story
馴れ初め物。まどろっこしい2人
「来るな」
暗闇の中で薄っすらと浮かび上がる金髪が言った。
俺はその声を無視して、目の前の男の身体を右手で掴んだ。
誰が逃がすものか。お前は俺の物だ…
【想う】
「あっ…!あっ…やだやだ、ぞろ…っ!」
「何が嫌なんだッ…、こんなにぐちゃぐちゃにしやがって…ッ」
「やッ…!いう…っな…!アッ…アッ…」
目の前の金髪を片手で床に押さえ付けながらガンガン腰を振る。
腰を動かす度に鳴くこいつは俺の欲情を煽りに煽ってくる。
口では嫌だ嫌だという癖に、組み敷いてやると簡単に身体を開くのだ。
浅はかな男に初めは苛立ちもしたが、やたらと感じる視線の意味に気づいた時に俺の頭はそれでいっぱいになってしまった。
こいつの口から早く聞きたい。身体は繋がる事になんの疑問も感じていないのに、心と言葉はいつもしっちゃかめっちゃかだった。
事情の時のコックとそれ以外の時のコックはまるで別人だ。
あんな風に乱れてヨがる奴を見て少しでも自分の事を好きなのではないかと思わない奴は居ないだろう。
俺もまんまとそれに当てられたのだが、実は俺は知っている。
普段のこいつから向けられるの視線の意味を、その視線から感じる感情の意味を。
初めはただ睨まれてんだと思った。
だから良く喧嘩をしていた。
向こうも憎まれ口を叩いて来るし、なんの疑いもなく殴り合いをした。
でもある日、あいつに言われた言葉で俺たちの関係は一変した。
「ゾロ。やらねぇか?」
ぐる眉のアホコックはいつに無く真剣に俺をみて、それが冗談なんかじゃないのだと思い知らされた。
本気で言ってんのか?とか、やるって言われた事がどれの事なのか認識はお互い合ってんだろうなとか思ったが、
問われた俺の返事は、言葉よりも先に既に奴の肩に触れてしまっていた。
そのまま雪崩れ込む様に押し倒して覆いかぶさった俺は、コックの予想外の艶かしさに本能を煽られ、気づけば腰をガンガンに振りまくった。
それからは例のごとく、クルーの目を盗み幾度となく陸奥あっている。
でもいつもコックは、他のクルーが居なくなった場所や、俺がそういう態度で近寄って行くと「来るな」「触るな」という。
それが鬱陶しくて、なんでだと問うがいつも曖昧な事しか言わない。
だんだん俺も苛立ち始めて、今こういうある。
「来るな」
真っ暗なラウンジに僅かばかりの月の光が差し込んでいる。
それで辛うじて見える白く浮いた金髪は、ラウンジの扉を開けて入った俺を背中で感じるなりそう言った。
「来るなゾロ。俺はお前とはもうやらねぇ」
シンクの前で赤い光がポツリと浮いているのが見える。
そこでタバコを吸ってやがるんだな。
俺はコックの言葉を無視して足を進めた。
「来るなゾロ」
コックは俺を制止しようとするが、俺は無視した。
コックのすぐ後ろまで歩みを進め、手の届く距離までくるとそこで立ち止まった。
「あっち行け、クソまりも」
「嫌だ」
「あっち行けっつってんだろうが」
「嫌だっつってんだろうが」
コックは振り向かない。ずっと背中を向けたままだ。
早くこっちを向けばいい。俺を見るお前のその目が、俺を熱くさせる。
早く、その縋る様な目で俺を見ればいい。
俺は、目の前のコックの腕を引っ張ると無理やり此方を向かせた。
振り向いたコックの顔は見えない。小さな赤い光が宙を揺らめいて俺の目の前で止まった。
「何だよ、触んな変態野郎」
「ふざけんな淫乱が」
そういうと突然俺の腹に鈍痛が走った。
途端に、俺の身体はラウンジの端まで派手に吹き飛んだ。
どうやらコックに蹴られた様だ。
「お前がふざけんな変態まりも!誰に向かってそんな事抜かしてやがる!!」
壁に凭れてうな垂れた俺の耳に、奴の声だけが届く。
怒ってやがる。
俺は立ち上がるとまたコックの元まで歩みを進めた。
「何だってんだ!クソコック!ガタガタ喚くな!何で近寄っちゃ行けねぇ!」
