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story
2



俺はナミに言われた通りに食材をキッチンに移した。
まだ次の島に着くのに何日掛かるのかわからないのか、食料庫はだいぶ寂しくなってきた。
俺がさっき上げた食材を差し引いたらだいぶ寂しい事になっている。
コックが聞いたら卒倒するだろう。ナミも必死にやり繰りをしているんだろうなと思った。
俺はキッチンに食材を置くと、ナミが作った粥の鍋の蓋を開けてみた。
もう大丈夫だろ。
そのまま火を止めてお盆に鍋を乗せると男部屋まで持って行った。



部屋に戻るとコックが起き上がっているのが見える。

「起きたのか。ほら、ナミが粥…」

俺は言いかけて言葉を詰まらせた。
コックが泣いていたからだ。

「…どうした」

あまりの事に咄嗟に聞いてしまった。
コックは驚いた様に俺を見る。
俺と目があった瞬間に、またボロボロと涙を零し始めた。

「だ、だれも…居なくて…っ…」

コックは、溢れ出す涙を止める事もせずに流していた。
しゃくりあげる言葉の隙間で話をする。

「ひ、っ…ひとり、かと…っ…。誰も…っ…居なくて…」

俺は傍まで行ってラックにお盆を置くとそのまま目の前の椅子に座った。

「お前が…っ、さっきまで…いた、から…っ」
「おう、悪りぃ。ナミに頼まれ事されてな」
「…っはぁ、……っ…」

コックは俯いて嗚咽を漏らす。
俺は黙ってコックの震える肩を見ていた。



お前の中には今何があるんだ?
俺で何かできるのか。
お前は、何を求める…。






「何か腹に入れろ」

俺は鍋の蓋を開けて取り皿に粥を入れて手渡してやった。
コックは素直にそれを受け取り、力なく口に運んだ。
伏し目がちなこいつの目を見ると、真っ赤になっている。
結構一緒に航海を続けているが、こんな事初めてだった。
まぁ風邪なんて今まで引いたことねぇから知らなかったんだが、
普段弱みなんて1番見せない間柄だ。お前が弱いなんて思った事ねぇけど、
今のお前は、お前の本当に弱い所が出てんのか?
俺は正直何だか複雑だ。

コックは取り皿の中の粥を何とか食べ終わると、皿をラックに戻した。
俺はその皿にまた粥をついで渡してやる。
コックはもういらない様だったが、性分が残すことを許さないらしく、皿を受け取ってまた食べ始めた。
何度かそのやり取りを繰り返す。
食べてる最中もコックの目は赤いままだった。

「薬飲めよ」

俺は続けてコックに薬と水を渡す。
コックは素直にそれを受け取るとグイッと飲み干した。
これでだいぶマシになればいいが。
俺はコックからグラスを受け取ると、そのまま寝ろと促した。
コックは少し不安そうな表情を浮かべるが、とにかく寝ろと言う俺の言葉に従った。
横になったコックにきちんと掛け布団を掛けてやる。
コックはそんな俺をずっと見ていた。
俺の一挙一動を見つめてくる。そんなにみても何もでねぇぞと思ったが、気にせずに椅子に座りなおした。

「薬も飲んだし、飯も食った。これでだいぶ楽になるだろ」

俺が言うとコックは、はっと小さく笑った。

「マリモが献身的な看護か」
「うるせぇ、早く寝ろ」

コックは俺の言葉を聞くと瞼を閉じた。
俺は少し息を吐く。
これで大丈夫か?
こいつが寝息を立てるまでじっと黙って見ていようと思った。
するとコックがふと目を開けて俺を見つめて来た。
小さく唇が開かれる。

「なぁ、ゾロ。」
「?」
「頼むから…、お前はそこに居てくれよな…」
「……」
「せめて、俺が寝入るまで…でいいから…」

コックは眉を顰め、縋るような目で俺を見て、布団の端から手を出して俺の方まで伸ばしてくる。
俺はその手を迷わず握り返した。

「ああ、居る」

コックは俺の手をきゅと握ると、安心したのか、表情を緩めて優しく目を閉じた。
俺は手を繋いだままコックの眠りを見守る。

こんなこいつは初めてだ。
俺で大丈夫なのか?
お前が言った言葉の意味は?
俺はそれに自惚れてもいいのか?

心が波立った。


俺は立ち上がり、コックに近づくと、閉じられた瞼に唇を寄せた。
奴の薄い瞼に触れた瞬間、肌は思っていたより冷たく感じる。
だが、その瞬間に俺は自分の唇の熱さに驚いた。
繋いだコックの手は、また思っていたよりも冷たい。
俺の方が熱があるみたいだ。
唇を瞼からコックの口へと移動させる。
啄ばむ様に繰り返して辿りついたコックの唇は熱かった。

「サンジ…」

ちゅ、と口付けを落とすと、思っていたよりもしっくりと来た。
何だろうこの感覚は。
俺の中で芽生えた気持ちは、俺自身不可解だったが、しかし確実に言える事だった。



コックが好きだ。





弱ったお前のそばに、なぜ俺が居座っているのか。
お前がいった献身的な看護は、なぜなのか。
お前は気づいているか?
毎日喧嘩する日々の中で、不可解に芽生えた俺の感情は…
お前には一生話す事のないと思っていたこの言葉の正体は…
俺は今、一生する事はないと思っていたこの行動を…
お前にしてしまった。
起きてるか?寝てて気づかないか?
どちらにせよ俺の気持ちはもう抑えられない。
お前に言ってしまう。



サンジ、好きだ。






俺は、サンジの唇から己の唇を離し、そのまま掛け布団ごと体を抱きしめた。
ぎゅっと。
サンジは起きないが、俺はそれでも良かった。
起きても良かったし、気づかれても良かった。
ああ、でも拒否されるのは覚悟が出来ててもやっぱり嫌だな。
俺はもう一度サンジにキスをした。

早く目覚めたらいい。お前に伝えたい。
俺の気持ちは止まらない。

お前が泣いていた理由も、
見ていた変な夢も、
全部ひっくるめて抱きしめてやる。
むしろ抱きしめさせろ。


俺は再びサンジの頭を優しくポンポンと叩くと、椅子に座り直して眠るサンジを見つめた。

繋いだ手は、離せないでいた。
















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