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幻想
呼ばぬなら、呼ぶまで待とうか覇王様。(スーダン・田中眼蛇夢)
※お相手は田中くんです。誰か井澤にネーミングセンスを恵んでください(切実)

※大変嬉しい事に名前は大事なものなんです。の田中くんver.をリクエストで頂きました為、前談と申し上げますか、設定と申し上げますか、勝手ながらそちらに続く形で書かせて頂きました。(京様、ご機会有難うございます!)

※今回も緩ーくギャグ風味の予定です…が、長い、です、申し訳…ございません…。

※もちろん主人公ちゃんに超高校級の設定はございませんので、お好きな能力等でお楽しみ頂ければと存じます。




*****


数多の謀略が渦巻いているだろうこの修学旅行も、早13日目を迎え、帳もすでに下りた宵。

平常と、何も変わらぬ俺様のコテージ。

その中で、唯一つの、相違点。



…俺様の名を、一心に綴り続ける、みょうじの姿。



事はそう…
10日程は遡るか…。



――――



人間共が集う、始まりが地(集合場所)は、俺様には騒がしいが…
課題と称される役儀の為、刻が来れば俺様もその地に立つ事となる。

…何よりも沈黙と無関心を求める俺様には、それはそれは関係の希薄な話ではあるが、
ここのところ欠かさず我が耳に入る音々は、あやつのものである事が、過多なのだ。

『澪田さん、おはよう!今日、採集場所一緒だよね?』

『おなまえちゃん!おはよーっす!!唯吹頑張っちゃうっすよー!!』

『うん!よろしくね!あの…それでね…っ。』

瞳で見ずとも、何かを言いあぐねている様子がありありと解る、みょうじの声。

『んー?なんすかねー!?』

『あ、の…な、名前で…呼んでも、いい…かな?』

『うっひょー!ノープレっすよー!!そんな改まっちゃっておなまえちゃんは可愛いっすねー!!』

『えっ!?そ、そんな事ないよ!い…唯吹ちゃんの方が、可愛いよ!!』

『うっはー!!おなまえちゃんに名前で呼ばれたっすー!褒められたっすー!もうマブダチっすね!唯吹たちはもうマブいダチっすね!!』

…一段と、喧騒が増す火種を蒔いてくれるなよ。

内心ではそう呆れ返るものの、奴の声音自体には不思議と不快にはならん為、特に咎め立てる気も起きんのだ。

『…あ、左右田くん!今日、よろしくね?』

…しかし何故そこで、雑種にまで等しく声を掛けるのか。
流石にそれは俺様には理解に苦しむところだ、雑種が言葉を遮ってやりたい程度には、な。

「おー。よろしくな!」

『ええっと、それで、ね…?』

「ん?どうしたんだよ?」

『えっと…せっかく一緒に採集、だし…もっと仲良くなりたいので、その…名前で呼んでも、いい、ですか…ね?』

「あ?何だよ、急に畏まってよー!全然いいぜ!!なんか女子に名前で呼ばれるのって、けっこー新鮮でいいな!!」

『ほんと!?わぁ、ありがとうっ!』

…早々にゴミに餌まで与えるとは…。
下等生物までも付け上がらせるような真似を、無意識下でしているところがみょうじの恐ろしいところだ。

捨て置けば良いものにまで、平等に接してやる慈悲深さ、そう取れば、それはそれで美辞になるのかもしれんが…
とにかく、俺様がその様子を苦々しく感じる事に、変わりは無い。

『改めて、今日はよろしくねっ!唯吹ちゃん!和一くん!』



―――



ある刻は、更に騒音が交うレストランでの事。

…やはりみょうじが発する音は、その中でもどうにも逸脱しているようだ。

よもや言霊使いではあるまいな…?

そう過ぎる事もしばしばに、俺様の無関心を容易く破るかのように。
みょうじの声々は、妙にしかと、俺様が無関心の世界までへも届くのだ。

『…あのねっ!小泉さん…あの、あの、ですね…!』

…何を、そんなに焦る必要があるのか。
大して言葉を交わした記憶はないが…いつもこやつは…なんというか、満身で事に臨んでいく、という事は十二分に俺様も知るところだ。

『何?どうしたの?
…あ、もしかして相談事とか?アタシで良ければ、何でも聞くよ?』

『あ、ええっと…相談、と言えば…ご相談、なんですが…。』

『…うん、それで?』

『名前で…真昼ちゃん、って…呼んでも、いい、かな!?』

『なんだ、そんな事か!なんだか難しい顔してるから、何かと思っちゃったよ!
全然良いよ、むしろ嬉しいかな。だったらアタシも、おなまえちゃん、って呼ばせてもらうね!』

『ほ、ほんと!?あ、ありがとうっ真昼ちゃんっ!!』

縮こまっていたかと思えば、相手が一言で華々しい程に歓喜する。
一気に咲き広がる笑顔は、心から幸せそうに見える。

…花火のような奴だ。

と、思う。

時に轟音とも言える騒々しさすらも、どこか耳に障り無いような…。
後に開く花が、待ち遠しい…ような。

いつしか、恒例となりつつあるみょうじのその遣り取りを、見守ってしまうような俺様が居る…、のは確かなようだ。



む?
…なんだ、その瞳はッ!!
貴様ァ…何を、推量している!?

訂正するまでもない、が…そ、そのような事では断じて、無いッ!!!


…まぁ、なんだ…、その、気掛かり、では確かにあるが…
俺様もみょうじが落胆する姿を見たい訳ではないからな、自ずと…そのような感じになっているだけだ。
…それだけなのだ。


「やぁ!みょうじさんに小泉さん!楽しそうだね、ぼくも是非話に入れてもらいたいなぁ!!
いやー美女2人に囲まれておしゃべりだなんて…想像するだけでよだれが止まりませんなぁー!!」

『あーはいはい、花村はお呼びじゃないから、どっか行きなさいって。』

「…美人に冷たくあしらわれる…うん!いいね!興奮しちゃうよねっ!!」

『あはは、花村くんってちょっと変わってるよね。』

『そこ変わってる、じゃ済まないから!』

…しばし異界の様子を探っていた間に、随分と大きな虫が付いたものだ。

みょうじは…どうも隙が多い。
何かとよく悪しき物に狙われ漬込まれているが、気付いている気配等微塵も無い。
諸々危うい奴なのだ。


それにしても、花村か…害虫どころか、害に他ならん物が付いたものだな…。

…いや、別段、心配等は…していない、がな?


「まぁ確かにぼくの守備範囲の広さを、変わってる、で片付けてほしくはないところだけどね!
…でもみょうじさんと小泉さんが可愛いのは事実だし、何も可笑しくないと思うなぁ!」

『んー…お世辞だって解っててもちょっと照れちゃうな、ありがとう花村くん。
私も花村くんのお料理、すっごくおいしいと思うよー!』

「いやいや!お世辞じゃないよ!!みょうじさんはとっても可愛いと思うな!!
それに…やっぱりシェフのぼくとしては、料理を褒められると、ますます色々爆発しちゃうところだよね!!」

『はぁ!?ちょ、花村…アンタ何言って…!』

『そんなに喜んでもらえると、私も嬉しいなぁ。』

な、何を、無邪気に喜んでおるのだッ…!
そう易々と笑い掛けるから、貴様は害ばかり呼ぶというのに…!!

否ッ!!
みょうじが害悪に呑まれ様と、俺様には…関係の無い話、だがなッ!?

『おなまえちゃん、それ喜んじゃダメなやつだからね!!』

『え?そうなの?…でもせっかく褒めてもらってるし…。
あ、そうだ!花村くんとももっと仲良くなりたいから、名前で呼んでもいいかな?』

「…みょうじさんが、ぼくを…名前で…?」

『え…あ、うん…ごめんね、いきなり…。
…嫌、だった?』

…そのように不安気な表情すらも、花村を煽るだけに過ぎんというにッ…!!

