: 「綾一も」 和彦は呆然とする竜樹の後ろをひょっこりと覗くと、竜樹にしたそれと同じように綾一の頭を優しく撫でた。 「………」 綾一は大きな瞳を真ん丸く見開いて、じっと和彦を見上げた。 和彦はその目を反らさずに見つめ返すと、 「よろしくな」 精悍な顔立ちをふわりと優しく緩めた。 綾一は暫く目をパチパチと瞬いて、和彦と竜樹とを交互に見上げたが、 「よろしくお願いします!」 悪戯っ子のようにニカッと笑うと、元気にそう告げて、和彦の大きな手の平を握り締めた。 「あはははは!よろしくな〜。綾一は元気だな〜?」 「わぁぁ〜いっ!!」 和彦は豪快な笑い声を立てると、綾一の身体を軽々とその腕に抱き上げた。 「!?」 竜樹は驚いて目を見開いた。 それは女である母にはもう出来ないこと。 思えば、最後に抱き上げてもらったのは、いくつの時の記憶だっただろうか。 綾一が嬉しそうにケラケラと笑うのを、竜樹は目を見開いたまま茫然と見上げていた。 『組長』と呼ぶには拍子抜けするほど、穏やかで毒気の少ない男だ。 『父親』とは、こういう存在なのか…。 竜樹は混乱した顔のまま、やはり「信じられない」気持ちで、そこに立ち尽くしていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |