: 相手は、名家浅倉家の末娘・めぐみ――周と同じ19歳の学生だ。 むろん初めて会う仲ではない。 社交場では何度か顔を合わせ、言葉を交わした記憶くらいはあった。 清楚で奥ゆかしい、やはり今時の若者には珍しく、別段申し分のない良家の令嬢だ。 が、そんなことは問題じゃない。 ――美咲…。 周は窓の外を睨むように見つめた。 社会は進んでいく。 決して待ってはくれない。 周が思っていたより、4年という歳月は長い。 ――あの頑固者…。 一度決めたことを曲げようとはしない愛しい恋人。 頑固で、一生懸命な愛すべき恋人。 本気で4年も会わないつもりなのか…。 「吸うか?」 ふと見ると、謙介が煙草を差し出していた。 「……」 周は黙って一本抜き取ると、口に咥えた。 ――たった、半年…。 慣れた仕草で煙を吐きながら考える。 たった半年の間に、周を取り巻く環境は激変した。 今更ながら、学園にいた3年間がいかに平和だったかを思い知らされた。 我先にと進んでいく社会のスピード。 その最先端を一心不乱に走り続けながら、ふと思う。 取り残されたのは『自分』ではないか、と―― [*前へ][次へ#] [戻る] |