クッ…!!
どうにも毒手が疼いて仕方がないッッ!!!
奴等が言葉を交わすのを割って入りたくなるような…この衝動はなんなのだッ!?


「…っううん!嫌な訳ないじゃないか!むしろすごく嬉しいよ!!」

『ほんと!?…じゃあ…もう一つわがまま言ってもいいかな?輝々くん、って呼びにくいから、輝々って呼んでもいい…?』

な、何故…花村如きに、そこまで気を許すのだ!?
己が身の危地性を、ここまで解っておらんとは…!!

「…もちろんウェルカムだよっ!ぼくとしても心を許してもらってるみたいで嬉しいなぁ!!」

『うん、もう仲良しですからね!
…それに輝々って、ちっちゃくて話しやすくて、なんだか弟みたいだから!』


な、に…!?
お…弟、だと……!?
莫迦な…!まさか…奴が、みょうじの、特異点以上だとでも、いうのか!?


い、いや、待て…
あくまでもみょうじは仮初の姿に注視しているが故の発言だったな…?

まぁみょうじの魔力の低さでは、花村の瞞しの身に騙されても詮無き事ッ!!

ならば、問題は無い…はず、だ。
ああ、そうだな、何も奴をみょうじが特異点であると明言した訳でもないのだからな…ッ!!!

「ぼくが…みょうじさんの…弟…だって?
…いいねっ!!それはもう心どころか一つ屋根の下OKって事だね!?身体も許してもらってるのと同じだよね!!
じゃあ早速お風呂で裸の付き合いとかどうかなみょうじさ「花村貴様ァァッ!!!先刻から随分と喧しいな!?俺様の静黙たる刻を壊すとは…万死に値するぞッ!!」

…見逃してやろうと思った矢先に、何を言い出すのだ、こやつは!?

流石の俺様でも見過ごせん卑俗な発言だ。
ましてや俺様の閑静たる世界を壊したのだからな、気が立つのも道理だろうッ!!


…だから、つまり、なんだ…みょうじの為、では…ない。


『わ、田中!?…え、もしかして話聞いてた、とかじゃないよね…?
…けどまぁ花村に怒ってるみたいだし、いっか。
ほら、おなまえちゃん行こう!』

『えっ…?あ、うん…、輝々、じゃあね!』

小泉に促され、みょうじが遠ざかるのを足音で捉える。

フン…別れの挨拶まで述べるとは、どこまで人を疑わんのだあやつは。


改めて奴の存在の危うさに、どうも胸中が靄付いてしまう事が、我ながら不可解ではあるのだが…。


(…田中くん、すごく怒ってたな…うるさかった、かな…。
なんだか…挨拶もしそびれちゃったし…うー嫌われてないと、いいんだけど…。)


この刻、みょうじがこのような事を思慮していた事も、その時分の俺様には全く与り知らぬところだったのだ。



「もうっ!田中くんたらさっきは邪魔してくれちゃったよね!?
もう少しでみょうじさんとめくるめく桃源郷に行けたのに!酷いじゃないか!!」

…とくと存在ごと忘れていたが、意味の解らん言葉を並び立てる花村の下賤な声で、常世へと俺様の意識が移る。

「…よくもそのような妄言ばかりを吐けるな、貴様は…。
とにかく、だ…今後は俺様の世界を汚損するような発言は止める事だな。
さもなくば…次は貴様の命は無いものと思うが良いッ!!」

貴様が言葉を発しさえしなければ、守られる安寧もあるという事だ!!


威迫してやったつもりではあったが、こやつにはどうにも堪えんのか、

「それって、ぼくに話すなっていう事かい…?
いや…もしかして、田中くんが裸の付き合いをしてくれる、って事かな?
うん、なるほどね!それならそうと早く言ってくれればいいのに!!ぼくならいつでも、準備OKだよ!!」

平然と俺様に俗悪な呪詛を返してくる有様だ…。
ええいッ!俺様には貴様に構っている刻等無いというに…!

