: こんなに綺麗な景色の中にいるのに、さっきから鬱屈とした胸の曇天は晴れ間を見ない。 理由なんて明白で、わざわざ考え込んで認識することさえ煩わしい。 我ながらガキくさいとわかっていても、どうしても大地が許せなかった。 望を可愛いと言った事実は、最早どうでもいい。 実際、玲司だって可愛いと思ったし、自分自身がああなるキャラクターでもなければ、立場でないこともわかっている。 ああでありたいとも別に思わない。 望が媚びているとは思わないが、恋人の前で可愛く振る舞うことに意味があるとは思えない。 否、望は振る舞っている訳じゃないからこそ、可愛く映るのかもしれない。 心の底から相手を愛しいと想うその気持ちが、全身から溢れ出すからこそ…。 それを大地に理解しろと言った所で仕方がない。 脳みそ筋肉のようなバスケ馬鹿だ。 ただ、そんな繕いやアクションなんかじゃなくて…――傍にいることに安心出来るような。 下手に媚びることじゃなくて、自然体、そのままでわかって欲しいと思う。 唯一、大地にだけは。 「……乙女か、俺は」 玲司は小さく苦笑して灰皿に煙草を揉み消すと、急勾配を一気に勢いよく滑り出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |