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ピンチの時こそ冷静に相手のミスを誘う玲司のプレーに、部員は何度となく救われてきた。
まぁ、多少の我儘は多めに見ようというところ――が、いつしか不機嫌な態度自体に慣れてしまった、というのが一番正しい。
「玲司、鍵」
「へ?」
エレベーターが地下で止まると、遠野が手をひらひらとさせて当然のように車の鍵を要求した。
「行きは俺が運転する」
「え、でも…」
「機嫌悪い時のお前の運転は怖いからなぁ。せっかくの仕事明けに、病院に戻りたくはないだろ?」
「………」
「ほら!」
ニヤリと笑う遠野に、
「別に…機嫌悪くは…」
玲司はしぶしぶ鍵を渡した。
軽くスピード狂の玲司は、不機嫌な時激しく運転が荒い。
遠野は一度死ぬ思いをしてから、二度と乗らないと決めた。
「お前の別には信用ならん」
遠野が運転席に座り、エンジンをかける。
玲司は大人しく助手席に乗り込んでシートベルトを絞めた。
「……」
玲司は助手席で、手持ち無沙汰から煙草に火を点けた。
と、
「一本くれ」
「ちょっ…」
遠野の手がその煙草を玲司の口から奪う。
火が点いている煙草を遠野はそのまま吸うと、ふぅ〜っと細く煙を吐いた。
「……ったく」
玲司は仕方なくまた、もう一本新しく煙草を口に咥えた。
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