[通常モード] [URL送信]
::


綾一は更に不機嫌に眉を潜めて、握り締めた右手の拳をクッションにぶつけた。


『偉い、偉い』


夏の終わり――


あの手は、誰よりも優しく綾一の頭を撫でてくれた。

憧れ続けた義兄・東城和也(トウジョウカズナリ)の去って行く背中を見つめながら、これでもかってくらい泣いた。

貴治は、何も言わずに傍にいてくれた。

だから、余計に涙が溢れた。


あの夏の夜――



* * * * * *




「も〜、綾ちゃん、いつまで泣いてんのよ〜!男の子でしょ〜!?」

「――…っ…るさいなっ」

「何よ!竜ちゃんはいなくなっちゃうし、綾ちゃんは泣いてるし、和兄までっ!」


ブーたれる朱里に、


「まぁまぁ、色々あんだよ、朱里。そう言ってやるな」


貴治は優しく笑った。

朱里を母・京花の部屋まで送り届けた後、


「走りに行くか?」

「……うん」


綾一は、貴治のその言葉に素直に甘えた。

竜樹と和也がどうなったのかはわからないが、じっと一人で部屋にいるよりは気が紛れるように思えた。


初めての恋が終わった。

伝える前から終わりのわかっていた恋だが…。

初めての失恋は、大好きな兄の恋の成就と同時に訪れた。




[*前へ][次へ#]

3/469ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!