「なッ…何故そう、なるのだ!?止めろ!貴様ッ寄るなこの外道がッ…!!!」

「ははは、田中くんは照れ屋さんだなぁ!うん!!意外と初々しい感じでギャップが…堪りませんなぁー!!」

グォォ!悪寒が全身を駆け抜けていくッッ!!
本当に何なのだ、こやつはッ!!
やはり厄介危難極まりないな…みょうじには近寄らせないようにすべきだな…!!


…いや、それより今は…俺様の事が、先決か…?



この後花村を巻くのに数十分の刻を浪費する事となり、この機を境に花村の存在がより忌々しいものとなったのは、揺ぎ無い事実だ…。



――――


そして…この数多の謀略が(略)修学旅行も、9日を迎えた折だったか。
俺様はみょうじと共に、同魔窟(採集場所)へと赴く事になったのだ。


『田中くん、和一くん、よろしくね!』

…まぁ、要らんゴミも付いていたが。

「おう!頑張ろうぜ、みょうじ!!」

『うん!』

相変わらずゴミ未満にまで笑顔を向けるみょうじは、平時となんら変わりなく。

…これならば、恐らくだが、俺様にも件の名呼びの契約が提示されるだろう。
思い返せば、みょうじは役儀(採集)が共になった者や、隣に相した者に声を掛ける事が多いようだからな。

フッ…切り出されたならば、なんと応えてやるべきか。
俺様も鬼ではないからな、特に拒む理由も無い…。

せいぜい畏怖と敬意を込め、心して呼ぶが良いッ!!

…うむ、まぁこのような感じで良いだろう。
あとは刻が来るのを待つばかり、だな…。



―――


そんな俺様の寛容なまでの深慮に反し、みょうじから契約が提唱される事はなく…すでに帰路へ着こうという逢魔が時。

(ふ、フハ…フハハハハ!!!
フッ、俺様とした事が…先に張った結界が強過ぎたか?
みょうじのような平々凡々たる人間には聊か強力過ぎたか…ならば特別に、威力を抑えてやらん事もないなッ!!)


――


魔力は抑えた、…つもりだったのだが…。
それでもみょうじと名儀を交わす事は無く。
すでに始まりが地(集合場所)が、可視出来る程まで近付いている。

…流石の俺様も…何かしてしまったのではないか、と…懸念してしまう、ではないか…。


(…何故、だ…?)

ちらと、横目で隣を歩むみょうじを伺う。
…絶えず雑種と談笑するその様は、今朝方とも変わりないように思える、が…。


(…しかし、何故こうも延々と左右田なんぞと…。)

『和一くん、それでね!』

奴の名を呼ぶ声が鼓膜に刺されば、
俺様の意識とは無関係に、深く眉間に溝が生まれていく。

…どうしてこうも、荒々と、心が波立ってしまうのか。



『…かくん?…田中くん!』

みょうじの声に、ハッと外界へと視点が切り替わる。
俺様を、なんとも不思議そうに見上げるみょうじの顔が徐々に映り、どこか頼り無げな表情が見て取れた。

『…大丈夫?なんだかずっと黙ってたから…気分悪いなら、早く休んでね?』

そう言い、笑顔を見せたかと思えば、
私が持って行ってあげるね!と、俺様の手から戦果を取り、駆けて行く。


…その際に少々、手が、触れた…ような、気配が…あった事に気付き、知らずと顔の熱量が、増していく。

…まぁその事自体にも、俺様の熱量の上昇にも、みょうじが気付く事はなかったのだが…。

(くッ…新手の、マインド攻撃…とは、なッ!!)


…しかしそれでも、最後まであやつが俺様の名を呼ばなかったという事実が、厭に脳裏を過ぎっていく。

いや、だからといって…さしてどうという事も無い、のだがな…?


