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幻想
彼と彼女と理想論。(スーダン・田中眼蛇夢&左右田和一)
※所謂取り合いってやつです、リクエスト夢です。(奴藺様より頂きました、有難うございます。)

※落ちをどっち、というのは書くべきなのかよく解らなかったので伏せておきます。(こっそりヒント:ここは俺様サイトです。)

※主人公ちゃん設定は黒髪ロング以外は未定です、お好きなご設定でどうぞ、です。

※相変わらず残念な長さです凹。




*****


人間共が散る、晩餐後のレストラン内。
それは俺様が静謐さを噛締めるに相応しい空間と言えよう。

ただ一つ、例外を除けば、だが。



「俺よぉ、気付いちまったんだよ。」

妙に神妙な顔付も、妙に大事に語る声も、俺様にはこの上もなく、筆舌し難い程に忌わしい。


(フン、今日も騒々しい事だ…。)


沈黙と無関心を愛する俺様の世界へ、こうも容易く進入する忌々しき異物、それこそ左右田という存在であって間違いはなかろう。
奴のは才能でも能力でもないところが何より厄介なのだ。


別段構いはせず、ただ目前の黒き漿液(コーヒー)を糧とすべく取り入れる。


…断っておくが、奴と好き好んでここに居る訳ではない。
奴も俺様に語りかけて等いない、ただ居合わせている。
それだけだ。


男子会議だなんだと、数人の人間共を集めたかと思えば、あろう事か俺様の背後を陣取るとは…命知らずも甚だしい!

だが…因果律の定めにより、俺様はここに座して居るのだ。
今すぐ消し炭にしてやっても良かったのだが、左右田なんぞの為に俺様の魔力を使う事すら惜しまれるからな、今は奴の存在ごと忘れてやろう。

(…フン、命拾いをしたな…!)



外界の騒々しさ等忘れ、己が沈黙を貫くが、
変わらず耳障りな奴の声までは、流石の俺様と言えど呪文無しでは止められん。


「理想の身長差、ってあるだろ?あれなんだけどよぉ…そもそも俺、どう考えてもソニアさんより小さくね?」

…何を今更言ってるのだ、こやつ…俺様の想像を遥かに絶する馬鹿であったのか。

「てかよぉ、ソニアさんとの一夏の恋ってゆーかよぉ、アバンチュール?は楽しめたとしても、この修学旅行が終わったら、すぐ祖国に帰っちまうかもしれねぇんだよな…。」

まぁ、そうだな。そもそも突っ込みどころがたくさんある気がするけどな…?、と曖昧ではあるが相槌を入れてやっている日向はどこまでお人好しな奴なのか。

…王女が国に帰らん等、そんな馬鹿な話はないだろう。
こやつ本当に…つくづく馬鹿としか言い様のない愚かさだな…。


「それってよー…本当に一夏限りの恋じゃね?」

そらそうだろうが、という九頭竜の声は鋭い。
フン、もっと骨の髄まで刻んでやらねば、奴には解らんだろうがな。

「外国だもんなぁ…もしそのままお付き合い、ってなってもよぉ、いきなり海外暮らしとか怖えし、王様とか…多分自由ないよな?そういうのも想像できねぇし…。
俺はよぉ、なんてゆうか、もっと、この修学旅行が終わっても、色々してぇんだよ!!恋もしてぇし、何より彼女が!彼女との楽しい時間が欲しいんだよ!!!」

ガタッ!と奴が立ち上がった振動が、地を伝い俺様の王座までを揺らす。

(…!このッ雑種が…!!)

