: 夏が来る度に、沸き上がる焦燥感が竜樹を狂わせる。 和也は何も言わない。 ただ、傍にいる。 その優しい受諾が、竜樹にとっては他の何よりも胸を締め付ける。 かといって、自らそれを断ち切る強さは竜樹にはない。 苦しいのに、手を放せない。 それは、あの早過ぎた夏のせい。 竜樹はあれからずっと、『真実』に目を伏せている。 何かに執着するにはどうしても、心が必要になる。 その心が…。 ――もう…動かないんだ。 和也。 竜樹は枕に顔を埋めたまま、ギュッと目を閉じた。 和也の体温が、その骨張った指が腰を優しく撫でる。 いっそこのまま、酷いくらいに突き崩してくれれば、楽になれるのに…。 「…痛い」 竜樹は吐息のような声で苦情を呟いた。 ――息が…苦しい。 胸が……痛いんだ、和也。 「…そうか」 和也は一瞬手を止めたが、低く呟きまたすぐに手を動かした。 ――頼むから…優しくしないでくれ…。 竜樹は祈るような想いで、自分の手首に歯を立てた。 ――夏は嫌いだ。 暑くて…熱くて…。 意識が遠退く。 眩暈がするんだ…。 大和。 [*前へ][次へ#] [戻る] |