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連綿たる経常
基準点とその想いたるは。

別に好きにすればいい。

制約も押し付けもする気は無い。
ただ、夜に独占する事はあっても。
昼間何処で誰と何をしてようが。
それは自由で口を出す気もない。
手を繋ごうが、飯を食おうが、キスをしようが。
ただ、キスで感じるのは許せないか。
肉体関係時に生じる快楽の感覚を。
生み出す事さえしなければ。

特に何も、好きにすればいい。


元から人とのスキンシップの多い奴で。
人から何かを一口貰ったり、やったり。
ハグしたり、手を引いたり。
挨拶変わりのキスをしたり、されたり。
そんな事の多い奴で気にするのも。
気にした所で仕方もなく、それを含めて奴で。
付き合う前と今も変わらず好きにさせていた。
彼氏だから、俺のモノだからと。
今までの言動をいきなり制限するのも。
囲い尽くし自分だけを見詰めさせるのも。
もし、自分がこの世を去る事になった時。
遺して独りにしてしまったとしたら。
誰も何も頼れず縋れないのは。
酷な事だから、寄り添える存在は。
他にもある方が良いと思っているから。
いきなりの喪失と、突然の孤独は。
誰かに手を差し伸べて貰わねば。
耐えられない事も有るだろうから。
奴は優しすぎるから、強いけれど。
日頃何処と何の関わりもなく生きていれば。
もしもの時に誰も残らない。
周りに居ない事になってしまうから。
だからこその自由で必要な事だと。

でも、それは奴にとっては怒りの矛先で。
自分に興味が無いのかと泣かれ。
口を効いて貰えずに既に幾日か過ぎ。
でも、今更、と、何も言わずに。
変わらずに日を送っていた。

基本は互いに好きにすれば良い。


視界の先には食事を摂る奴と数人。
こちら向きの席に居るため顔が見えた。
時折視線を感じるも、合わせる事はしない。
それが日常で、付き合う前からの通常だから。
黙々と食事を済ませ、そのまま席を立つ。
でも、少しだけ奴の顔を視野に納めた。
奴と目線が合うも、何も無く終わる。
少しだけ、少し…瞳が潤んでいる気がした。



自室のベッドに背から倒れ込む。
柔らかく若干の体の浮き沈みを感じた。
天井を見たままにぼんやりと考える。

「…どうしろと」

付き合うと言い、付き合い初め。
キスをし、体を求め重ねた。
あんなにも…な、犬猿の仲は無くなり。
でも、同性である為に公言もせず。
そのままの仲の悪さを変わらずに装い。
ひそり、と、恋を育み…育んで来れていたか?

「好き、だよな…、」

希薄な他人への興味、寧ろ皆無。
領域に踏み込まれるのも好まない。
勿論、人に踏み込む事も無い。
自分が持ち得ていたのは使命においての仕事。
それが生きる意味で生きる証。
それが全てでそれだけだった。
だから、奴をこの部屋に入れるのは。
奴の滞在を許し会話をするのは。
懐に入れ、特別であると言う事で。
あぁ…、気付いた、そうなのか。
それが相手には伝わらない。
上手く伝わっていないこその衝突。

「…馬鹿だな、俺は」

人当たりの良い物腰とは裏腹で強情。
このままでは平行線か、自然消滅か。
それはそれで仕方の無い事だが。
奴の居ないこの部屋が寂しく感じた。
半身を起こすと、溜め息を一つ。
きしり、と、寝台を泣かせ部屋を出た。



暗黙の了解的に奴の部屋を訪れる事は無い。
監査官と言う見張りが付いているから。
その目を盗んで奴は俺に会いに来るから。
探し歩くのよりも…と、確率の高そうな所から。
扉の前でノックをして応答を待つ。
違う、いつもとは違う、取り繕うような返事。
ただ一言の はい だけれども様子の異なる声。
もう一度声を掛けずにドアを叩いた。
「どな、た…」
名乗らねば開けるしか無いだろうと。
予想通りにそこは無防備に開かれた。
扉に手をかけ隙間に足を入れて。
逃がさないように入り口を確保した。
驚き閉めようとする奴より早く。
「話、…あんだろ。言え」
「…、」
「ちゃんと言えよ。俺も言うから」
「………どう、ぞ」
「一人か?」
「…はぃ」
「泣いてたのか?」
顎に手をかけて上を向かせるが、赤くなった目を反らし。
「泣くな」
その手で奴の髪をかき混ぜると室内に入った。

はじめて踏み入れたそこには生活感が溢れ。
奴とそれ以外の匂いがした。
何もない自室とは違い温かい。
温度ではなく、空気も主人に似て優しく。
何と無く落ち着く雰囲気に包まれていて。
「お前の部屋らしいな、アレン」
「…そぅ、かな」
「二人部屋はどうなんだ?」
「リンク…と、は…、上手く…行ってます」
「そうか」
「神田…」
「あ?」
勧められた椅子に腰を下ろすと。
目の前にはグラスが置かれた。
「良ければ…、どうぞ」
「貰う」
前の席に座り奴もそれを口に運ぶ。
「何ビクついてやがる」
「…別に、」
膝の上で飲み物を握ったまま目を合わさずに。
「別れ話を言いに来たとでも?」
「……」
「違ぇよ。お前が好きだ、アレン」
「…神田」
ぱっと、顔が上げられその目と合う。
「別に伊達や酔狂で告白した訳じゃ無ぇ」
「……」
「お前には関心を持っている。好きだからな」
「でもっ、……」
「何だ?言えよ。解るように言え」
「……」
再び視線は下に向けられ、口が引き結ばれる。
「嫌なら嫌で別れてやる。だが、先ずは言え、話せよ」
「ぅん、…」
「アレン。お前はどうされたい?何を望む?」
「何、…って、」
揺らぐ瞳を見せない為か、未だ液体を見詰めて。
「俺はお前を縛る気は無い。今までのお前を見て好きになった」
「ん、」
「変わる必要も変える必要も無い。全て含めてお前だから」
「…ん」
「今まで通りで良い。だから何も言わない、必要が無いから」
「ぅ、ん」
「で、お前は何が不満だ?俺にどうして欲しい?」
「…、」
「アレン」
ゆっくりと顔が上げられしっかりと目を合わせて。
「神田に、…もっと、」
「もっと?」
「構って、…欲しい」
「後は?」
「僕…を、…見て、欲し…い」
「あぁ」
「二人だけど、独りな気が…して、寂しい…」
「解った」
「…呆れ、た?我が儘…で……」
不安げに揺れるその双眸には零れそうな水滴。
「何故?お前の素直な気持ちが聴けて嬉しいが?」
「神田…」
「俺は人に接するのが苦手だ。察するのも」
「ぅん」
「言いたい事は口に出せ。抱え込むな、俺の答えを勝手に出すな」
「はぃ…」
「俺はお前が好きだ。だから部屋にも入れるし、抱きもする」
「…ん」
「お前だけだ。部屋に入れるのは、な」
「ぇ、…」
「お前以外は誰も入れた事は無い。それに、」
「それ、に?」
「お前以外は必要無いからな、俺には」
「…か、ん…だ」
溜まり耐えていた水の欠片がひとつ落ちる。
「性格は直ら無ぇが、お前が望むなら努力はする」
「うん、」
「お前を一番大切に想っている、アレン。信じろ、俺を」
「…神田」
連なる水は涙となり頬を伝い流れ続け。
「それから”ユウ”だ。二人の時は名で呼べ」
「いい、…の?」
「嫌なら呼ぶ…」
「ユウッ!」
手放したグラスが床に液体を散らかして転がる。
想いを吐き出した主の真似をするように。
「アレン…」
「ユ、ウ…、ごめんなさい」
「いや、俺も悪かった。すまなかったな、アレン」
飛び込む体を優しく受け止めて抱きしめる。
「でも…」
「ん?」
「ハグとか…いいの?他の…」
「そうやってお前が作って来た大事な人間関係で歴史だ」
「…ん、」
「言ったろ?お前はそれでいい。ただし、」
「何?」
その耳元に口を寄せると、こそり、と、低く伝えた。
「ヨがる姿は俺以外に見せるなよ」
「馬鹿っ!」
距離を取ろうとしたその腰を抱き止めて顔を見る。
頬を紅染め潤んだ瞳の愛しい恋人に。
「愛してるよ、アレン」
「神…田…」
「違う、ユウだ。アレンは愛して無いのか?」
「愛し…て、る…ユウ」
優しく微笑むとその頬に触れるだけのキスを。
「愛してる、アレン」
「ユウ…愛しています」
引かれ繋がる唇に新たなる誓いを込めて。


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