激情のままに奴の方に向き返り、燃やし尽くしてやりたい衝動を抑えながら、更に沈黙を紡ぐ。

俺様の時間を割いてまで、あんな小物の相手をしてやる必要はないのだからな。


まぁまぁ、と宥める狛枝と日向の声を外界より捕らえながら、せいぜい俺様の世界の守護に努めるが良い、そう喚起しておいてやる。



が、
いくら正気に戻ろうが、奴が厭わしい事に変わりはない。

「…そこでさっきの理想の身長差の話なんだよ。
理想の身長差って、15cmなんだって女子達が言っててよー!この身長差だと、並んで歩いた時もバランス良いし、抱き締め心地とかもめちゃくちゃ良い感じらしくてよ!」

…フン、実に下らんな。
どこまでも俗世的な男だな。

「で、俺考えたんだよ…みょうじって155cm位だよな?もう理想的じゃね?俺とピッタリじゃね!?」



ブバッ!!!



…思わず、今しがた口内へと注ぎ込んだ黒き漿液(コーヒー)を吹き出してしまった…。
内心穏やかとまではいかないが、ここであからさまに取り乱すような俺様では、ない。

「…は?何やってんだ、田中のヤツ。」

またしても忌々しい声が鼓膜を揺らすが、今はそんな事はどうでも良い。


…なん、だと…!?
こやつ…まさか、今…みょうじと、言ったのか!?

あ…あやつは……俺様が、唯一特異点として認めてやらなくもない、存在だぞ…!!?

まぁ、なんというか…その、俺様が先に目を掛けている、のだ。
その名を急に耳にすれば、多少なりマインドが揺さぶられるというもの。


…ふ、フン、まぁ…常闇もじきに訪れる頃合だ、俺様も流石に疲れているのだろう。
左右田の声の気疎さに、我が耳が言葉を取り違えただけだろうな。


フッ、俺様とした事が、と更に杯を仰ごうとするが、生憎と不快な声は加速するのだ。

「まーそれで田中は置いておいてよぉ、やっぱ遠くの憧れより、近くの可愛い彼女って魅力的じゃね!?
みょうじなら見た目だって可愛いし、骨格も良好だろ?
あとやっぱ金髪美女も良いけど、黒髪ロングも大和撫子っぽくて良いよな〜元々は俺そういう子の方が好きだ「フハ、フハ…フハハハハ!!!実に愚かだな、左右田!!!」

やはり聞き違えではなかったその名に、とっさに奴の憎々しい言葉を裂く。

「あ?なんだよ?おめーになんか話してねぇぞ!」

「フン…貴様があまりにも愚かだったからな…、忠告をしてやろうというのだ。
貴様、みょうじと言っていたが…まだ奴の力に気付いておらんとは…実にお目出度いな。
今でこそ覚醒しておらんから良いものの、あやつは貴様の手に負えるような存在ではない。
そう、貴様のようなゴミには身に余る人間だという事を理解するが良いッ!!!」

俺様の魔力を込めた言霊を言い放ってやったが、流石にゴミでは俺様の魔力自体を感知できんのか、

「は!?何言ってんだよ、みょうじは中でも普通の女子だろ!!んなてめーの中の設定だかなんだか知らねーけど、俺の恋路を邪魔しよーってんなら、許さねぇかんな!!」

依然として咆える事を止めん。

…チッ!煩い子蠅めがッ!!!
大人しく引けば良いものをっ!!!

「フン、そもそも…だ、貴様がみょうじに相手にされるとは到底思えんがな!
己が存在の小ささ一つ理解できんとは…犬畜生にも劣るな…。」

フ、そうだ、事実こやつがみょうじに相手にされる訳等ない、のだ。




…恐らく、な。




「あ?むしろおめーよりずっと仲良いし!喋ってる時だって超楽しそうだし!つーかなんでそんな事までおめーに決めらんなきゃなんねぇんだよ!?」

まさしく獣が如く。
ギャーギャーという擬音そのままに、一層騒ぐ左右田は一旦忘れ去るとして、

…心配な訳ではない、心配な訳ではないが…


急ぐべき、か。


ま、まぁ…俺様に焦燥等は微塵もないがな!!


外界を一度離れ、高遠な思考を巡らせている間も、喚く左右田がやはり邪魔だ。

ええい、黙れこの下等生物がっ!!!


そう強く睨み付けてやれば、怯むどころかとんでもない事を言い出すではないか。

「んだよ!?やんのか!?
つーか…おめーにしては随分突っ掛かってくるな…。
…はっ!もしかしてお前……みょうじの事、狙ってんのか…!?」

貴様ッ…!ゴミの分際で、何を馬鹿げた事を!!

「っ…!!!な、何を馬鹿な事を!!!!そ、そんなはずなかろう!!
俺様が、そんな…たかが人間如きに、現を抜かすなど…有り得ん事だ!!!
お、俺様は、制圧せし氷の覇王こと田中眼蛇夢だぞ!?俗世への興味等、欠片も無いわッ!!!」

「じゃーなんでみょうじの名前で反応したんだよ!?コーヒーだって吹いてたしよー!そうやってムキに否定するところとか超怪しいじゃねーか!!
くっそマジかよ、お前みょうじ狙いだったのかよ、思い立った瞬間にライバルとかマジねーよ!!」

くっそー!、と頭を抱える左右田。


…よし、そのまま無様に諦めるが良いわ!

二度と還らぬよう、更に心を折ってやるとしよう。


「フン、全く貴様が俺様と同じ土壌に立とうという事すらおこがましいわッ!!
俺様の邪眼の力を以ってすれば、貴様との差等まさに天と地程に開くだろうッッ!!!
それすらも知らず足掻こうとは…片腹痛いわ。」


…そうだ、貴様の存在等、俺様が本気を出せば、取るに足らんのだ。


「…なぁ、田中。悠々と語ってるところ悪いんだけどさ、それって…みょうじの事好きだって、言ってるようなもんじゃないか?」

…な、何を…言っているのだ、日向よ…。

思い返したところで、そのような事など何も…

何も…。

…。



くっ…たかがゴミと油断したか、誘導だったとは!不覚!!!


「はは、田中くんにしては、解り易い肯定だったね。」

狛枝ぁ…!なんだその笑みは!!!

「そうだったんだね!田中くん、ぼくは応援するよ!そして是非本番にはぼくも誘って欲しいなぁ、3Pの方がきっとみょうじさんも興奮すると思うんだよね!!」

…花村は話にならんな、こやつは捨て置いて良いだろう。

「フン、まぁいいんじゃねーか?勝手に二人で取り合いでもなんでもしててくれや。」

だからどうしてそうなるのだっ!
その口今すぐ縫い付けてくれようか!!


…しかしここは平静に、誤解を解くのが先決だろう。

「ふ、フン…そのように聞こえたならば訂正しよう。
先刻のは…あくまでも俺様と左右田の力の差の話であってだな、みょうじとは関係のない事だ。
…拠って貴様らが思量しているような事はない!断じてないッ!!!!」

思わず声が荒立ったが、事が事だからな!!

「はいはい、解ったよ、田中くん。」

だからその含み笑いを止めろというのだ!!!

「こ、狛枝!貴様ァッ!!!」

「だーっ!!!もう!うっせ!うっせ!!!
もう解ったぜ、俺は解ったかんな!!!田中がどうだろうが、俺は明るい未来の為にみょうじを誘うんだよ!おめーの入る隙間なんかねぇ位仲良くなってやるぜ!!!」

そう言うや否や、レストランを飛び出す左右田を、反射的に捕らえる。

「なっ!貴様、どこへ行く!!」

「んだよ、みょうじのとこに決まってんだろ!つーか離せよ!おめーに触ると毒がどうのはどうしたんだよ!!」

「ハッ!貴様が俺様の毒に侵されようが知った事ではないわッ!!!むしろそのまま全身を蝕まれ、醜く朽ち果てるが良いッ!!!!!」

そう言い放ち、掴む右手に更に力を篭める。

…本当に朽ちれば良いものをッ!!!


「うっわ、本気じゃねーか!ガチじゃねーか!!必死じゃねーか!!やっぱみょうじの事狙ってやがんだな!?マジで離せよ!!くっそ、引きずってでも行ってやるからな!!」

「ほざくな、雑種が!俺様が貴様如きに歩みを許すと思うなよ!?いやそれ以前に馬鹿な事を言うな!黙れ!!訳の解らん誤解は止めろ!益々行かせられんではないかッ!!!!」


渾身の力を込め、奴を引き止め続ける。

もはや凶器と化したこやつを、みょうじのところに等行かせてたまるものかッ!!



ややしばらく硬直状態が続いただろうか、そこになんとも似つかわしくない、能天気な声が俺様の鼓膜を叩く。



『…あれ?左右田くんに…田中くん。
レストランの入口で何してるの?』


「「なっ!?みょうじ!?」」

思わず雑種と声が重なる程の不祥だ。


更に悪しき事に、予期せぬ異物の登場に、俺様の毒手も離れてしまっていたようだ。

それに気が付いた時にはすでに遅し、だったが。


「な、何でもねーよ!それよりみょうじ!明日の採集、一緒に行こうぜ!!」

『明日?うん、別に良いよ。』

なっ…!

なん、だ…と!?


何をあっさり肯定して…!!!!


『良いけど…ソニアちゃんとじゃなくて良いの?』

「あぁ、良いんだよ!そりゃソニアさんとだって行けたら嬉しいけどよぉ、おめーと行きたいっつーかさぁ。」

左右田の奴め、さらっと、飄々と…言いおってからに!!

『そうなんだ、私で良ければ全然お供致しますよー。』

にこにこと、何を…嬉しそうに、しているのだ、みょうじ。

「じゃー明日な!約束だぜ!
で、みょうじはなんで戻ってきたんだよ?」

『ちょっと忘れ物しちゃって…えっと、どこらへんに座ってたかな…。』

「あ、俺覚えてるぜ!今日は窓際の方だったよな!」

『そうだったかも、ありがとう!』

そう言い残せば、俺様には目もくれず、中へと歩み始める。

…左右田と並んで進むみょうじが視界から消えると同時に、思わず引き止めるべく、声を発する。


「…待て、みょうじ。」

『…え?何?田中くん。』

名を呼べば、いとも容易くその笑顔が俺様に向く。


「明日の採集だが…俺様も同行してやろう。
貴様に邪悪な気配が迫っているのを感じるのだ、俺様が共に行けば憑かれる事もないだろう…。
…良いな?」

『邪悪な…気配?』

?と首を傾げるみょうじの様子に、少々強引だったか、と過ぎるが…ともかく事は一刻を争うのだ。

「…ああ、この禍々しさでは……貴様では、一溜りもないぞ。」


「…って黙って聞いてりゃ、何でお前まで付いてくんだよ!?邪魔すんなよ!!つーかみょうじ困ってんじゃねーか!!!みょうじ、断っていいんだぞ!!」

「フン!もはや貴様が邪念の根源と言っても過言ではないだろうがッ!!!みょうじ、貴様はこやつの虚言に騙されているのだッ!!!」

キッと睨み合うが、どうやら引く気はないらしいな。

そのまま左右田を睨み付ける事は忘れずに…押し黙るみょうじの様子を探るが、まだ思慮に耽っているようだ。

ややしばらくして、口を開く。


『…んー。よく…解らないけど、3人一緒に行けば良いんだよね?』


思わぬ回答に、流石の俺様も呆気に取られる。

…一体、何の為に、長考していたのだ、貴様は。


『だって…私に危険が迫ってるなら、私と居たら左右田くんも危ないかもだし…。
でも約束したのに、断るのも悪いから…。
もし田中くんの言う通り、左右田くん自体が危険なんだとしても、一緒なら田中くんが守ってくれる…って事でしょ?
だったら3人で行けば、大丈夫だよね?』

ほら、皆で行こ?

そう笑顔で言いのけるみょうじに、言葉を失う俺様と左右田。

まぁ…言い分は、解らんでも…ない、のだが…。
問題は、そこでは…ないのだぞ…?


「…って!俺別に危険じゃねーからな!?ホントそこ勘違いすんなよ!?みょうじ!!」

『あはは、解ってるよ。
…でも取り憑かれちゃったりしたら、解らないし、ね?』

「いやだから!田中の妄想癖なんか気にしなくて良いからよぉ!!」

ふふふ、と口元にやんわりと手を当て、また楽しそうに談笑を始めるみょうじ。

だからどうして俺様を差し置いて…左右田なんかと!!!

「左右田貴様ァッ!俺様の発言に対する侮蔑はこの際置いてやるとしても、否定し切れる話ではないだろう!!!」

「はぁ!?全ッ然だよ!俺のどこに危険があるってんだよ!?」

「存在そのものが邪悪だろう!貴様はッ!!!!」

完全にいがみ合う形となってしまった俺様達の横で、慌てるみょうじが視界の隅に映る。


『え!?大変!喧嘩!?ど、どうしよう…あ、弐大くん…呼んでくるね!』

そう叫ぶや否や、レストランの階段を駆け下りるみょうじ。
…忘れ物はどうしたのだ、と冷静に突っ込んでいる場合では、ない。


「あ、おい!みょうじ」

「ま、待て!!まだ話は終わっておらんぞ!?」


…階段を半分以上駆け下りているみょうじの背に声を落としたが、虚しくレストランに木霊するだけとなった。


取り残された俺様達は、とりあえず再度睨み合い、目線だけで、明日は決闘となるだろう事を胸に刻み、しばらくして離れた。

…戻ってきたみょうじに、喧嘩の原因は何だ、等と問われても面倒だからな。


一部始終を静観していたらしい日向達にも、念の為に口封じの呪文を掛け、レストランを去った。






―――――





…来る死闘が刻。(翌朝)


人間共が群れを成すそこに、左右田はまだ姿を現していないようだ。


フハッ!!俺様に畏れをなし逃亡を図ったか!!!

ゴミ以下とはいえ、今だけは賢明な判断だと言えるだろう!!


