[通常モード] [URL送信]
:


相手は、名家浅倉家の末娘・めぐみ――周と同じ19歳の学生だ。

むろん初めて会う仲ではない。

社交場では何度か顔を合わせ、言葉を交わした記憶くらいはあった。

清楚で奥ゆかしい、やはり今時の若者には珍しく、別段申し分のない良家の令嬢だ。

が、そんなことは問題じゃない。



――美咲…。



周は窓の外を睨むように見つめた。

社会は進んでいく。

決して待ってはくれない。

周が思っていたより、4年という歳月は長い。



――あの頑固者…。



一度決めたことを曲げようとはしない愛しい恋人。

頑固で、一生懸命な愛すべき恋人。

本気で4年も会わないつもりなのか…。


「吸うか?」


ふと見ると、謙介が煙草を差し出していた。


「……」


周は黙って一本抜き取ると、口に咥えた。



――たった、半年…。



慣れた仕草で煙を吐きながら考える。

たった半年の間に、周を取り巻く環境は激変した。

今更ながら、学園にいた3年間がいかに平和だったかを思い知らされた。

我先にと進んでいく社会のスピード。

その最先端を一心不乱に走り続けながら、ふと思う。

取り残されたのは『自分』ではないか、と――




[*前へ][次へ#]

14/377ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!