「うるせぇ!嫌だって言ってんだろ!何でわかんねんだ!馬鹿野郎!」
「分かるか!ボケ!ちゃんと言え!」
「言えるか!!」
俺たちは手探りでお互いの胸ぐらを掴み合った。何にも見えないので多分至る所を叩きながら。
胸ぐらを掴んだ瞬間そのまま頭をぶつけて至近距離で喚き合う。
よっぽどこのまま押し倒してやろうかと思って、掴んだ胸ぐらを力任せに押し引きするが、流石にこいつもやわでは無く、芯はしっかりしていてブレもしなかった。
「何が言いたいのかはっきりしやがれ」
俺がドスを効かせて言った言葉に舌打ちをされる。ヒビっているなんて事はないが、バツが悪そうだ。
「嫌だ言いたくねぇ」
「ふざけんな」
「死んでも言わねぇ」
「じゃあ死ね」
そう言うとコックの足を足払いしてそのまま掴んだ胸ぐらを力任せに手前へと引っ張る。身を翻して屈めて、奴を背中に背負うとそのまま一本背負いをしてやった。
派手な音を立てて床に倒れこんだコックは小さく呻き声を上げる。
俺はそのまま仰向けに倒れこんだコックの上に跨り、身を押さえ込んだ。
「ッ…離せ!!クソまりも!」
暴れるコックを暫く眺めてやった。
大分暗闇にも慣れて来て奴の顔も見えて来た。
悔しそうな顔してやがる。俺に投げ飛ばされたのが相当気に食わないらしい。
しかし、そんな悔しそうな瞳の奥に揺らめくのは何かの期待のような気がした。
「いいから黙って言う事を聞け。」
「てっめ!ふざけんな!」
俺はゆっくりとコックに顔を近づけて行った。
するとまた腹に鈍い痛みが走る。また蹴られたらしい。
いつの間にか俺の制止をすり抜けて片足を自由にしていた様だ。
俺はまた吹き飛ばされた。
「っ…!」
「はぁ、はぁ、はぁ、クソまりも…思い知ったか」
「お前も強情な奴だな…、」
「お前はしつこい…」
俺たちは離れた所でお互いを見やった。
乱れた衣類が、以外と激しい取っ組み合いを繰り広げて居るのだと自覚させられる。
コックのジャケットの裾からだらしなくシャツがはみ出ていて、襟もヨレヨレだ。
もしかしたら幾つかボタンが無いかも知れない。またどやされるなと思ったが、そんな事でどやされる事よりももっと重要な事が俺の中にあるのでそれはどうでも良かった。
「おい、クソコック。俺ぁ絶対に諦めたりしねぇからな、何度でも聞くぞ。だから今のうちに言っとけ」
「何をだ!クソ野郎!」
「お前が思ってる事をだ」
「だから死んでも言わねぇって言っただろうが!馬鹿か!お前!」
コックが苛立ちながら新しいタバコに火を点けた。
一瞬擦って点いたマッチの炎はコックの顔と金髪を照らしだす。
ああ、それだ…。
たまんねぇと思う。お前の怒った顔ですら何だか愛しいと思うのは、俺がお前を自分の物にしてしまいたいと思うからだ。
だから早く言え。俺がお前を飲み込んで何も言わせないまま抱く事が無いようにする為に。
「言え。」
「…ふざけんな。しつけぇ」
「早く。」
「うるせぇ、死ね」
「じゃあ良いんだな」
言うと俺はコックの元まで走り寄り、そのままコックの胸ぐらを掴み壁まで押して行った。
成すがままのコックは胸ぐらを掴まれて少し浮き上がった体を俺に引きずられながら壁に叩き付けられた。
「いって…!」
「だから言ったろ、今のうちに言っとけってな」
「なんの話だ…ッ」
「俺ぁもう止まらねぇぞ」
俺はコックのジャケットを荒々しい手つきで剥ぎ取る。シャツもボタンなんか煩わしくて一つずつなんて外してられなかったので左右に引っ張って破いてやった。
「まっ!待てゾロ!!やめろ!!」
「待たねぇ。俺はチャンスはやった。逃したのはてめぇだ」
「嫌だゾロ!もうしねんだ!お前とは!」
「じゃあ誰とすんだ!ルフィか?!ウソップか?!チョッパーか?!ふざけんな!!!」
ヂュと首筋に噛み付く様にキスをしてやった。
痕を残せばお前が俺の物の様な気がしたんだ。
誰にも渡さねぇ。俺だけのもんだ。だから早く言え。
