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連綿たる経常
貴方にならば…。

負わされた任務は一人。

周りが囲まれ、目の前に広がるはAKUMA。
数は多いがレベルは高くない、大丈夫。

今までの経験と、活かした戦いをすれば良い事。


頭は澄んでいる。
やる事も解っている。
どうすれば良いか。
どうしなければ為らないか。
視界に捉えたそれに神経が集まる。
音はあれどそのざわめきしか聴こえない。
今どれだけ自分が冷静で客観的か。
澄んだ心が知っている。
冷静に、静かに。
見詰めて、動かずに。
相手を見て、自分の出方を決める。
焦る事は無い。

大丈夫。
大丈夫だから。


終われば。
指の先が微かに震え。
震え始め指が振れる。
かたかたと。
本当にかたかたと。
指先を手で、自らで握るが震える。
それに呼応か、気付いたのか。
足も、膝が。
かたかたと。
震えを寄せ揺れた。
震える手先に、指先に。
震える脚に、膝に。
ゆっくりと空気を肺に。
ゆっくりと吸い込み。
落ち着けと言う。
落ち着けと自らに言い聴かせる。

怖かったのか。
本能的に怖かったのか、自分は。
それ以外の声が耳に入らぬ程の対峙。
それが怖かったのだ。
だからこその。
本能的な震え。
この震え。

大丈夫。
もう大丈夫だから。

続く震えに、何度も深呼吸を繰り返し繰り返し。
落ち着かせる為だけの呼吸を繰り返す。
大丈夫、大丈夫だ、終わったから。
そう言葉も繰り返し、AKUMAとの戦いの終了を。
脳と心に認識させ、理解させる。
何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。
ばくばくと脈打つ心臓の鼓動がやけに耳につく。
もう、動くモノは自分しか居ないのだから。
それでも興奮の抑えが未だ効かぬ体総ては。
悲鳴を上げる事を止められずにいた。


こんなにも怖がりだっただろうか?

こんなにも死を恐れていだだろうか?

こんなにも生に執着していたであろうか?


死んで良いなんて、死ぬつもりなんて。
それは前から持ち合わせてはいない。
この道を進むと自らが決めたのだから。

だが、最近は。

いや、彼という存在が出来てから。

より貪欲に今を欲して生きている気がした。
触れ合う事に喜びを覚え、その顔に、声に。
与えられる温もりたる彼と共に居る事に。
何よりの幸せと満ち足りた時とを感じて。

「ユ…ウ、ユウ……」

呼吸の合間に名を織り混ぜて繰り返す。
大切で大事な、愛すべき彼の名を。
神に祈るように、それに近い純真たる気持ちで。
名を呼び、それを魔法の言葉とするように。
少しずつ平静に近付く自身を抱きしめる。

「大丈夫、大丈夫だから。ユウが待ってる…」

ゆっくりと瞼を下ろし、視覚を遮断する。
そこに浮かぶは想い人の優しい笑顔。

「ユウ…」

閉じた時と同様に、静かに光を取り入れる。

「大丈夫。…大丈夫」

緩やかに旋回する影が過り、羽音が耳に届く。

「ティム、おいで。ティムキャンピー」

落ち着くアレンを待っていたのか、静かに。
静かに伸ばした腕に、その胸に舞い降りる。
きぅ、と、柔らかく抱き頬を寄せる。

「ティム、…」

その先の紡ぐ言葉が出て来なかった。

「帰ろう、教団(ホーム)へ」

皆の、あの人の居る所へ、温もりの場所へ。
崩れ始め、何れは無となるAKUMA達の残骸に。
その場に祈りと謝罪を残すと歩き始める。

殺される訳には行かない、常に壊す側でなければ。

それは身勝手な事かも知れないけれど。
自分は負ける訳には行かないのだ。

この事に、負けてはならないのだ。

醜いかも知れない、綺麗事かも知れない。
生きる事への執着を貪欲に示す事は。

それでも…、そうであったとしても。

生命の干渉は、幕を引くかどうかは。
いつでも自身の手に有りたいと願う。

ただ一人、彼になら委ねても本望だが。

生きる事は奪う事、そしてまた逆も然り。
だが、奪われる訳にも奪わせる訳にも。

自分勝手な、本位な事だけれども。

この命を好きに出来るのは、彼と己。
それ以外には触れられたくは無い。

はたり、と、羽を動かしたゴーレムを放つ。
自由に空を飛ぶ姿を眺めながら。

全てを自らの自由にする難しさを思った。


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