『田中くん、おはよ。』

いつの間に我が眼前に立ったのか…みょうじの声が俺様を外界へと引き込む。

「む…みょうじか。
今も貴様の周りを禍々しき邪念が取り囲んでいるというのに、実に暢気なものだな!!…おはようございます。」

『ふふ、おはよう。…四天王達も、おはよう?』

俺様のストールに向かい、はにかんだように笑い掛ける。
それに応えるように姿を現す四天王達に、更に笑顔になるみょうじが映る。

「我が破壊神暗黒四天王達にまで挨拶とは…殊勝な心掛けだな、褒めて遣わすぞ。」

『ふふ、褒めてもらっちゃった、お褒めに預かり光栄です。』

そう言い、纏う衣服をつと掴み、軽くお辞儀のように、だが恭しく、頭を垂れる。

顔を上げると同時に、眼を開き、また笑うものだから…



どうにも直視、できん…。


とっさにストールを掴み引き上げ、目を逸らす。

「ふ、フン…まぁ、これからも俺様への挨拶は忘れん事だな。」

『ふふ…はい、仰せのままに。』

相変わらずにこにことしているが…どこまでが心根なのか。

俺様の邪眼にて真意を見る事もできるのだが…どうもこやつは、そう易々とは、いかんのだ。



それはそもそもに於いて、俺様がみょうじとこのように二人で居る事等、今まで皆無だったからでもあるのだが…。

人間共が増えれば、妨害する雑思念も増大するからな。


『…ん?田中くん、顔色悪くない?大丈夫?』

遥か高尚なる思考が旅へ出ていた俺様を不審に思ったのか、覗き込むように見上げるみょうじの顔。

「な、…そ、そのような、事は、ない!貴様に心配される程、俺様は柔ではないのだぞ!何せ覇王なのだからな!!」


…取り乱して等いない。
上げたままであったストールに、助けられて等、もっと、ない。
断じて、ない。

『そう…?気のせいだったかな、ごめんね。でも何かあったらちゃんと言ってね。』

ああ、とだけ返し、依然みょうじを見ん事で心を落ち着かせる。


別に今日この刻に胸躍るがあまり、眠りの妨げになったような事等、ない、ないのだ。
…断じてないからな。


しばしの沈黙。
沈黙を愛する俺様にとっては、それは日常であり別段珍しい事でもないのだが…

それすらも不思議と小気味良いと感じるのは、みょうじだからなのだろうか。

ちらりと様子を伺えば、眼が合った。

『…そういえば、左右田くん…来ないね?』

向こうから誘ってきたのにな、と同意を求める視線を読む。

「…全くだな、己で交わした約束事一つ守れんとは…つくづく下劣な男だな。」


『んー、どうしたんだろ?何かあったのかな?…あ、日向くん!』

俺様の言葉とは裏腹に、左右田を心配するとはどういった領分なのか…。
日向を見付け、駆け寄る様も…いつに無く、腹立たしいような…どうにも俺様の心に暗雲が掛かるのだ。


「あ、みょうじ、左右田なんだけど…風邪引いたらしくて今日は無理みたいだ。なんか発明がどうの、とか言ってたから…夜更かしでもしたんだろうな。
行くって煩かったんだけど、俺のこと田中って呼んで暴れたから、ベッドに押し込んできた。」

『そっか、それなら仕方ないね。じゃあ田中くんと二人で行って来るね!』


フン…己が肉体で魔菌の駆除もままならんとは、実に脆弱だな。
大方みょうじの気を引く為に何か創造する魂胆だったのだろう。

が、絡繰に頼ろうというその発想がすでに…



なん…だ、と…!?



…内心にて勝利の甘美さを味わうのも束の間か、俺様は最大に危機的な状況へと引きずり込まれたのではないか。


みょうじと…二人きり、…だと!?



グッ…脈動が自棄に早いッ!
知らぬ間に奴等の攻撃を受けた、か!!??

俺様の高峻な葛藤等微塵も知らないのだろうみょうじは、何事でもないように言うのだ。

『左右田くん風邪引いちゃったんだって。だから二人になっちゃったけど…よろしくね?』

「ふ、フン…左右田等居なくとも、俺様が居れば十分だろう。
…他の者共に遅れを取ってはいられんからな、みょうじよ、心して付いてくるがいいッ!!」

『うん、二人だけど…頑張ろうね!』

という笑顔がまた…、なんとも…言えん。



そのまま直視するのは困難である事を悟った俺様は、
行くぞ!!、とだけ声を置き、
早々に魔窟(採集場所)へと足を進める。


遅れて少し小走りに、俺様の隣まで来たみょうじの気配を感じ、徐々に歩む速度を緩めていく。

俺様に掛かれば、こやつが負担無く付いてこられるようにする事等、造作もない。



並ぶみょうじの気配を、絶えず読む。

左右田という邪念より解き放たれたとはいえ、油断はならんからな。




…名と呼応したのか、そこで忌々しくも俺様の脳裏に左右田の厭ましい顔が浮かび、同時に底抜けに下卑た声が甦る。

「理想の身長差って、15cmなんだってよ!」



…認めたくはないが…その通り、なのかもしれん。


みょうじは、まぁ、端的に言えば…小さい、のだ。

一度俺様と並べば、頭一つ分は差が生じる。
それでは表情を読む事すらままならん。
…この距離は、奴とはかなり離れているのだろうな。


横目でみょうじを見れば、漆黒の流髪が目に留まる。
その明媚さにまた鼓動は煩くなるが、その髪束からは、やはり心までは量れん。



だが、なんとなくだが…もう少し、我が眼に収めておきたい衝動には駆られるのだ。
この先も、このように…肩を揃える事が、あるのか、どうかは…俺様の邪眼を以ってしても、解らんのだからな。