今ならギリギリ間に合う気がする。俺の理性を少しでも戻して、お前の言葉を聞かせてくれ。
「違ッ…!俺はもう沢山なんだ!!」
コックは絞り出す様に言った。
沢山?何がだ…。
「俺は…馬鹿だった…、ちょっとでも期待して、浅はかな態度をとった…」
コックは顔を逸らして続ける。聞こえて来る声は震えていた。
「間違ってたんだ…。だから終わりにする…。お前とはやらねぇ…」
そう言うとコックは力無く俺の体を押し返し、よろよろと離れて行く。
俺は今、確信を突けているか?お前が今言って居る事は俺の確信と合っているか?
俺はうな垂れてシンクに向かうコックの背中を見つめた。
すぐ後を追う。
「来るな、ゾロ」
またコックは言った。
「俺は、終わると分かり切っている始まりを始める気はねぇ」
「…、どう言う意味だ?」
コックは深くため息をついて続ける。
「俺はお前が好きだ…。正直死ぬ程にな。…でもそんなの叶わねぇ話だ。分かり切ってる。そんな不毛な始まりを始める気はねぇって事だ。」
「何でダメなんだ。」
コックが振り返る。合った瞳はキラキラと光っていた。
よく見たら濡れている様だ。
コックは泣いている様だった。
「何で泣く」
「泣いてねぇよ」
「何でダメなんだ」
コックは唯一露出している右目を隠す様に背けて俺に顔の左側を見せた、そして唇をギリと噛んだ。
「不毛だって言ってるじゃねぇか」
「俺の言葉をお前は聞いたのか」
コックがピタリと止まる。
「お前は俺に確認もしねぇで俺の気持ちを決めつけるのか。」
「ッ…だ、だって…!」
「ひでぇ奴だなお前は」
「違ッ!待てよ!お前!」
コックは再び俺と目を合わせると焦りの表情を浮かべて居た。
ニヤリと笑う俺をみてハッとすると一気に顔に血が上るのが見て取れる。
まるで毛を逆立てて怒る猫の様だった。
「言えよ、サンジ」
俺が名前を呼んでやるとビクリと肩を竦める金髪は、ワナワナと体を震わせている。
見ていて面白い事この上ない。
「…っとに………お前と言う奴は…!ずりぃぞゾロ!!こんな時に名前呼ぶな!!」
「こんな時に呼ばなくていつ呼ぶんだ」
俺はニヤリと笑ったまま再びコックに近寄る。
「来るな」
コックは未だに来るなと言うが、もう止まらねぇ。
絶対に掴んでやる。お前の全てを…今すぐに。
「来るなよゾロ」
「言えよサンジ」
躙り寄る俺に、コックは後退りしているが俺は歩みを止めないで前へと進む。
もう目の前に、手の届く距離にコックは居る。
「言え、早く。」
「な、何を…」
「お前ぶっ飛ばすぞ」
「嫌だって言ってんだろ!」
「言え、手ぇ出してなし崩しになってる時に聞いても信じられねぇからシラフの今言え。」
コックがギョッとした顔をする。
「おっ前…こそぶっ飛ばすぞ!勝手な事言うな!」
「じゃあいい、もういい。悩むなら今まで散々やって来た筈だ、特にお前は。俺だって考えた。お前の事だって見てたから分かるぞ。お前は考えてたろ。その結果を今聞いてんだ。それでも言わねぇってんならもういい、もう待たねぇ」
コックは俺の言葉を聞いて唖然としていた。
驚いただろうな、お前は人の事は人一倍見てる癖に自分の事は以外と見てなくて見られてると思ってねぇんだから。
「ちょっ…!待て、ゾロ」
「もう待たねぇ。最後にもう一回だけチャンスをやる、それでも言わねぇならもういい」
「何を…っ」
「言え、サンジ」
「ちょっと待ってくれ…っ」
「待たねぇ、俺は充分待った。」
コックが時間を掛けてぐるぐるぐるぐる百面相しながら考えている事をいつ言ってくるのかと。俺は充分に待ったんだ。
「頼むゾロ…」
「嫌だ。言え」
「ゾロ…っ」
遂にコックは俯いてしまった。
俺はこんな風にお前を追い詰めている事も、こんな言い草で詰め寄っている事も何も謝らねぇぞ。
俺は悪くない。だってけしかけて俺をその気にさせたのはお前だ。責任とるのはお前の筈だろ?
「サンジ」
名前を呼ぶだけでうな垂れたコックの肩は嘘の様にビクリと震えた。
俺が好きな癖に。そうやって嬉しさを隠せないくせに。
何を言ってやればお前が素直になれるのかは俺だって気づいているが、俺はそれを絶対に言ってやらない。
お前から聞くまでは絶対に。
「サンジ」
「…!!…、やめろ…」
名前を呼んで、肩を掴んでやった。
シャツとジャケットを纏っているのに伝わる体温は馬鹿みたいに熱い。
早くその体温に触れさせろ。そして俺をドロドロに溶かしてくれ。
「サンジ……」
「っ!……や、めろ…」
サンジから嗚咽が漏れた。顔が真っ赤だ。掴んだ肩が震えている。
「やっぱ泣いてんじゃねぇか」
「…っく…、っ…」
サンジの金髪の隙間から、ボロボロと涙が零れて伝って居るのが見えた。
肩を掴んでいた手を少し緩めて、そのまま少し撫でてやる。
り上げる度に揺れる肩を少しずつ…。
俺は待った。今が大事な時だ。
こいつがどうするのか、どちらを選ぶのかの瀬戸際なんだ。
今答えを出すのなら何時間だって待ってやる。
俺から逃れる様に身を固めていたサンジだったが、肩を撫でているうちに段々と和らいで来た様だった。
「サンジ…、言えよ…」
ゆっくりと、落ち着ける様に言ってやる。
すると、サンジが消え入りそうな声で言った。
「………ゾロ…、っ………好きだ………」
俺はその言葉を聞くなり、目の前でうな垂れて小さく小さくなっていたサンジを掻き抱いた。
サンジが少し呻いた。
背中に腕を回してぎゅっ、と抱きしめる。
これ以上は無いのに、身がひとつになれば良いのにと、ひとつの身体になれれば良いのにと、俺は腕に力を込めた。
自分で言うのも何だが、馬鹿力の俺にそんな風に抱きしめられて苦しくない訳はないのだが、サンジはそっと俺の背中に腕を回してきた。
俺の気持ちは伝わってるか?クソコック。
こんなにもお前が愛しい…
「ゾロ…っ……、好きだ」
耳元で今度ははっきりと聞こえた。
サンジの声で、俺の名前を呼んで。
「サンジ…、俺も好きだ」
俺の肩にサンジが顔を押し付けている。そこがジワリと熱くなった。
また泣いてんなこいつ。
「お前泣き虫だな」
からかう様に言ってやるとサンジは顔を上げないまま肩口でふふっと笑った
。
「ふざけんなクソまりも」
ちょっと戯れるみたいな口調だ。
俺も知らず知らずのうちににやけていた。
「ふざけんなはお前だ、やっと言いやがって、どんだけ待たせんだ」
「うるせぇ…」
「ぜってぇ離さねぇから覚悟しとけよ」
言いながら俺はまたぎゅっとサンジを抱きしめる。
「ふん!お前こそ、もし嘘ついたら跡形もなくミンチにして海に捨ててやるから覚悟しろよ」
「望む所だ」
絶対離すもんか、やっと手に入れた。
これからのお前との未来を想う。
覚悟しておけクソコック
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