「一ヶ月っっ!?」 夏を終え、秋を向かえ、そして…。 『――そう。向こうの強化合宿に参加させてもらえる事になって』 「ガッコはどーすんだよ?」 『休学?…まぁ、その分課題は出されるけどな』 「ふ〜ん……」 ――まぁ、そうだろうな。 「世界陸上ねぇ」 高野真咲(タカノマサキ)は、受話器片手に溜め息をついてベッドにパタリと倒れ込んだ。 『まさかだな』 電話口で、真柴悠(マシバユウ)が苦笑する。 「そうでもねぇだろ?」 『や、正直驚いてる。なんつーか、急なのもあったし』 「ビビってんのかよ〜?」 『そんな訳ない。ありがたいと思ってるよ』 聞き慣れた電話での声。 悠の声は、電話だといつもより低めに甘く響く。 それをいつものように聞きながら、真咲は複雑な想いでいた。 話は、悠の陸上のこと。 夏のインターハイで、悠は最年少日本新記録を叩きだし、世間を震撼させた。 比較的マイナーなハイジャン男子競技に、一躍脚光が差し込み、悠は今や若き期待のアスリートとして有名人になっていた。 それ以前からも、スポーツ雑誌に名を取り上げられるようなことはあったが、今はそんなの比じゃない。 全く関係のないファッション雑誌にまで取り上げられる始末。 そんな中に降って湧いた『世界陸上』という大舞台への大抜擢。 [*前へ][次へ#] [戻る] |