その心声を捕らえられたのか、しばらく沈黙を守っていたみょうじが、ふいに俺様を見る。

何故か久しいような錯覚に陥る、その表情は明朗だ。
その事に、つられるように口元が緩む。

なんだ…その、気まずいとか…そういうものが、微塵もなかったからな、安心した…というか、いや、そういう訳ではないが。


先を見据えるように、正面へと向き直ったみょうじは、独り言のように言葉を紡ぐ。

『…私ね、ちょっと左右田くんには悪いかなーって思うんだけど、今なんか嬉しいんだ。』



『…田中くんと二人で話す機会って、今までなかったから。
だから、なんだか貴重っていうか…凄く、嬉しい気がする。』


もっと話してみたいなー、って、思ってたんだよ。


そう語ったかと思えば、こちらを伺うように、そっと笑い掛けるのだ。





どこか不安げに見上げられる…まさに絶妙な、アングル。

その破壊力たるや…、喩えようもない、程だ…。




顔に集中していく業火の如き熱量だけは計られまいと、必死に顔を背ける。


しばしの沈黙は産んでしまったが、

何せ俺様は制圧せし氷の覇王!田中眼陀夢ッ!!

この程度のマインド攻撃…



ものの、15秒…程で復活して…みせようぞ…。



『…やっぱり私と二人じゃ…嫌だった?』

ごめんね、私ばっかり喜んじゃって…。
そう途端に顔を曇らせながらも、落胆を隠すように笑顔を造るみょうじ。

その表情が、悪手であった事を報せる。
まずは応えるべきだった、か…。


そして誤解を解くが為、何よりも先ず口が動くのだ。



「…フハッ!フハ…フハハハハ!!!!何を世迷い事を言うのだ、みょうじよ!!!先刻のは拒絶等では断じてないッ!!!
俺様の歴史譚より貴様でも耐えられそうな瘴気の希薄な話を選んでいただけの事ッ!!!
今更畏れたところで、貴様は俺様の話をその耳に刻み付ける他ないがな!!!」

『…ほんと?迷惑じゃ、ない?』

さっきまでの造られた笑顔すら消え、不安に満ちた顔が向く。

…気に掛かる相手にそう言われ…拒む男は居るのだろうか。


「…フン、もちろんだ。
そもそも迷惑であったら、俺様の隣を歩く事すら許されんのだからな。」


『…ありがとう。』

小さく呟かれた感謝の言葉と、広がる笑顔の片鱗。

…よくは見えんが、その表情は、華やいでいるのだろう。


ならば、良い。
見えずとも…俺様には確かに見えるのだからな。



『…じゃあ、早速、色々聞かせてもらおうかな!』

「ハッ!良いだろうッ!!!心して聞くが良いッ!!!」


俺様の話一つに、うん、うん、と相槌を打つその様。
時折口元に手を遣り、笑い声を抑える様。
同時に震える、細い肩。


『…それで、どうなったの?』


と続きを待ちきれんと催促するように、俺様の顔を必死で見上げる、その様。



その全てが俺様だけの景色なのだ。

俺様にしか見得ない…みょうじなのだ。



そこには他者が決めた理想等、必要ない。
…そもそも俺様が入り込む隙等与えないがな。





『あ、そうだ!あのね、田中くん。』

「む…どうした?」

次の魔獣の話を選ぶ間に、みょうじから話題が振られる。

『なんかね、皆がね、理想の身長差は15cmだって言うの。』


…何故、みょうじまでその話をっ!!!


