幻想 触れぬ汚れと、触れる穢れと。(スーダン・田中眼蛇夢) ※突発型夢でございます、内容が少々重い…かも、しれません(井澤夢比&悲恋系ではございません)ので、ご注意の程、よろしくお願い申し上げます。 ※そして何よりも!男性の方々、どうかお読みにならず、プリーズバックお願い致します(土下座) 主人公ちゃんが男性不信&軽く潔癖の設定がございますので、大変に、多分に、不躾な描写がございます、どうかどうか宜しくお願い致します(必死) ※主人公ちゃん容姿設定はございませんが、上記の気質設定がございます。 こちらをご快諾頂けました方々がいらっしゃいましたら、ご一読頂けましたら光栄至極です。 ***** …汚い。 男の人は、汚い。 何に触れてるのか、誰に触れてるのか、何も解らないから。 例えば電車…とか。 切符さえあれば、誰でもが同じ箱の中。 素性なんて誰も解らないから、 全部、誰もが、汚い、と…この空間自体すら、そう思ってしまう。 飲み屋街のすぐ裏通りには、如何わしいばかりのお店が並んでいて。 その通りを歩いているだけの人が、全て、汚く見えてしまう。 やっぱり飲み屋さんに入っただけの人かどうかなんて、解らないから。 だからそれに紛れて、何食わない顔で歩いているのが、汚い。 本当に、汚い。 触れたくもない、すれ違いたくすら、ない。 …父は、浮気をして家を出て行った。 ましてやその浮気相手と、再婚して。 ママは泣き崩れてた。 それ以来…泣いてはいないけど、結婚もしてないし…付き合ってる人が居た事もない。 ママは諦めたんだと思う。 男の人を。 それが女性としての終わりだとしても、私はママの味方。 いつでも、いつだって、どんな時だって。 だって私も、私も汚いと思うから。 心から。 心から愛した人を、心から裏切れるんだもの。 どうしようもなく、汚い。 汚くて、怖い…。 『…おなまえ、いいのよ、私に気を遣ってるなら…ばかな事なんだから。 もうそろそろ貴女も年頃でしょ?彼氏の1人でも見せてほしいくらいだわ。』 そう笑うママの顔は、寂しいけれど、綺麗。 けれど、本心も混ざってる事は、知ってる。 自分のような目には遭ってほしくない、と男の人を遠ざけたい思い。 それでも一生、自分の娘が独り身だなんてと、そんな寂しさを味わわせたくない思い。 一緒くたに混ざっていて、どっちが多いのかなんて、解らない。 でもママの為じゃないの。 私自身が、男の人を信じられないから。 別に、このままでいいよ―。 ――― 高2の春。 クラス替え。 そして、席替え。 …私の一番、嫌いな季節。 せっかく、せっかく今年は、女子もみんな優しくて、可愛くて、楽しそうなクラスだったのに。 なんで学校って場所は、男女をセットにしたがるのだろうか。 必ずのように、最初は、隣は、男子。 未成年だろうとなんだろうと、私が汚いと思うのは、同じ。 男女という区別を持ってしまったなら、もうそれは男の人。 私の、敵。 だって根本的に違うんだ、男の人ってものは。 …長い長い、始業式。 私だけは、終わらなければといいと思う。 誰かが倒れちゃったとしても、それでも、ずっと、続けばいいのに。 …ああ、教室に行きたくないな。 一度足を踏み入れれば、隣の誰かが、そこには居るから。 ―― そんな私の願いも虚しく。 時間が経てば、何でも終わってしまうもの。 今は、結局、教室の後方で立ち尽くしている。 先生が、早く座れ、と言っているのが、別世界の事のよう…。 それでも社会の歯車な私は、黒板で席の確認をする。 (…隣…やっぱり、男子、か…。 田中…なんだろ、あれ…読めないな…。) 馴れ合うつもりはないし、信じないし、理解もできないだろうけど。 いわゆる普通、という位の接し方は、するつもり。 存在自体を拒絶する程、もう子供でもいられないし…。 (……まぁ、こうしてもいても仕方がないよね。 苗字が読めれば十分でしょう。) とりあえず、黒板とルールに従って、 指定の私の席へとガタっと座る。 ごく普通に、ごくごく、普通に。 