、貰う」


流石に、一人で食べるには気になるし、折角なら彼と味わいたい、その方が美味しいから。

コテージパイは一皿そのまま、自分だけが食し、残りのトード・イン・ザ・ホールも食べる。


「……ユウと同じ物って、日頃ないですよね」
「そうだな」
「美味しい?」
「あぁ、美味い」


料理や他の事に触れるも、核心の話はせぬまま、最後の料理、アップル・クランブルに達する。

フォークで、カスタードクリームをかき混ぜながら、皿を見詰めたままに切り出した。


「……ユウ」
「ん?」
「話……、しても?」
「あぁ」
「……怒ってる、ん……ですよ、ね?」
「そうだ」
「……ぇと、……何で、」
「お前が馬鹿だから」
「は?」
「馬鹿だろぅ、お前は」
「……馬鹿って、だって……ユウが、」
「俺が、何?」
「……クリスマス、あんな風に……興味ないみたいに、……一緒に、楽しみたくて、」
「だからだろ」
「え?」
「だから怒ってるんだよ、俺は」
「……皆で、過ごしたく……ないんで、しょ?……僕とも、」
「違う」


クリスマスが来るのが嬉しくて、皆で仲良く過ごせたら、楽しい一日にしたいと。

そう言ったのは自分、でも、彼はそうは思わなかったみたいで、だから、寂しくなって。

子どもみたいに拗ねて、何だか悲しくなって、そして怒りが生まれて、飛び出してしまった。

『意味が解らねぇ』
『必要じゃねぇし』
『別に興味もねぇ』

そう言葉が返されて、だから……、でも、彼は違うと言う、馬鹿は自分、アレンだと。

怒っていると言いながらも、探しに来てくれて、そして、何だか機嫌は良さ気で。

考えても意味が解らない、嫌がったのは彼、一緒に居たくないと、そう思えたのが間違い?


**********


「気付いたか?アレン」
「……うぅん、解んない」
「本当に馬鹿だな、お前は」


頬杖を突いて、前から見詰めてくる視線は優しくて、緩く笑みを浮かべる唇。

益々判らなくなる、彼の言わんとする事が、意図するその意味が、解らなくなる。


「気付けよ、馬鹿」
「……何、を」
「俺はな、お前と二人で過ごしたいんだよ」
「……ぇ、ぁ、」
「この馬鹿アレン」


くす、と、小さく笑い溢すと、彼の腕が伸ばされ、その指が下の唇をなぞる。


「付いてる」
「ぁ、」


指先を汚すカスタードクリームを、口に含んで食べてしまうその動作にどきどきする。


「何?」
「……た、食べっ、」
「お前の唇にキスしたクリームだからな。許せないから食ってやった」
「…………馬鹿」
「馬鹿はお前だろ?アレン」


足を組み換えてから、残りの珈琲を飲み干すと、彼は、じつ、と、見詰めて言葉を続けた。


「別に、クリスマスを楽しみにする事を怒ってはない」
「ぅん……」
「人と過ごすのが好きなお前だからな。それは良い。でもな、」
「でも?」
「俺より仲間を優先するのは……な、苛っとする」
「……」
「お前の誕生日、二人だけで祝いたいんだよ」
「ぁ……」
「クリスマスのご馳走の事で、頭が一杯だったんだろ。馬鹿アレン」
「……そんな、そんな、馬鹿馬鹿言わなくても……」
「馬鹿じゃねぇの?」
「……だって」
「俺に言われるまで、気付かなかったくせに」
「……ごめん、……なさ、ぃ」


「なぁ、アレン。少しで良いから、俺の為に時間を作って欲しい」
「ぅん、……作る。ユウとの……時間、を」
「忘れるなよ?……あぁ、」
「……何?」
「昼ではなくて夜が良いんだが……。まぁ、昼間に作ってくれても良いがな」
「……ぇ、……それ、は、……ぁの、」
「何?」


頬を赤らめて言い澱むアレンに、くす、と、笑いを落とすと、俯き加減なその頭を撫でる。


「アレン、お前何を考えている?」
「……ぇ、」
「誰も抱くとは言ってねぇよ」
「ぁ、え……、あのっ」
「期待に応えてやらなきゃな。誕生日プレゼントとして、望む通りにしてやるよ」
「違うっ、」


