: 「だから、夏休み中、何があったんだよ〜?」 それでも比呂は、怯むどころか更に楽しそうに口許をニンマリと緩ませる。 『他人事です』とその顔にデカデカと書いてあるのが読み取れる。 「何もない!」 「ウソつき〜」 「ウソじゃねーもんっ!」 「ウソだね!絶対!な〜な〜、尚斗もそう思うだろ?」 比呂が目を爛々と輝かせて尚斗を見つめる。 「………俺は、どーでもいい」 尚斗は面倒臭そうにそう呟くと、何やら手にしていた資料に視線を集中させた。 尚斗の立場からは、二匹の子犬がギャンギャンと喚いているようにしか思えないし、聞こえない。 大体、コイツらは、振ったら振りっぱなしで返答に興味がある訳じゃない。 『ちゃんとした答えを返そう』とすることこそが無駄な努力なんだということを、もういい加減理解した。 「うわぁぁ〜っ!廣谷、それはそれで、なんかムカつく!!」 あり得ないことに、綾一は尚斗に八つ当たる。 子犬の甘噛み。 「あ〜、やっぱ何かあったんじゃ〜ん!」 「比呂はうるさい!廣谷は、なんかムカつく!」 「だって、アヤ、休み明けから何か違うじゃん!」 「違わない!!」 「違わないなら、何であんなに仲村先輩に絡むんだよ!?」 「べっ、別に絡んでないしっ!!」 「絡んでた!!ねぇ、尚斗!?」 「廣谷には関係ないだろ!?てか、絡んでねぇもんっ!!」 そして更に、子犬達は挙って吠えまくる。 既に尚斗の返答は関係ない。 尚斗が静かなのをいいことに、『オレの話を聞け』とばかりにギャンギャン喚く。 小型犬ほど、よく吠えるもの。 まぁ、主張しないと気づいてもらえないからねぇ。 「…………うるせぇ」 尚斗は小さく口の中で溜め息をついた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |