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攘夷ばっかり
花火と4人

夜陰にひっそり浮かぶ人影が4つ。
屋根上に座り寝そべり酒を飲む。
夏の夜は冷涼で情緒がある、なんて。






「…此処じゃ関係ねーってな」





銀時が呟いた言葉は静かに暗闇に溶け込んでいく。
確かに、見渡す限りの荒野を見ながらの杯に趣を見出だす方が難しい。いつもは闇夜を照らす月も、今日は早々と沈んでしまったようだ。
そよぐ風は湿り気をたっぷり含み、顔にべたつく髪が鬱陶しい。








「……野郎だけじゃなァ」
「たわけ。そういうことではないだろう」
「きれーなお姉さんに酌してほしいぜよー」
「空から降って来ねーかなおねーさん」
「……貴様ら」




一人呆れてため息を溢す桂。
荒れ果てた地を眺め感傷に浸っているかと思えば、口をついて出てくるのは戯れ言ばかり。まさか本気で女が空から降ってくると信じてるわけはないと思うが。






「……全く…気休めにあちらの空でも見ていろ。風の噂だが、今夜は花火が打ち上げられるらしい」


此処からは大分離れているようだが、と付け加える。
桂が穏和な笑みを浮かべ指差したのは東の空。気だるそうに酒を飲んでいた3人は指差す方向へ視線を上げた。


すると祭も行われているのだろうか、水彩で描いたような小豆色の灯りが暗闇に浮かんでいた。辺りの山も綺麗に色づいている。






「…花火が何だってんだコノヤロー」


食える訳でもあるめぇし、と髪を掻き毟りながら吐き捨てる銀時。
とはいいつつも東の空を見るのを止めようとしないが。

続いて、祭の一言に気を良くした高杉が笑みを浮かべる。



「いいじゃねェか、俺ァ祭好きだぜ」
「おんしはイタズラが好きなんじゃろ」
「んだと」


坂本の茶々に少しどすを利かせたが変わらず空を見続ける。風が強くなってきた。若干肌寒い。









「…………お、始まったようだぞ」



打ち上げられて夜空に華を咲かすまでの特有の音が闇夜に響く。









だが、4人は打ち上げられた華を見ることはなく。














「!」










花火と同時に西の方から聞こえてきたのは、耳をつんざくばかりの号砲。

今まで闇に包まれていた西の空が一瞬にして火の海に変わった。此処から近いらしい。湿気を含んだ風が熱風に変わり4人を包み込む。















「………無粋なことしてくれるのー…」


坂本の顔にはいつもの笑顔。だがどこか冷淡で。
同じ花火でも天と地の差じゃ、とぼやく。


燃え盛る山を見つめ銀時も鼻を鳴らす。


「ほらな花火なんか楽しくもねぇだろ、何とも」
「……緊急開催など知る由もなかろう」



苦い表情を浮かべる桂とは対照的に、表情一つ変えない銀時。







「……ハッ、祭には違いねェ…楽しませて貰うぜ」




さらに笑みを深め屋根から飛び降りた高杉に続き一斉に走り出す。







背後からは花火の喧騒。向かう先には大砲の轟音。

祭には違いない、のなら、何故こんなに心持ちが重いのか。







銀時は激情を押し込め、足に力を込める。手にかけた刀の鯉口を切りながら、人知れず口走った。









「……中止になんねーかな、花火大会」












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最後の坂田の台詞を言わせたかった!

2009.7.18



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