: 望が空気を察したように渉を見上げる。 渉はバツ悪そうに頭を掻いて、高寛を見つめた。 が、 「――わかりました」 「ギャラ交渉は振ってくれて構わないから」 「はい」 高寛は背を向けたきり、渉を見ようとはしない。 その背中は、怒りというよりも落胆に見えた。 「――まぁ、そんなとこかな」 「あ、じゃ、すいません、竜樹先輩。その資料お借り出来ますか?」 「いいけど…」 「覚え切らないんで、コピーしてきます」 思い出したように仕事の顔に変わる高寛。 そこには、取り付く島はない。 「あ、じゃあ、ついでに古賀先生から職案もらってきてくれるかな?」 「はい」 「たぶん、職員室にいらっしゃるから」 「わかりました。いってきます」 高寛は、怖いくらい冷静に微笑んで生徒会室を出ていった。 「いってらっしゃい」 パタン…。 「……な〜ん、のんた〜ん!古賀んとこやったら、ジブン行ったらええやんか〜?折角ラブラブやのに」 静かになった部屋の中で、渉が机に肘を突いてつまらなさそうにボヤいた。 「そんなこと、今はどうでもいい。それより」 望が怖い顔をしてギロッと渉を振り返る。 いつも温厚な人ほど、怒ると怖いもので…。 「高寛に何したの?」 「……」 渉はバツ悪そうに苦笑いを浮かべた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |