: 別に一生の別れな訳じゃないから、取り立てて見送りにも行かなかった。 またしてもイギリス。 またしてもヨーロッパ。 美咲も、政士も…悠までも。 真咲の大切な人間は、何故か皆ヨーロッパへと旅立っていく。 「なんだよっ」 真咲は手近にあったクッションを八つ当たり同然、壁に向かって投げ付けた。 ぱふっと間抜けな音を立ててクッションが床に転がる。 「……」 一人暮らしの静かな部屋。 静かな夜。 生まれてから今まで、何かっていうと家には人がいた。 声が聞こえていた。 「……」 真咲は手持ち不沙汰に不貞腐れたまま、投げたクッションを拾いあげると、またソファにドカッと胡坐をかいて座った。 そして、閉じたノートパソコンを再び開くと、カタカタとキーを叩いた。 『Sub;美咲へ main;今んとこ風邪はひいてない。皆、元気にやってるよ。 今日、悠がイギリスに発ったよ。 時間みてそっちにも顔出すって言ってたからよろしく。 つか、春とか言ってねぇで、正月くらい帰ってこいよ、バカ! 人の心配ばっかしてんじゃねぇ!ウザイ! なぁ、本気で4年も江崎に会わねぇつもりか? お前、それで平気なのか? お前こそ、自分の限界知れよ! またメールする。 ――真咲』 [*前へ][次へ#] [戻る] |