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幻想
牢瞞、地下。(スーダン・田中眼蛇夢*若干閲覧注意です)
※お相手は田中くんです。キリ番リクエストで頂きました、本当に有難うございますっ!!(たいあ様、重ねて御礼申し上げます!!)

※舞台と致しましては、世界は絶望に突入中でございます。お題として「病んデレ」を頂戴させて頂きました為、ちょいと田中くんもやや危ない子となっておりますので…ご注意頂けますと幸いです。

※主人公ちゃんの特記事項はないかと存じます…また所詮井澤レベル(当人がガチビビリ)ですので、グロッシャスな表現等は大した事ないのでは…と思われますが、そこそこ凄惨な世界となっておりますかとおりますので、上記でご了承頂けましたら皆々様がいらっしゃいましたら、最後までお見届け頂けましたら嬉しい限りです。




******



ジャラリ、と。



常に付き纏う音は、鎖が私を結ぶ音。



ガリ、ズリ、と。



鎖が床を這い擦る音は、私の生を報せる音。






―彼が私を繋ぎ留めてくれる音―




―――




……ガ、タン!!




遥か頭上から聞こえるのは彼の音。
何重もの扉を拓いて、私の許へと帰って来てくれる音。




私が繋がれて居るのは地下深く。
数十メートル以上も地底のそこ。
陽光月光は一切望めない。
昼夜日時を忘れ去ってしまったここ。


もっとも……まだ太陽と月が存在しているのかも、怪しいけれど。





………きっと、元々は国保有の核シェルターのような場所だったんだろう。


でもそれも、国が機能していた時までの話。




世界が絶望に呑まれ堕ちたと知った時、彼は真っ先に私をこの場所へと閉じ囲った。



俗世の瘴気に触れないように、と。



まるでいつもの台詞で、私を優しく麻耶化して。





『…みんな大丈夫かな…無事、だよね?』



“みんな”、という、彼以外を指示すその言葉。
その一語が揺れた瞬間、ほんの刹那だけ、
その振動が彼の鼓膜を叩いたその一瞬だけ、


彼の視線が凍り棘付くのに、身震いを覚えた。



「………ああ、大丈夫だろう。
奴等とて、超高校級の才能を持得ているのだ。

だから貴様は何も心配するな、おなまえ………。」

それでもすぐに、
少しばかり力無く凪いだ笑顔を見せる彼に、
あやすように甘く抱かれる彼の腕に、
私は迷わず縋るを択んだ。




―そして数ヶ月。


どうしてこんな場所を知っているのかも、
どうしてこんな安全な場所に私たちしか居ないのかも、



何1つも聞けず、何1つも聞かず。
生きるに必要な貯蓄は豊富だったから、この小さな世界でただ2人。
外気の侵入さえも赦さず、生きた。




思えば、この場所に踏み入った時には既に。
きっと―。




―――


ギィ、ゴ…ゴゴ……。




…彼の音が、近くなる。

地表から離れ、この地底へと、彼が。

私の為と、潜ってくれている、その証の音。




あまり聞く事の叶わないこの音が、私は心地好くて好き。

今、ここに、私と、彼が、生きている事を確かめられるから。




……不思議な程に2人だったから。

不思議な程に、この音が彼以外かもしれない、なんて。

そんな疑問は、微塵も湧かずに。

ただ良い子に、彼を待っていられる―。







―やがて、月日と共に貯蓄が尽いた時。

彼は、外へ出る、と言い出した。



『えっ…危ないよ…。

どうしても行くなら……それなら、私も連れてって…!』


泣いて、泣いて、泣いて、

涙を流して、訴えた。


彼が私の涙に、何より弱いと知ってるから。
そうすれば、私の想いを汲んでくれると解っていたから。

酷く狡猾に、願いを説いた。



でも、彼と離れる位なら。
武器を出すのも辞さずに、攻撃の手を緩める事なくと、泣き続けた。









……それでも、彼は。

最後まで、私を一緒に連れて行く、とは言ってくれなかった。



あの、彼が、折れなかった。

涙まで、出したのに。



ううん、きっと。

泣いて、泣いて、泣いて、

ふと疲れで意識が飛んでしまった時。

私が負けてしまったから。



もう……全てが、終わってしまっていた。







『…んん、っ……。

ん、ぅ…おも、い……?』



ガシャ、ジャ、リ…。




利き腕と、軸足に掛けられた鎖枷。




観た瞬間に、それが、彼の答えだと理解をした。




―けれど、



……人を無力化させるのに、なんて効率的。


なんて………彼らしいんだろう。





もっと、もっと、方法は、いくらでもあったはず。



それでも、最低限以外を排除され、繋がれる。

追えない事が明白なのに、彼が繋いでいてくれる事が嬉しいと想う私は…もう、よっぽど。





……拘束というには、自由の残る鎖の長。

それでも、自由と呼ぶには少し、不足の長。

絶対に、決して、その扉には手が届かないように。

計り尽くされた、絶妙の長。



私が、科せられたそれを確認するのを待っていたように、
眠る私を支えるよう寄り添ってくれていた彼が、それを言う。

「……済まん、おなまえ。

だが…俺様には、貴様の身心が創負う事が遭っては……それこそ、堪えられんのだ。」

共に連立つ事だけは出来んが……此処で、待っていてほしい。

貴様が生きている限り…決して、決して俺様は、貴様を置いて逝きはしない……。



………必ず、戻る。

貴様の許へ……還る。



ぎゅ、と。
切なげに紡がれた言葉は彼の顔を歪ませて、痛い。
でも握られた手が温かくて、見詰められる瞳が澄みやかで。

何も言えなかったけれど、私は多分笑っていて。
彼の表情が緩んだのを見て、なんとなくそれを想う。
自分の心がそれに向かって行く事も、想う。


「…だから、しばし睡ると良い。

ここ数日と、碌に睡眠を摂っていなかったようだからな……。」

……貴様がまたと瞳醒める前に…戻る。



優しく、彼の右手が両の瞼に触れていく。

彼の手に、指に、熱に、声に、理に。

従う私のそれは、唯その役目を受入れる―。





――



今この世界で、最も信頼できないのは、時計。
狂っていても、気付ける誰か、何かが、無い。

どれくらいの時間が経ったのか、も
そもそも何月何日で何時なのか、それが意味するものはない。


もう、時間で彼は縛れない―。








いつも、いつも、彼は私を眠らせてから外へと向かう。
そして、ほとんどは私が目覚める前に、もう戻ってくれている。


その時は、鎖枷は外されていて。
彼に抱き抱えられての、目覚め。


離れていた記憶がなくても、
離れていた実感が襲うから、


戻ってからは、気を張り詰めて、二度と彼を行かせないように、ずっと彼の傍に居ようとして。


だからこそ、きっと数日で私の意識は途切れてしまう事を知るけれど、
それ以外に私が、彼を少しでも引き留めておくことなんて出来なかったから。



でも、結局彼は行ってしまう。
私の眠っている間に、行って、戻って来てしまう。


…何時行ったのかも、何時帰って来てくれたのかも分らない。
そして早く帰ったとしても、彼が私を起こす事はない…。




……だから、こうしてたまに、彼の帰りを待てる時間が好き。

彼が戻った瞬間を共有できるから、
彼と過ごす時間が…少しでも長くなったように、思えるから。



―――


ズ、ズ、ッ…ガッガガッ…!!




この小さな世界で最も重苦しい扉が拓く音。

それは私が居る最下層への最終壁扉。

彼の帰りを告げる音。





微かに耀らむ視界に揺れる1つの影。
同時に這入り込むは、馴れを拒む異界の異質。



「………ッ…!

…醒きていたのか、おなまえ。」



少しだけ驚いた後、優しく愛おしく、私を呼ぶのは紛うことない彼の音。







私の姿を瞳に留めて、半身を血で雪ぐ、彼の。






その血が誰のものなのか。


もし、もし……彼のものだったら。


それだけは私の世界を壊してしまうから。
危険信号が点るように、視界が鮮血の赤にじわりと蝕まれていく。



『…眼蛇夢くんっ!!…大丈夫!?……んっっ…。』


駆け寄ろうとすれば、ジャラッと阻まれる鎖の在。


「…ああ、問題無い。
俺様の紅血ではないからな…。」




…じゃあ、誰の?何の?


