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「まぁな。夏は夏で、大会があったり何だかんだで…」
「じゃ、もう6年もおじさんに会ってないって」
「卓、いいだろ。オヤジの事は」
「あ……ごめん」
悠の声が静かに響く。
静かすぎて怖いくらいだった。
それは、真咲が初めて聞く声色。
――卓って…あの子か。
…オヤジ、さん?
悠の…?…ロンドン……??
真咲の頭にどんどん疑問が集まってくる。
その疑問の多さに、真咲は突然グッと息を呑んだ。
考えてみれば、真咲は悠のことをあまり知らない。
家族のこと。
三能に来る前のこと。
元々、多くを語らない悠に、真咲も自ら深く突っ込んで探ったりもしなかった。
全寮制のマンモス校、三能にあって集まる人間は様々。
各々に事情を抱えていることくらいは、生徒会長という役職上、真咲にもよくわかっていた。
ただ…。
――言いたくねぇ…かな?
同室になって春、夏、秋と越えて来た。
そして、恋人という立場。
それでも、何も語らない悠。
語らないなら聞かない。
その距離間を保ってはきたが、それはそれで何とも納得いかない。
その過去を、どうやら卓は知っているようだ。
それがまた、悔しいと言うか虚しいと言うか…。
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