ぱっと顔を上げると、人の悪い笑みを浮かべながらも、その注がれる視線は優しくて。

否定するのが何だか憚られて、抱かれたいと思う自分が居る訳で、彼が大好きだから。


「……馬鹿」
「馬鹿はお前だろ、アレン」


**********


『意味が解らねぇ』は、ユウよりも他の人とが優先だったから。
『必要じゃねぇし』は、自惚れるなら、僕の誕生日が必要な事で。
『別に興味もねぇ』は、彼の気になる事は、僕以外には有り得ないと。

少ない言葉に隠されていた意味が、今なら解る、そして照れ臭くもあり、嬉しくて仕方がない。

こんなにも想われていて、『大事な人だ。誰よりも大切な人だ』と、言ってのける。

思い至らなかった自分が恥ずかしくて、馬鹿と言われる筈だとも思うけれど。

こんなにも、直接的に言われる事はあまりなくて、戸惑いも含みつつも、何だか擽ったい。


「ユウ……」
「ん?」
「好き」
「知ってる」


今、今どうしても伝えたくて、彼の顔をしっかりと見据えて、想いを伝えた。

体だけではなく、心も温まり、御馳走樣と告げて店を出ると、まだ雪はちらついていて。


「アレン」
「何?」


呼ばれ、つっ……、と、出された腕を、じつ、と、見詰めて、そのまま暫し考える。


「腕。早くしろ、寒いんだよ」
「……ぇ、」
「嫌なのか?」
「いや、ぇと、そうじゃなくて。だから見られた……」
「知ってる。だから何だ?」


早くしろ!な、視線に、被せて来る口調、寒いのも確かにあるのだろうが、瞳の奥には。


「性格悪……。僕で遊んでいるでしょ?」
「今更。でも好きなんだろ?」
「……馬鹿」
「馬鹿でも良いから早くしろ」


悩んだけれど、彼が引く事はないだろうし、外での腕を組む行為は魅力的で、断るのが惜しい自分も。

でも、やはり……と、臆病な自分が顔を覗かせ、押し止(トド)めようと……な、心の鬩(セメ)ぎ合い。


「あのっ、……コートは、」
「悪ぃ。お前の部屋には奴が居るからな。持って来れなかった」
「そうじゃなくて。ユウは着て来なかったの?」
「自分の?……あぁ、忘れた」
「忘れたって……、冬ですよ?」
「寒空に飛び出した、お前の事しか頭になかった」


やはりお前のコートは持って来れば……、なんて、舌打ちをしつつ呟く彼に。

何時でも自分を一番に考えてくれて、甘やかしてくれる彼に、たまに意地悪もするけれど。

言葉だけではなく、本当に大事に、大切にされているんだと、だったら……。

何を気にする必要が、他人の目や、言い訳をする等、隠す事はある筈もない。

自分を待つ、自分だけが許されるその腕に、ゆっくりと腕を絡めて繋ぎ、身を寄せた。


「今度はちゃんと見ろよ?次は来年だからな」
「うん。また来年も一緒に見てくれる?」
「迷わずに腕を組むならな」
「……っ、」


**********


落ちて来る白い結晶に、特別な聖なる飾り、愛する人との少し早いクリスマス気分。

温もりを感じ合い、互いを感じ合い、必要とする事、される事に幸を見つけて。

次の冬にもまた……、と、交わし、交わせた約束に、喜びを覚えながら、感謝を思う。

貴方と在れるこの時に、この場所に、この時代に、貴方が自分を選んでくれた事に。


「ユウ、ありがとう。ユウで良かった、愛する人がユウで……」
「俺もだ。お前以外は要らねぇからな。お前だから好いんだ、アレン」
「大好き。愛してる……」
「あぁ」
「……ユウ、」
「愛してるに決まってるだろ。馬鹿」
「馬鹿で良いですよ。……大好き、愛してる」
「……誘うな。キスしたくなるだろ」
「キスだけ?」
「……帰ったら覚えていろよ」
「うん」


勘違いと小さな行き違い、でも、そのせいで、確かめられた気持ちと、思いがけずなデートは。

日常では手に入れ難い貴重な今は、二人にとって、好いクリスマスプレゼントとなった。


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