「なっ…そ、それが、どうしたと…いうの、だ…?」

『でもそれだとね、私の身長だと170cm位の人に限られちゃうって事だよね…。』


…どうやらみょうじはその理論に反論があるらしい。


…ならば、俺様も全力で同意してやろうではないかッ!!!!


「ハッ!まさにその通りだな…そのような愚者共の戯言等に付き合ってやる必要等ないのだぞ、みょうじ!!!」

『…そうだよね、身長で相手が決まるなんて…なんか寂しいし!』

同意がよほど嬉しかったのか、全身で喜んでいる…フッ、まさかここで同意見とは、な。
やはり因果律の定めにより、俺様と貴様の思念は通じているという訳だな!



しかしそれも束の間の事。
先ほどまでと打って変わって、何やら神妙な顔をするみょうじ。

『でも確かに身長も大事ではあるよね…。』

「なっ…貴様、さっきまでと言ってる事が矛盾しているぞ!?」

な、…何を急に言い出すのだ、貴様はッ!


『あ、理想の身長差…とかじゃなくてね?例えば花村くんみたいに小さいのも可愛いし…。』


否、花村は見た目だけでなく全てに於いて可愛い要素は皆無だ。
貴様は解っておらんだけなのだ。


そう心中で訂するが、みょうじの言葉を妨げるのは憚られた為、敢えて沈黙を通す。


『…それにやっぱり、もっと背が高い人だって素敵だよね。
頼りがいがあるし、女の子の憧れが、色々できるかもだし!』

うん、それも素敵だなー、と一人で納得しているみょうじ。








に、同意する言葉が、出ないのは、何故なのだ。





…それは俺様が無意識に巻いた何重ものストールが、俺様の顔の大半を、…主に口元を、塞いでいるからなのだ、が。

…その原因は、追究すれば死ぬ事となるぞ。




『…あれ?田中くん?聞いてる?…え、それより、大丈夫!?呼吸できてる!?』


慌てたようにストールを剥がしに掛かるみょうじを、
口惜しくも、ぐもぐもと声になり損ねる呪文で牽制するが、
やはり術式は発動しない。

諦める気配のないみょうじから距離を取る為、戦略的撤退を余儀なくされる。




狭まった視界と、繰り返す浅い呼吸。

それも苦しく等はない、が、爆発までのカウントダウンのような脈動が、ただ痛むのだ。


逃れられんそれを仕方なく受け入れながら、色々と…思ってしまうのだ。



…隣に居る男が、それと合致している事も、それを素直に褒めている事も、気づいていないだけだ。

きっと他意等一切無いのだろう。


そう、冷静に掲げる俺様も居るが、巡る言葉が離れんのだ。




―俺様ならば、貴様の思う限りの憧れとやらを、実現させてやるぞ。




そんな浅薄な言葉が届かんように、
暴動的な鼓動を悟られんように、
今はしばし時を稼ぐ為、愛しき彼女の隣を、自ら離れるのだ。









*****




思ったより…あっさりした話になりました…。
というか、左右田くん出番少ない取り合ってない田中くんが乙女etc申し訳ないです(陳謝)

改めまして奴藺様、リクエスト有難うございました!
…ご期待に沿えず申し訳ございません。。。

あと田中くん落ちご希望でしたが、落ちてませんねむしろ田中くんが主人公に更に落ちちゃってますよねもうごめんなさいごめんなさい罵詈雑言を受け入れる準備はできています(土下座)

告白しちゃうver.の方が良かったかなぁ…先手必勝的な…これも書けたら書きたいです。。

てゆーかなんで井澤は田中くん視点で書いちゃったんだろうね、馬鹿なんだね、これモロバレですやん伏せた意味ないやん(真顔)


ただの謝罪なあとがきですが、最後までお読み頂きまして有難うございました…!
いつも長くて、申し訳、ない!
重ね重ねお付き合い有難うございました!!

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