…ああ、その程度の事、何も問題は無いな!!
そう己が暗雲を払拭するかのように噴気していれば、

「…田中、おめーってさ…すげーみょうじに嫌われてんだな?」

最も聞くに堪えん雑音が、実に忌々しい事を放散してくるではないか。

「フッ…訳の解らん事を…。
左右田、貴様…余程死にたいと見えるな…?
ならば望み通り、八つ裂きにでもしてくれようかッ!!」

このゴミをこれでもかという程睨み付け、四天王達にも臨戦態勢を敷く。
もはや続く音に耳を傾ける必要もないだろうからなッ!!

しかし俺様が気魄をも取り止めず、

「…はぁ?何言ってんだよ?
普通におめーだけじゃねえか、みょうじに名前で呼ばれてねえの!!」

更に噛み付いてくる左右田の言葉の、なんと不愉快な事か…。


な…待て、…俺様、だけ…だと!?


…大体、みょうじが役儀(採集)や晩餐後やらで、日に声掛けるのは2,3人、といったところか…。

そして頃来は9日目、だな…。

…。

……。


…ま、まさか…そんな…莫迦なッッ!?
くッ!
ただの塵に過ぎん分際で…!!
なんという奇禍に気付かせてくれたものかッ!!!


…いや、そもそも俺様は、みょうじに名を呼ばれたい訳では、無いはずなのだが…。
何故こうも、気に掛かるのか…。

ともかく、だ…まずここは奴の浅慮な物言いを改めておくべき、だな。

「…ハッ!それが…どうしたと、言うのだ…?
みょうじが俺様の名を口にする事自体を恐れ躊躇うのも、無理もない話だからな…。
何せこの覇王の名だ、それ相応の覚悟を以って呼ばねば、死に至る可能性すらあるのだからな…。」

…拠って、みょうじに疎ましく思われているが故、ではない、はずだ…。

「…相変わらずおめーは可笑しな事ばっか言ってるよなぁ…だから嫌われんじゃね?まぁ俺には関係ねえけどよぉ。
…つーか明るくて可愛いみょうじに慕われてる感じっつーの?それを味わえないとかマジで超いい気味だと思うぜ!!」

と…舌をひけらかし、言い誇るような左右田。

…その有様、その発語、もはや生じる音そのものまで、奴の全ての何とも…虫唾が走る事ッ!!

「…そう、か…良いだろう…。


この俺様の全魔力を以て、貴様の存在を塵一つまで残らぬよう…否、この世に存在していた事実までも!
無惨なまでに消し去ってくれるわッ…!!!」

同時に俺様の中で、何かが切れる音がした事は…記すまでもないだろう。


…こうして左右田の駆除に一意を注ぐ事となり、この日も結局みょうじに名を呼ばれる事は無かったのだ。


―――


そして迎えた、運命が13日目。


俺様は…確かに、みょうじの事が気に掛かる。
それこそ…このように、名を呼ばれんのが俺様だけなのだから…殊更だろう。

その程度は憶えるところがあったのだ。


まさに、そう認識をしたが頃合。
これも因果律の定めたるところなのか…よもやみょうじと二人、同魔窟での役儀(採集)が決まるとは…。


『2人きりでの採集は初めてだね!よろしくね、田中くん!』

みょうじの屈託の無い笑顔が、俺様だけに向く。

「…む!?そ、そうだな…!!
せいぜい俺様の足を引かんよう、心して掛かる事だなッ!!」

反射的に応えれば、

『うんっ!頑張ります!』

と、敬礼のようなポーズで以て、晴々とした声が返る。

…何とも、定常通りのみょうじに見える、が…。



――


魔屈への道すがらや役儀をこなす間、大半が他愛の無い話ではあったが、妙に弾み、多くを交わしたようには思う。
にこにこと、擬音そのままに笑うみょうじ自身も、楽し気なように推察される。


だがそれすらも俺様の思慮違いだったのか、
今日日もみょうじから名呼びの契約を持ち掛けられる事は無く…すでにまた薄昏の刻を迎えている。


…認めた訳では無い、…が、左右田の言う事も一理あるのかもしれん…。
やはり、俺様は…みょうじにとっては、あまり好ましい存在とは言えんのだろうか…。



しばしの沈黙が訪れ、始まりが地(集合場所)も目前と迫っている。


…そう、か。

未だ口を開かぬみょうじを見れば、自嘲するような音が僅かに漏れていく。





…まさに、その刻だ。

『あ、…あの、ね…田中くん…。』

意を決したような、どこか心意が籠もったみょうじの様子、その声色。

『あの…本当は、…ずっと、ずっと…言いたかったんだけどねっ…!』

と一段と語気が強まるその声に、何故か…期待、のようなものが巡っていく。

「…どうした?」

と目線を送れば、勢威に声が続き、

『あ、あのっ…!名前で、呼んでも…良い…かな!?』

言うと同時にぎゅっと瞳を瞑り、まるで最後が審判を待つかのように小さくなるみょうじ。


…こ、れは…


幻聴、では…あるまい、な?


「ふ…フハ、フ…フハハハハ!!」

何故か笑いが止まらん俺様を、みょうじがまさに瞳を丸くし眺めているが…まぁ、良いのだ。

…俺様の聞き違えではないのなら、答えは一つに他ならんからな!!


「フハッ!!俺様の名を呼びたいとは、随分と命知らずな事だな、みょうじよ!
だが…この俺様を前にして、臆せず申し立てたその勇猛さを讃え、特別に許可してやろう…。」

畏怖と敬意を存分に込めて呼ぶが良いッ!!

そう高らかと、俺様自身、少々驚く程快活に述べれば、

『…ほんと!?…良かったっ!ありがとう!』

と、心から安堵したというように、
なんとも…明美に笑うではないか。


…此までは対岸から眺めていた花火が、俺様の瞳の前で花開く。
どうしようもなく…心嬉しい、ような…この感覚。



この刻に俺様は気付いてしまったのだ。

…みょうじを…想っている、という事に。


(なん…と、いう…事だ…。)



どうにも、己が気持ちに整理が付かん情態ではあったが…
程なくして帰着し、みょうじとも別れる事となり、幾分か熱が篭もる顔を冷ます為の刻を得る。



…しかしよくよく辿れば、未だあやつは俺様の名を呼んでおらんではないか…!!



どうにもまた心中が靄々と陰って行くような気配があったが…。

まぁ契約は無事に、交わされたのだ。
今はその余韻に…少しばかり、酔う事としよう。



今宵、みょうじを特異点とし、俺様の傍らに置く事を誓わせる事等知らず。
ストールをまた上げては、その顔が熱を逃がす事に集中する。

件の試練の場までは…まだ刻を要するのだ。






終(続く?)


*****


リクエスト、とはまた別物ではございますが…リクエスト頂きましたご縁により、形を成せたお話、です。
なんでしょうね、なんか…うん、申し訳ない限りです…涙。
書きたかったのは、田中くんが主人公ちゃんベタ惚れなんだぜ!って事と、実は名前呼んで貰えなくて、めっちゃ気にしてるんだぜ!って事です…。
そして何でてるてると左右田くんを超嫌ってるのか、みたいな…裏側です。
回想っぽくしていたので回想っぽく終わるようにちょっと修正致しました(今更)

…にしても超自己満足な裏設定過ぎますよねっ!!!涙。
とにかくただ只管申し訳ないです。。

一応ですが、こちらの続きとしましても、名前は〜の田中くん視点ver.を書かせて頂きましたので、もし宜しければそちらもご覧頂けましたら幸いの次第です。
お付き合い頂きまして本当に有難うございました!
ごめんなさい!(土下座)

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