なんて……聞かない。

聞く為の全てが、私には、もう無い。



『……本当に…怪我、してない?』

「……ああ、もちろんだ。」


…猜疑が残ると言うならば……貴様の瞳で観定めろ。


赤い飛沫を散らした頬のまま、この上なく柔らかく笑う彼。


いつもと同じ、私にだけの、笑み。


何も、変わらない。


彼は私に、変わらない。


こんな状況でも、こんなに身を汚していても。


何1つ、変わらない。




それがどんなに、異常なことだとしても。






慣れた手付きで錠を開け、誘い抱かれる彼の胸。


鮮血が……まだ、湿り滑る彼の胸。



鼻腔に容赦なく突き刺さる生々しい臭気に、
思わず私が顔を顰める正常さえも。

彼は矢庭に確かめては、
狂気と恍惚を瞳に描き、
愛おしいとばかりに、悦び、笑う。





そしてその笑顔の下で、
生を喪った何かの紅に触れて、
その喪われた熱量に、
安らぎを覚えていく、私。







……こんな私を、彼は、まだ。






―――



貴重な水を分合うように。

戯れのように身を清める。



それはたった2人だけの世界で、足りない全てを埋め合う事を兼ねるように。






それでも、2人だけでは埋められないそれを満たす為に。

彼は外へと臨んだのだ。





「…おなまえ、これを食せ。」


差し出される食料は、この世界で可笑しな程に。

美味しそうな香りを放って、新しい。





『…ありがとう。
眼蛇夢くんも、一緒に食べよう?』

はい、これ眼蛇夢くんの分。
一緒に食べてくれないと、私も食べないよ?


手で半分に千切り分けて、そう笑顔で差し出して。

「む、それならば仕方無いな……。」

冗談めいた脅迫に、フッと折れる彼がそれを受け取るのを確認して、
ぱくり、となんの躊躇いもなく。



……だって、彼が。

一縷でも怪しいものを、私に渡す訳がないのだから。





―喩え、空腹なんて微塵も感じていなくても。

絶対に、おいしい、と言って全てを平らげる。

生きる事も、世界も、諦めないように。



全部、全部……彼の為に。


だから延いては、私の為に。




『…おいしいね、眼蛇夢くん。』

「…ああ。」

私がぱくぱくと、淀みなく食べていくのを、
なんの疑いもなく…体内に入れていくのを、
彼はいつも、安堵の表情で、見守っている。


…どこか、何かに恐れている、ように。


私が、少しでもその疑問を口にしてしまったら。
彼は、私にどんな残酷な現実を言うのだろう。
それとも、それすらも言わず、嘘で私を固めてしまうのだろうか。



最後の一口を、はむっと放り込めば、
彼が私の身体を引き寄せて、左半身からばふっと彼の胸へと落ちていく。

「……おなまえ、愛している。」

まるで、全部食べ切った事を褒めるように、顔を寄せて囁かれる。

『…ん、くすぐったい…。』

その甘さは、私の知る彼の愛情そのもので。
照れて二の句が継げない私に、彼は少し拗ねたような顔をする。




……この世界で、こんな遣り取りをしているのは、異常なのかどうか。

私にはもう、解らない。


だけど、

彼が何を犯して、それらを得たのか。
何を犠牲にして、私にそれらを渡すのか。


全て知った上で、それでも、彼と生きる為に。
全て知らないフリで、彼が望むままを望む私の…
どこか希望だというのだろう。



それでも、彼が私はまだ絶望などしていないと。


希望、だと。


彼がそう願い、望む希望を持つ限り、私は彼の思うままで居よう。

ただ彼の言葉を疑わず、彼に与えられる愛だけを信じる“希望”となると決めたから。




『…私も、大好き。』

それでは満足しないだろう彼の為に、
小さく口ぱくでだけ、愛してる、と言って見せれば、
彼が幸せそうに笑ってくれるから。

私もどうしても、幸せだと、想ってしまうから。




彼の笑顔が大事だから……私は、私で在り続ける。




―――



『……眼蛇夢くん。

…私も、大好き。』


そして小さく、音は無く、口先で紡がれる、情愛の詞。

全てと預けられる、彼女の華奢な身。

彼女は、今日日も……俺様の知る彼女、だ。




それが、外界に臨んだ俺様にとって、どれだけ悦ばしい事だったか。






……彼女は、未だ、それを智到していない。


故に、彼女が、外界に触れるも、識るも、全て。


それだけは、避けなければならぬ事体。



彼女が‘絶望’へと堕ち墜つ刻が到来したならば、

それば俺様が起因に他ならないだろう。





だが、彼女は、未だ。











『…みんな大丈夫かな…無事、だよね?』


俺様以外の誰かまでと。
意識に昇るは腹立たしい……が、それさえも、彼女が正常たる、‘希望’たる報せ。



―ああ、彼女は、無事、だ。


あやつ等も、真に平穏無事に。

刻下この瞬寸も、その身に背負った任義を果たしている。






……樹木を鎖隠すならば、鬱蒼密を窮める樹林が中へ。














嗚呼、そうだ。







―人間を隠すならば、人垣が内に。














人間は、人間で、閉じれば良い。









五体の満不は限らんが、
一人として残さずに、
あやつ等は、無事、に。



彼女が無事を、望む希望なる絶壁として。
今日日も酷く、平穏無事に在る。




死して尚も高遠だと。
そう賞して遣るが相応しい、か。





………否。
所詮…あやつ等の存在すらも、彼女が在って初めて可視される物。


そう、彼女が為に過ぎん……関が山、だな。






肉塊が喪われれば、絶壁に狭間が生じる。

それを補い、繕い、日毎とその間を縫うように。

人垣を積重し続けて来た。




拠って既に……どれがあやつ等なのか、等。

疾うに解る状態でも無いのだろうが。




あやつ等が無事を、彼女が望むなら。







このまま先も、あやつ等の粉骨一切が消果てようとも。



この無事を、彼女を護るがその為にも、



知られぬ事が、最良にして必定。





彼女を‘絶望'と、堕ち沈ませる引金と成り得る合切を排除するこの人垣。

それこそが当に彼女が‘絶望'だとしても。





その不可侵を護る為、彼女と只、二人で生きる為。

彼女が睡落ちる安らかな寝顔を見届けては、

向後も人垣を積重し、

彼女が命の糧を得るが為に、

俺様は外界へと赴くだろう。








「……そうか。

おなまえ、俺様も…愛している。」


そう、預けられた彼女の全てを抱ける、この刻が為に。







*****

ゴールデンな休日最終日に上げるようなハッピーなお話とは言いにくい代物で…なんというか、もう、申し訳、ない限りです…皆々様、ごめんなさい…。。。
井澤の中では2人はめっちゃ幸せっちゃ幸せなんですが…あああいえごめんなさい何でもないです黙ります!!汗。

たいあ様にも素敵なリクエストを頂きましたのに、病んでるって…こういうので合ってましたでしょうか……病んデレ、というジャンルにも疎く、このような仕上がりで本当に申し訳ございません…突き落とされる準備は万端です(無の境地)


簡単な後書きと致しましては…これは置いて行く場合の田中くん、ですね。
置いて行く事こそが、主人公ちゃんを一人占める必要条件、の状況下ですんで…まぁ、平たく言えば軟禁のお話ですか(オブラートォォォ!!!)

軟禁する事で、例え自分が死んでしまった後も、彼女も死ぬまで誰の手にも堕ちない、の寸法での病んデレ、です。
あくまでも井澤の中でですが「病んデレ」というカテゴライズでして…「絶望」のお話だと明記させて頂く事は…前置き、本文、こちらでも、避けさせて頂きたい次第です。
なんでやねん、の詳しい部分に尽きましては、ダンガンロンパの世界観根本への挑戦状になってしまう気もしなくはないので、懺悔に次ぐ懺悔と一緒に、また別部屋にて場所&お時間頂ましたら幸いです…。

兎にも角にも、こんなお話で申し訳ございません…。
最後までお付き合い頂けましたご寛大な皆々様、本当に有難うございました!!(深謝)

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