: 高寛はボールを左手の手の平にのせて、軽く宙に舞わせた。 そして、その真っ白なボールに胸の不安をぶつけるように、右手で強くボールの真ん中を叩いた。 カシャ――ンッ…! ネットの上すれすれにぶつかって、ボールは一瞬戸惑ったように宙を彷徨い、向こう側のコートへと力無く落ちていった。 テン、テン、テン… 真っ白なボールが、情けない音を立てて床を転がっていく。 「…バカみたい」 高寛は何だか泣きそうな気分になって、熱くなる目頭をグッと伏せた。 「嫌なサーブうつなぁ?」 その時、突然体育館に響いた声に、高寛は息が止まるほど驚いてハッと顔をあげた。 「やっと見つけた」 声の主は高寛の打ったボールを、片手でヒョイッと拾いあげると、ゆっくりとこちらへと歩いてきた。 「何をしとんねん、こんなとこで」 「………」 ユニフォームに着替えた渉。 初めて見るその姿は、日頃のジャージよりよっぽどコートが似合っていた。 高寛はその姿を避けるように再びグッと目を伏せた。 「ああいうサーブで、試合の流れが変わったりすんねん」 そう笑うと、渉は拾ったボールを俯いて動かない高寛の胸の前に差し出した。 「……」 高寛の視界に割り込んできたそのボールは、いつもそこにいるかのように、渉の手の中で真っ白に輝いていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |