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連綿たる経常
June. ♯2

神田お誕生日おめでとう!
読切として完結はしておりますが、昨年のJune. の続き的な話と為っております。
**********

机に肘をついて、ストローで中身を啜る。
両手で頬を支えながら、ちまちまと。
「リナリーはどうします?」
オレンジジュースを飲みながらアレンは問うた。
「そうねぇ…。いつも神田には困るのよね」
「因に今までに嬉しかったのは何ですか?」
「んー、」
手にしたカップを弄びながら少し考えて。
「兄さんのくれる物なら何でも嬉しかったわ」
そう言って笑う彼女の顔は本当に幸せそうだ。
「じゃあ、リンクは?」
「は?」
「何が嬉しかったんです?」
隣に座る己の見張り役たる監査官にも問う。
「…別に」
「内緒?」
「はい」
紅茶を口に運び、澄まし顔で取り付く島もない。
「どーしよっかなぁ、神田。…の、誕生日」
「そんなに仲良くなりたいの?」
「ぇ、…えぇ、まぁ。リナリーは神田の好きな物知ってます?」
「お蕎麦は好きよね。後は…、昔からあんな感じよ?」
「あー…。秘密、主、義…的な…語らない系?」
「まぁ、…そうね」
ちょっと眉根を寄せての困った顔、でも可愛い。
「可愛いリナリーからなら何でも嬉しいかも」
「アレンくんったら」
「だって可愛いんですもん。ね?リンク」
「そうですね。美人です…どうしました?」
「いや、うん…」
「あ、…ありがとう」

彼と幼馴染み的なリナリーなら、と、お茶をしつつ探ってみたが。
結局神田の好きな物は”蕎麦”以外には分からず仕舞いだ。
それはそれで談笑をしつつ楽しく過ごせたので満足なのだが。
リナリーと別れて、リンクと自室に向かって歩きながら溜め息を吐(ツ)く。
「そんなに神田ユウが好きなんですか?」
「んー…」
「君からなら何でも喜ぶでしょう。彼は」
そう、リンクは知っている、僕と神田の関係を。
でも、彼は何も言わず邪魔もせず、静かに見守ってくれていた。
監査官、見張りとしては許されない失態だが、それは僕達三人の秘密。
「折角なら喜ぶ物を…」
「だから、好きな人からなら何でも嬉しいんですよ」
「リンクも?」
「えぇ。ルベリエ長官から頂く物は嬉しいです」
彼の上司、リナリーの苦手な人物、だからか…と、秘密と。
「リンクって本当に優しい。優し過ぎ!」
半歩後ろを歩く彼に振り向くと、むぎゅ、と、頬っぺたを摘まんだ。
にや、と、笑いかけてから、にゅーっ、と、各々左右に軽く引いてみる。
「ひゃめっ…、ウォーカー!」
「だって何か、自分だけ大人!みたいで。…ごめん」
両手を捕まれたまま反論するが、謝りの言葉は俯いてしまった。
「大丈夫ですよ。もっと自分に自信を持った方が良い」
「ぅ…ん、」
下を向いたまま、返事を返すと、やわらかく頭を撫でられた。
「リンク…。何か…ムカツク!」
その優しさに悪態をついてみせるが、お見通しだと言うようにまた撫でられた。





「お前、何してんだよ」
「ぉわ!…は、…び、吃驚した」
ぼんやりと考え事をしながら、習慣的に脱衣をしていた為無防備で。
突如背後から掛けられた言葉に、思わず声を上げていた。
「神、田…」
「さっき監査官と何話てた?」
「さっき?」
「撫でられてんじゃ無ぇよ」
「ぁ、…うん。ごめんなさい」
珍しく風呂場での遭遇は、明るくて目の毒にしかならない。
綺麗でどきどきして、でも、今は触れられなくてちょっと悔しい。
「…何だ?」
「いや、好い体だなぁ…っ、痛っ!」
何時もは暗がりで、月があればうっすらと照らすくらいで。
見惚れるくらい罰(バチ)は当たるまい…なのに、ごつりと拳骨をくらう。
軽くだが地味に痛い、それに続く台詞は表向きな僕の呼び名。
「馬鹿モヤシが」
丁度其処へ、共同浴場なれば仕方の無い事だが…の、来訪者。
「何、また喧嘩してるんさ?」
「黙れ糞兎」
「うはー、ユウが酷いさぁ」
「それは何時もですよ、ラビ」
勘が良いと言うか、察しが良いと言うか、とりあえず感心をした。

体の洗いっこ!なんて交流がある筈も無く、各自洗浄行為に勤しむ。
髪の長い神田を残し、先に湯槽に、紅と白が目出度い色合いで浸かる。
緋色の髪を後ろに流すラビを真似て、アレンも乳白色の髪を掻き上げた。
「お。ダブルでこさ!」
「ぷっ、何ですかそれ」
吹き出しつつ問えば、えー?何と無くさ、との答えにまた笑う。
「ユウもでこ出し仲間になるさー!」
「は?いっぺん死ね」
「えー?ユウも…、あ!でこさっ」
洗い終えた髪を流し、顔に掛かる水分と髪とを払う動作に額が覗く。
「あだっ」
かこん、と、良い音がして、神田の投げた湯桶がラビに当たった。
「黙れ、糞ボケ兎が」
言いながら、ざぶり、と、湯に身を沈め、ラビ、アレン、神田と並んだ。
「もー…そんなに怒らなくても良いさぁ、あ!」
「どうしました?ラビ」
「なー、なー、アレン」
「はい?」
「お祝いカラーと葬式カラーさ!」
「は?」
「紅白が慶事で白黒が弔事」
「お前、俺に喧嘩売ってんのか?あぁ?」
「いやいやいや!そう!な!ほら!お祝い事と言えば誕生日!」
「は?意味判ん無ぇよ。やっぱ死ね!」
「いや、だからぁ。ユウの誕生日、そろそろじゃね?何か欲しい物…」
「無ぇ」
「えー、何かある…」
「黙れ」
「じゃあ、誰のプレゼントなら欲しいん…」
「要ら無ぇ」
「もー、可愛く無いんさ。なぁ?アレン」
「ぇ…あ!そう、そうですよね。可愛く無いです」
「黙れ、ダブルでこ共が」
「ユウもさ!トリプルでこさー」

ラビGJ!と思ったのに、神田本人の答えはあっさりとした物。
欲の無いのは良い事だが、そんな人が喜ぶ物なんてあるのだろうか。





益々悩まされ、悩みが増えて行くのに反比例して日付は過ぎる。
ずっと掛かり切りで悩む訳にもいかず、合間合間に考えた。
「も…拷問」
楽しい筈のプレゼント選びが、こんなに苦痛な作業になるとは。
相変わらずリンクには、悩み過ぎなんですよ、と、呆れられ。
「本当に頭痛い…」
でも、やはり喜んで欲しい、神田の気に入る物を贈りたい。
「他の人にも聞いてみようかなぁ…」
コムイさんなら珈琲豆、ジョニーなら好きそうなTシャツ、リナリーならお洒落なニーハイとか。
神田以外の人物なら、こんなにすぐ思い付くのに、即答なのに。
何故大好きな恋人だと浮かばないのか、不思議過ぎる。
一番彼の事を知っている…あぁ、そうか、と、得心した。
興味が無いと言う事を理解しているからこその想像の欠落だと。
欲しがらない相手の何が欲しいかなんて判る筈が無いではないか。
「サプライズは無理かぁ…」

結局、何も準備が出来ずに、当日を確実に迎えてしまうのが明白な自身を呪う。
おめでとうの言葉は誰よりも一番に言いたくて、夜中になる少し前にお邪魔した。
見かねたリンクが一緒に作ってくれたケーキを片手に扉を叩いて。
「さっき飯を食っただろぅが…。まだ食うのかよ」
銀盆にクロッシュを見詰めつつ、神田は呆れたように肩を竦めた。
食べ物=僕が食べる・おやつ、の、図式しか彼の中に無いのか。
まぁ、この場合は都合が良いけど…と、曖昧に笑って誤魔化した。
部屋を出たのは、その日になる15分前、ポケットに忍ばせた懐中時計で今を確認。
後数分、少し間を繋いで、おめでとうを言いながらケーキを見せて。
こそり、と、頭の中で、時計の針を追いつつシミュレーション。
1分前、30、29、28…クロッシュに右手をかけた所を押さえられた。
「何をちらちら見てやがる」
「え?!いや…っ、あっ!」
左手首を捕まれ盆が取り上げれると、それはベッドに預けられてしまった。
3、2、1…あぁ、時間が、折角タイミングを計ってたのに。
それにばかり気を取られ、気付けば左手にされる口付け…、0。
「俺にお前をくれないか?」
やわり、と、握られた手、その薬指を飾るのは銀色に輝く光のリング。
「…ぇ、」
「俺に…、お前のすべてをプレゼントして欲しい」
「ユ、…ウ……?」
「駄目か?アレン。お前を俺にくれ。その一生を」
「ぁ…、」
「アレン」
甘く名を呼ぶ声に、強い意思を宿す視線に、彼の真摯な想いを感じる。
「…っ、……は、い」
痛いくらいの抱擁と、耳に掛かる安心したような吐息に。
彼が緊張していた事を知る、何事にも心を乱さぬ冷静な君が。
「ユウ…、僕で……良いんです、か?」
「言ったろう?去年嫁に貰ってやると」
「…、ぁ」
「きちんと形にしたかったんだよ。前は口約束だったからな」
小さく耳元で落とす言葉に照れが見えた気がして、顔を動かすと。
赤く染まる耳と、少し上がった体温が感じられて嬉しくなった。
そんなにも、息も、感情も、熱も、乱す程に真剣に伝えてくれたのかと。
想いを発し、形に表し、自分に示してくれたのかと。
普段口数が少なく、起伏を見せない、落ち着き払った彼なのに。
「ね、ユウ。顔を見せて?」
「……。嫌だ」
「お願い。そしてもう一度聴かせて?お願い、ユウ」
少しの間と緩む腕、ゆっくりと放れる体に、合わさる瞳。
「顔。赤い」
「うるせぇ」
何時もなら外すなんて事は無い強い視線が、ふい、と、避けられる。
その見慣れぬ愛らしい仕草に、くすり、と、笑いを誘われて。
「何だよ」
「うぅん、何も」
一度、きぅ、と、抱き付いてから、その顔を見詰めて待つ。
「アレン」
「はい」
その先の言葉を、逃さぬ様に、一言でも取り零さぬ様に。
静かに与えられる彼からの言葉を、期待と幸せを込めた顔で。
「俺と共にこの先を歩んで欲しい。幸せにするから、必ず」
「はい。僕も、ユウを幸せにします。必ず」
目を閉じての誓いのキスを再び、また次の日に繋がる口付けを。

「愛してる」
「愛しています」

貴方とならば、貴方とだから、その先に夢を持ち現実にする。

恋人達に祝福と、幸せな未来があらん事を切に願うこの日、6月6日に。


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あきゅろす。
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