「…む?貴様がみょうじか…?」 『え?…ああ、うん、そうだよ。 よろしくね、田中くん。』 わ、座った瞬間に話かけられちゃった…。 しかもなんか、見た目とか…色々…面倒そうな人、だな…。 軽く引きつり気味な笑顔で挨拶をすれば、 「フハッ!!生憎だが俺様は貴様のような只の人間如きと馴れ合うつもり等は無いッ!! 我が名は田中眼蛇夢ッ!!制圧せし氷の覇王にして、この地球(ほし)が最大最悪の災厄なのだからなッ!!!」 フハハハハッ!!と、聞いてもいないのに盛大な名乗りをあげて頂いて…。 ああ、本当に関わると面倒な人だったみたい…。 でもなんていうか、向こうも馴れ合わないって言ってるし、助かるな。 ならこれはもう、はっきり言っておいた方がいいのかも。 『あ、ああ…そうなんだ? でも私も男子と馴れ合うつもりはないから…むしろ助かる位、かな。』 「ほう?ならば話は早いな。 …良いか?此処からは俺様が結界内だ…この境界を越えれば貴様の脆弱な身等、その形を留める事すら困難だろうからな、くれぐれもこれ以上俺様に近付くな。 触れでもしようものなら、腐り朽ちるぞ。」 私たちの机の間、ちょうど真ん中の床の木目を指しながら、 ここから先は俺様のテリトリーだ、と主張してくる田中くん。 …あれかな? 女子に触られるとか、恥ずかしい小学生? 結界とかなんとか、流行の中二よりもなんだか精神年齢低めなような? …なんて思考が走ったけど、 何より、私にはありがたい事この上ない人、だ。 『…そっか、解った。 私はこれ以上近付かないし、もちろん絶っ対に、触ったりしないよ。』 約束する、と言って。 「む、貴様…人間にしてはなかなか物解りが良いな。 ならば……宜しくお願いします。」 偉そうな態度から、急に丁寧に挨拶をしてくる田中くんに、力が抜ける。 ていうか馴れ合わないっていったそばから、よろしくって…どっちだろ? ちょっと天然、なのかな? なんだかそのギャップに、つい少し笑ってしまった。 「…む、何故…笑う!?」 『ふふ、ごめん。なんか、意外と礼儀正しいんだね。 うん、改めてこちらこそよろしくね。』 「…フン、貴様らが世界の常套に合わせてやっているだけだ。」 気に入らないって感じで、ぷいっと横を向いてしまうのもすごく解り易い。 …男子もみんなこれ位、本当に解り易ければいいのにね。 あーそれにしても、男子と話して、愛想笑い以外で笑うとか、結構久しぶり…かも。 なんか、田中くんと話すのは、どこか懐かしい気がする。 …もっと小さい時は、別の意味で男子に触れるのがどうとか、考えてもいなかったな…。 意識した頃には、バリアーとか、触ると菌が移るーとか、変な遊びもあったような気がするけど。 なんてゆーか、その感覚? まだ汚いとか、そういうの、なかった時代を思い出させてくれるみたいな…。 しかも彼が私に触る事はないし、私もこそこそバレないようにと避ける必要もないなんて。 ―うん、この春の席替えは、最高の席なのかもしれない。 ――― …最初からそうだったけど、彼は本当に変わってる。 そのお陰でまだ嫌悪感はない、ある意味最高のお隣さんだけど、 『ねえ、田中くん…貴方のテリトリーだから、いいんだけどね? 絶対に、絶対に、こっちに入れないでね?』 「…む?みょうじ…苦手だった、か?」 ひっ!! こっちに、向けないで、よ!!! …毎日毎日、移動動物園なんですか?って位に連れて来られる動物の数々が、多種多様過ぎて困ってます。 今日はイグアナ、だそうで。 トカゲ類のあの見た目やら何やらに、どうしても拒否反応が出てしまう私には正直辛い。 思わず凄い勢いで目を逸らしてしまったのは言うまでもなく…。 「…そうだったか、何故早く言わんのだ。」 『…え?』 と振り返った頃には田中くんの姿はなくて。 数分後に帰ってきた彼の手には、イグアナももう居なかった。 『あ、れ…?良かった、の?』 「…フン、貴様は忠誠に俺様との境界協議を守っているからな。 視覚のみとはいえ、俺様の挙動が貴様の境界を侵害したならば、それは違反になるだろう…。」 なんだか難しい顔をしてるけど、 結局私が苦手だから、戻してきてくれたって話…? 『…なるほど、そういう事まで気を配ってくれるんだね。 じゃあ私も田中くんの苦手なものは、持って来ないようにするよ。』 何が苦手? そう素直に聞けば、 「ハッ!!!俺様は制圧s(略)田中眼蛇夢だぞッッ!? この世界に於いて、毒以外に俺様を侵略できるもの等あるはずも無い…。」 クククと、なんだかモードに入ってしまったみたいなので、ちょっと面倒になってしまう。 『んー、そう? じゃあ、私トカゲ類ダメだから、悪いけど協定に追加しておいてね! 他も思い付いたらすぐ言うようにするから…よろしくね。』 さあ聞くが良い!とばかりな彼は放っておいて、自分の要求をぶつければ、 「…貴様は…真に自分本位な女だな…。」 呆れるように呟かれたけど…。 だって、馴れ合わないっていうのが大前提だったはずだし、ね? 私だって、せっかく男子で、友達、っていえそうな人ができたのだから、このままで居たい位には思ってるし。 それこそ律儀だなって位、 「…みょうじ、明日は…ウォンバットの散歩予定だが、その…大丈夫、か?」 連れてきてもいいかどうか、聞いてくれるようになって。 …いつもどこから連れてくるの?と聞きたくなるのはとりあえず抑えて、 『ウォンバットか…名前だけは聞いた事あるけど、実際に見た事ないし、見てみたいかも。』 「…そうか!ならば愉しみにしているが良いッ…!!」 うん、楽しみにしとくね。 と答えればフハハハ!と嬉しそうにしてくれる田中くんを見て、 向こうにとっても、友好的な隣人なんじゃないかなと、少しだけ嬉しく思う自分を知る。 ―― 『…おなまえちゃんさ、男子苦手だって言ってたけど…田中とは結構話してるよね?』 『ごふっ、ん、ぐ……。』 女子だけの、昼食会中に、思わぬ名前が出て、むせる。 『んん、……それはまぁ、お隣、だし…。』 『アタシ、正直心配だったんだよね…ほら、田中変わってるじゃない? ていうか、おなまえちゃんだって、初日からテリトリーがどうのとか、触るな、とか言われたって。』 ああ、その事ね…、もぐもぐ。 むしろ助かってるんだよ、とまでは言えないけど、 『んーけど、その協定があるから、逆に解り易いというか、接し易いというか、なんだよね。』 『ふむふむ、意外にもおなまえちゃんと眼蛇夢ちゃんは、波長が合ってるんすね!!』 んー!ロックっすね!! と唯吹ちゃんが言うのはよく解らないけど、 いつもどこかで付いて回ってた、 汚い、の意識を忘れさせてくれるのは、確か…かも。 『でもぉー田中おにぃってさぁ、男子にまで近付くな、とか言ってるんでしょー? ホント中二拗らせるのもほどほどにしてほしいよねーっ。ああいうのが将来社会のゴミになるんだからさー!!』 …本人にも聞こえればいい、って感じの大声で日寄子ちゃんが話す内容に、素直に驚いてしまう。 『…え、そうなの?』 『それなら唯吹も創ちゃんから聞いたっすよ!!』 へえ…女子だけ、じゃないんだ…。 私なんかより、徹底した他人排除。 私の原因は、汚い、から。 男の人が信じられなくて、汚い、から。 …もしかして田中くんも、何かあったのかな。 ていうか、そうか…田中くんは、誰にも、触らないんだ。 男子にも、男の人にも。 …汚いものみんな、触ってないのかな…。 考えてもしょうがない気がするのに、ぼんやり考えてしまう。 それでももぐっと昼休みが終われば、みんなと別れて席に戻って、彼の隣へと座る事になる… 実のところどうなんだろう?と、 お隣さんを見てみれば、流石に心配になるほど真っ青な顔。 『……どうしたの?』 「…聞くな。 俺様がこの程度の毒に屈する訳にはいかんのだからな…。」 ぶつぶつと、毒がどーのこーの言ってるその姿からは、全然解らないけれど… なんとなく、今は聞かなくてもいい気がして。 だっていつもと何も変わらない彼に、どうにも今日は安心する気がしたから。 ―― 楽で、助かって、唯一友達のような、隣人男子。 それが変わってしまったのは、夏。 体育の、日ー。 なんで超高校級の才能を持つ子ばかり集めたこの学園で、 体育の授業なんであるんでしょうか。 だって才能っていってもさ、超文学系から超体育会系、ましてや超科学(?)系までいるんだから… 同じ運動をさせる、なんて不平等だと思いませんか。 しかも男女合同。 今時高校生にもなって、男女合同、だなんて。 本当に、ありえないと思うの…。 (…でもサボれる程、私は度胸もないんだけどね…。) バレーボールかぁ…。 これまた、憂鬱な、競技。 …球技は、嫌い。 誰が触ったか解らないならまだしも、誰が触ったか解るボールが、飛んできてしまうから。 だから運動音痴なフリをして、極力球には触らない。 全力で避ける、避ける、避け―。 ボコッ! …後ろから飛んでくるとは、思わなかった、な…。 「悪い!大丈夫か!?」 ああ、当たっちゃった…。 あんまり痛くはないけど、当たったとこ…洗いたいや…。 …保健室、行かせてもらわ、なきゃ…。 『…ごめん、ぼーっとしちゃってた。 ちょっと保健室だけ行かせてもらおうかな、でもそんなに痛くないし…一人で大丈夫だから…。』 謝りに来た男子から逃げたくて、付き添いを断ろうとする。 「な、大丈夫じゃねえって、思いっきりいったしな、ちょっと見せてみ― 『っ触らない、でっ!!!』 ほんの少し、指先が髪に触れただけなのに、ダメだった。 汚くて、汚くて、汚くて。 思いっきり、拒絶してしまった。 自分で作ってしまったその空気に、耐えられなくて、 『あ、ご、ごめん…その、思ったより、痛いみたい…だから、…保健室、行って…くる、ね…。』 また触れられてしまうかもしれない不安が迫って、 ただ、ここから、逃げ出したかった。 ―― 汚いー。 汚い―。 汚い…汚いっ!! シャワーを全身で浴びたかった。 流水が、首を伝い、顔まで掛かってしまうのが、気持ち悪い。 全部、綺麗に、綺麗に流したいのに、 今ここではできない。 『…うっ…ひ、ぐ…ぅぅ…。』 心配してくれただけなのに、それすら信じられない。 彼が何を触っているのか、信じられないから。 自分が知らないところで、一体何を触っているのか、得体が知れないから、怖い。 だから汚い、と。 でも、そう思ってしまう事すら、本当は、苦しい。 「……みょうじ、大丈夫か…?」 『…う…ぅ、…た、なか…くん…?』 2つ隣の水道に、凭れ掛かるようにして私を見ている田中くんと、ぼやけながらも軽く目が合った。 それ以上は近付かないで、ただ、様子を見ているだけ。 なのに、心配してくれてる事だけは、すごくよく解る。 あんな態度で飛び出してきたのに、何で私の心配なんか…。 水滴と混ざりながら流れ落ちていく涙を見送りながら、ゆっくり彼から目を逸らす。 「……無理は、するな。」 田中くんは、私から目を背けずに、そう言ってくれる。 …なんでかな、優しい、って、心から思えた。 田中くんだって、男子なのに。 何も変わらない、はずなのに…。 でも、彼の前から逃げる気には…ならなかった。 …田中くんには、嘘つかれた事ないから? 田中くんは、誰にも触れて…ない、から? じゃあ、私は、田中くんを信じて、る…? ねえ、それって、どの、無理…なのかな。 田中くん、知ってるの? 田中くんも、無理…してるの? 私、無理してたのかな…。 『…ごめん、ね…。』 「…何故、謝る?」 ずず、っとお鼻を啜って、明るめの声を出して、 『…だって、心配、してくれてるみたいだし…。 今だって、こんな泣いててさ、面倒だよね…。』 「…貴様にも、事情があるのだろう? ……貴様は、男とは、馴れ合わんと…言っていたから、な。」 ああ、解ってて、来て、くれたのかな。 …でも、聞かないんだね。 優しい、な。 『…うん。 私、ね…、ダメ、なの。男の人、が。 触れないの、ほんのちょっとも、全然。』 「…そうか。」 ただ、静かに、なのに真剣に、聞いてくれるから、 なんだか田中くんには、話せる気がした。 『…お父さんが、ね。 浮気して、その人と、再婚…して。 信じられなく、なっちゃったの、男の人、が。 …しかも全然、全然知らない人に…触って、何もなかったように、家に、帰って…来てたんだって、思ったらね…?』 すごく、すごく…汚い、って。 怖い、って…思っちゃったの。 「…そう、か…。」 『……こんな話、聞かされても、困るよね。』 ごめん、ね。 田中くんは…男の人、なのに、ね。 ああ、私、唯一の男友達…なくしちゃった。 『…ごめん、ね。』 謝っても、もう戻れないだろう、けど。 「…ああ、本当にな…。」 2つ隣の水道から、田中くんが…歩いて、くる。 一歩、そして、もう一歩。 …その、たった二歩で、いつもの境界を越えてしまう。 ねえ、テリトリーは? 協定は? そんな疑問、飛ばす時間なんてなくて。 だって、いつだって、隣の席だったから。 私達のテリトリーなんて、所詮、そんな距離。 破ってしまえば、すぐ…目の前。 そんな僅かな距離に、私は…こんなにも、守られていたんだ。 でも今…破られ、た。 …やっぱり、なくしちゃったんだね。 へたり込んだままの私に合わせて、彼もしゃがみ込むように、 「……俺様も怖い、か?」 今までにない近さで、彼が微笑んで。 右手が…ゆっくり、近付いてくる。 …なのに、怖い、とは、不思議と思わない。 でも…解ん、ない。 田中くんは優しいから、解んない。 逃げようとは思わないけど、身体が動かないのも確かで… だから、ただ見詰め返す、だけ。 「…そう、か。 そうだな…結局は俺様も…貴様が忌み嫌う男に過ぎんからな…。 …貴様が…、貴様が、男が汚い、と。 男に触れられたくないと…泣き腫らしているというのに…貴様の涙を止めてやりたいと、貴様に触れたくて…堪らんのだ。」 どこか辛そうに、吐き出してる、みたいな、言葉。 一度、軽く目が伏せられて…その目が戻ってくれば、 決意したように、まだ彼が続けていく。 「…まして、これまで全てと男を拒絶していたと知って…それを心嬉しいとすら想うのだ。 ……俺様だけが触れられれば、と…もし、貴様が穢れる刻が訪れるならば…それも、俺様の手であれば…、とまで…想ってしまうのだからな…。」 済まない、と苦笑して。 あと数cmのところまで近付いていた手が、遠ざかっていく。 …何、それ…。 だって、田中くんは… 男子にすら、触れないんでしょ…? 私に触れたい、だなんて… 意味解んない、よ…。 解んない、けど… …解んないけど、田中くんが、本当に汚いかどうかは…知りたい…。 『…た、田中くんは…誰にも…男子にも、触らないって……本当…?』 …私には、大事だから、聞いて…みようと思った。 「…ああ、これまでは…確かに、そうだ。 …俺様には不要だったからな、人間共との馴れ合い、ましてや触れ合い、等…。」 突然の疑問にだって、田中くんは…ちゃんと、答えてくれた。 真っ直ぐ、真っ直ぐ、目を見て、言って、くれた。 …やっぱり、田中くんは、誰…とも。 …なら…誰より、私より…きっと。 思うのに、言葉にならなくて。 彼に先を越されてしまう。 「…だが、それもこの刻まで…。 …好きだ、みょうじ。 俺様が触れたい等と想ったのは…想うのは、貴様だけだ…。 ……もちろん俺様の想いに応える必要は無い…。 しかし、そうだな…叶うならばこのまま、貴様が他の男に触れられる事等…無ければ良いのだがな…。」 貴様がこんなにと、苦しんでいるというのに…。 済まない、と。 また…田中くんは、謝ってる。 ……無理、してくれてるんだよね? 私の為…? 私、なんかの…為? 本当に…? …私……私、は……。 『…ねえ、田中くん。 これまでも…これから…これから、も…。 ずっとずっと…触れたい、って想ってくれるのは…触れる、のは…私、だけで…いてくれる…?』 止まっていたはずの涙が、また、ぼろぼろ、溢れて、いく。 「…ッ!! …ああ、ああ。 貴様が望むならば、この命が尽きるまで…貴様だけだと、誓おう。 …俺様を…俺様だけを、信じてくれるのか…?」 これ以上ない位、柔らく笑ってくれる田中くん。 今までずっと…誰にも、誰にも触れなかった田中くんなら…信じ、たい…。 ううん、信じられる…気がする。 『…うん、信じる…よ。』 びしょ濡れの顔のまま笑えば、 遠ざかったはずの彼の手が、また戻って…くる。 ゆっくり、ゆっくり、私を待ってくれるように、ゆっくり。 そっと、触れるだけ。 それでも届いた指先が…温かくて優しかったから。 どこまでも田中くんだったから。 …受け入れられたのが、私も…嬉しかった。 だから、自然と笑い掛けられた。 彼も…笑って、くれた。 「……ならば、誓おう。 愛している、おなまえ…。 これから先も、永久に…な。」 …誓いに合わせてギュッと握られた、 田中くんの手の大きさに…安心、して。 きっと大丈夫だって…また泣きそうに、なった。 …ああ、私…本当は、信じたかったんだ。 どこかで…信じられる男の人がいるんじゃないかって、思ってたんだ。 『…ありがとう。 私…田中くんに会えて…良かった。 だから私も…誓う、ね…。』 私もきゅっと、彼の手を…握り返して。 また、二人で肩を竦めて、笑い合った。 ―― 泣きじゃくって酷い顔だし戻れない、と言ったら、 なんだかんだ心配だからと、田中くんも戻ってくれなくて。 たいして腫れてもいない後頭部を、とりあえず濡れタオルで冷やす事を強要されている現在…。 …結局、田中くんと手を繋いだまま、授業をサボってしまった。 ……落ち着く、けど…でも…なんか…恥ずかしい、な…。 今も、しっかりお隣さんな田中くんを横目で見れば、 「…どうした?」 すぐ気付かれてしまうから、本当に近いものだと、改めて思って意識してしまう…。 恥ずかしさを誤魔化したくて、話掛ける為だった、ということにして、 『…でも、私だけで…本当に、良かった、の? むしろ…田中くんの方が…私より、綺麗だと思うよ…?』 だって、誰にも触ってない、し…。 そう、口ごもりながら、言う。 「…フッ、貴様は可笑しな事を気にするな? …他の男共は先のように拒絶してきたのだろう? 貴様程清く廉潔な女は居ない…。 それに、だ。 穢すのは…俺様が為事だからな。」 …早速、穢れてみるか? ぐいっと腰が引かれたかと思えば、 耳元に、吐息を当てて囁かれる… そういえば、さっきも…そんな事、言ってた…けど…。 …穢れる…って何…? 『…〜っ! う、えっと、よく解んない、し…遠慮して、おきますっ。』 とりあえず…まだこの距離感にだって、私は…手一杯、だしっ。 もちろん男の人慣れ、なんか一切していない私は…ちょっと…展開に付いていけなくて。 「…そうか? …まぁ、まだ早計だったか…。 ならば仕方が無い、な…。」 ちゅ。 「…刻下はこれで赦してやろう。」 感謝するが良い。 ニッと笑って、そう、言われ、ましても…。 …って…今……何、された、の…? なんか…唇に…少し熱い、ような、柔らかい…ような、感触…があった、ような…。 え… …う…そ…。 『…た、たな…田中くん!?』 「…どうかしたか? ああ、もう一度…か?」 彼がニヤリと笑って、顎に添えられていた親指を、下唇に当ててくる。 『…ち、違い、ますっ!!』 「…ほう?何が違う、のだ?」 あからさまに動揺する私に対して、田中くんが涼しい顔なのが、ちょっと腹が立つ、かも…。 ていうか……田中くんも、 誰にも…触った事ない、んだよね…? なん、か… なんか…手馴れて、ない…? だから思わず、むすっとしていれば、 「…何をむすくれているのだ? 唇を奪った事、か?それとも…俺様が振舞そのもの、か? …ならば諦めろ。 俺様もこのような想いは初めてだからな、なかなかに制御が効かん。 これからも何かと理由付けては貴様に触れようとするだろうが…貴様だからこそ、触れたくてどうにもならんのだ。」 フッと、口端を緩く上げて、綻ぶように、笑って。 「何せ、俺様には…貴様だけなのだからな? …愛している、おなまえ。」 甘い言葉に乗せて、強く抱きしめられれば、 彼が言ってくれた事が…本当だって、教えられる、みたい。 (これも…何かと、理由を付けて…、なのかな…?) 彼が、私だけだと… 触れたくて堪らない、と…言ってくれるから。 怒ってたはずなのに、ドキドキの方がすっかり大きくなってしまう。 …信じられるかどうか、とか。 本当に好きになってしまった人だと…そういう事、考える余裕もないんだと知って。 まだ繋いだままの手から、包み込まれた全身から、 どんどん上がってしまう体温と速過ぎる鼓動が伝わってしまわないかばっかり…心配になってしまう。 そんな事に気を回していれば、からかわれるように、 「…速い、な?」 『…そ、んな、事…ないっ…。』 「…そうか? ならばこれは、俺様が心音だった、か。」 それでも、意地悪なのに、優しくて。 微笑んでまでくるから、反則だと思う…。 でも、そっか、彼の心臓の音も速いのか、と思って、 その音を聴いてみれば…確かに、速くて。 私のと…似てる、かも。 初めて触れ合えた同士、だから…? なんて、想ってしまえば想う程、私も彼だけでいたい、と。 素直に思える事が、今は心から嬉しい。 ―男の人が、汚いと。 思ってしまう事はこの先もずっと、変わらないかもしれない。 それでも、 彼を信じられた事も、好きになれた事も、事実だから。 だから授業終わりのチャイムが鳴って、 水道場がたくさんの人で賑わい出してしまっても、 彼が一緒に居てくれたから… ぎゅっと、手を握り直してくれたから、 なんだか少しも…怖く、なかった。 そして教室へと戻る途中で、 まだ繋がれたままの左手をこっそり見て、 (…教室までずっと手を繋いでるのは、まずい…よね…? でも、離してほしい、っていうのも…ちょっと、どうなんだろう…。) そんな事を真剣に考えていれば、黙ったままな事に気付かれて、 「…どうした?おなまえ?」 『う、あ!?え…いや、あの…ね?』 その、手…繋いだまま、教室まで…行く、の? ちらっと彼を伺いながら、恥ずかしいなーっと、遠回しに伝えてみる。 …けれど、 「…ああ、もちろんだ。 害虫除けも含め…貴様が俺様以外に触れんように、その左手を封じる必要もあるしな?」 右手が空いているのだ、大概の事は事足りるだろう? と、ニヤっと口角を上げて笑っては、 とても振り解けない位に手を握る力を上げる彼に、 私はやっと、彼が言う覇王様のそれを見て。 (…私、とんでもない事を誓っちゃったのかもしれない…。) …こんな事になるなら、もう少し、無理してもらえばよかったかな…。 なんて思っても後の祭なお話で。 結局、私の抵抗虚しく、 しっかり手を繋ぎ留められたまま、 彼がガラッと教室の扉を開く音が響くのでした。 終 ***** はい…皆々様、大丈夫でいらっしゃいましたでしょうか? ご気分等害されておりませんでしょうか…(狼狽) とりあえず謝罪が、謝罪が大事ですよね申し訳ございません(地球を割る勢いでの土下座) 全国の男子・男性の皆々様、本当に本当に無礼を申し上げました事お赦しください…滝涙。 ちょっと真面目に教会へ…懺悔室に入った方が良いかもしれませんね…(遠い目) あとはあれですかね、大丈夫です、井澤病んでないと思います多分(真顔) でもとてつもなく井澤フィールドなお話です、ね…穴掘って埋まってもいいでしょうか(聞く暇あったらさっさと埋まれ) あまりにもアレーなお話だったかと存じますので、最後は割りとハッピーな感じに…もとい、俺様な感じになってたり致しますが、中和出来て、ない、かな…汗。 こちらも長々書かせて頂くと重いかもしれませんので…例に漏れず後々懺悔の懺悔を落とさせて頂けましたら幸いです。。 井澤の脳内の残念さ加減を嘲りたいという素敵な方々がいらっしゃいましたら、そちらもお付き合い頂けましたら嬉しい次第です。 こんなお話でしたが、最後までお読み頂きました事、心よりお礼申し上げます。 本当に本当に、有難うございました!! [*前へ][次へ#] [戻る] |