: 高寛は伏し目がちに小さく頷くと、ネクタイのお礼を言ってドアに手をかけた。 「いってらっしゃい」 「いってきます」 優しい笑顔に見送られて部屋を出るのは、正直悪い気分じゃないと思う。 これほどの少年をフッた男が、少し贅沢にさえ思えた。 バタンッ… 「…幸せ、ね」 そして、失恋してもなお、あんな風に微笑むことが出来る卓の強さが、心底羨ましいと思った。 強いから、優しい。 誰かを思い遣る余裕なんて、今の高寛にはなかったのかもしれない。 高寛は今まで『可愛い』と言われる自分の容姿に煩わしさこそ感じたが、一度だって得に思ったことなんてなかった。 もうすぐ17歳になろうというのに、幼い顔立ち、華奢な体格。 この見た目のせいで、何度痛い目にあってきたか。 その度に傷が増えて…。 『人を見た目で判断してはいけない』――それはきっと、人が見た目で判断する生き物だから生まれた言葉。 『そういうコ』だと勝手に判断される自分に自棄になって、わざと『そういうコ』になって見せたりもした。 反動のように真っ直ぐに堕ちて、コンプレックスを売り物にして制裁のように自分を陥れた。 良いとか悪いとかじゃなく、そこにしか自分の居場所を見つけられなかったから。 最近やっと落ち着いたというのに…。 それなのに…。 あの関西弁はあろうことか付きまとう。 軽々しく『好きだ』と口にした、あの日からもうずっと…。 今更、そんな言葉を信じられる訳がない。 そんな言葉を盲目に信じるには、染み付いたコンプレックスが強すぎる。 「バカだな…」 高寛は眩しく光る空を一瞥すると、足早に生徒会室へと歩を進めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |