: 美咲は部屋の扉に手をかけると、早口にそう言って部屋を出ていった。 バタン… 「…………」 真咲は静かになった部屋で、一人、手紙を見つめていた。 ――懐かしい…。 そう感じるほどの時間は過ぎていないのに、何故か無性にそう思った。 見慣れた政士の達筆。 『字は心を表すって言うだろ?』 『つか、結局パソコンでまとめんだろ?』 『あはは、嫌な事言うな?お前は』 交してきた何でもない日常が、何故かひどく遠くに聞こえる。 「…政士」 もう、その声は答えない。 「……」 真咲は手紙を握り締めたまま、ポッカリと口を開けた悠の部屋を見つめた。 政士のいた部屋。 もう、いない部屋。 時間は止まらない。 少しずつ。 今は過ぎていく。 秒針が刻む一秒ごとに、少しずつ。 曖昧なのに確実に、何かが変わっていく。 真咲は部屋に響く秒針に目を閉じかけて、 「…つか、7時だと!?マジにかっ!?」 はっと我に返った。 「――じゃねぇ!7時半じゃねぇかよ!?美咲っ、ちっくしょ〜っっ!!」 真咲は手紙と時計を交互に見遣ると、訳のわからない八つ当たりを美咲にぶつけて、とにもかくにも自室へと飛び込んだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |