幻想 名前は大事なものなんです。(スーダン・田中眼蛇夢) ※お相手は田中くんです。眼蛇夢くん。 ※緩ーくギャグ風味。でも無駄に長くなりました…。 ※あと必要無かったので、超高校級の設定がございません、お好きな能力でどうぞです。 **** 謎だらけだった修学旅行も、始まってみたら意外と楽しくて。 採集は大変な時もあるけれど、3日も経てば慣れるもので。 今ではすっかり皆と仲良くなれるのが嬉しくて、楽しいばかりの毎日。 そして今日も皆で一緒にワイワイと食べる夕食も終わり、自然と歓談タイムに入る午後8時。 『今日も美味しかったよ輝々ー!明日はエビフライが良いな!』 皆と早く仲良くなりたくて、名前で呼ぶ事を心がけています! 「本当かい!?それは嬉しいなぁ、解ったよエビフライだね?みょうじさんの為に腕によりをかけて作るよ! あ、お礼はもちろんみょうじさん自身で大丈夫だよ!」 怪しげな笑顔でそう言う輝々は、いつもこんな調子だ。 だからあはは、と笑って流してしまうんだけど 「ちょっと花村!おなまえちゃん困らせてるんじゃないわよ!大体アンタねぇ!!」 見兼ねて怒り出す真昼ちゃんもいつも通り。 いつの間にか開き直って、真昼ちゃんにまでセクハラ発言を始める輝々と、真っ赤になって怒る真昼ちゃんの隣で、毒を吐き始める日寄子ちゃん。 もはや全身で止めに入る蜜柑ちゃんに、宥めようとしてるのか邪魔してるのか、ちょっと微妙な唯吹ちゃん。 元の発端は自分だという事も忘れて、平和だなぁ、と食後の紅茶を啜る。 食後の一杯は格別だなーとふわふわしていると、視界の隅にあまり見慣れない顔を発見。 (はっ…!眼蛇夢くんが居る・…!!!) 四天王たちのお世話もあって、レストランに長く残る事の少ない眼蛇夢くん。 そして普段お喋りはするものの、最後まで名前で呼んでも良いか、聞くタイミングが計れないままだった眼蛇夢くん。 でも今日、13日目の今日にしてやっと、同じ採集場所で二人きりだった事もあって、名前で呼ぶ事の了承を得られた眼蛇夢くん。 だけど眼蛇夢くんの持つ独特の雰囲気に、二人だとちょっと緊張してしまって、移動中は切り出せず…。 そして真面目さんな眼蛇夢くんだから、採集中も聞けなくて…ここで邪魔して嫌われでもしたら、元も子もないですからね! それでもなんとか勇気を出して、帰り道でやっとこさ得られた了承だったのだ。 でも許可は得られたものの、それも皆と集合する直前だったから…なんだが呼べず仕舞いで今に至るのである。 (…ここだ!私の第六感が告げている! 眼蛇夢くんの名前を呼ぶのは、今ここだと!!) そしてもっと仲良くなるのだ!と、気合を入れて深呼吸。 紅茶をゆっくりテーブルに置いた意味が無くなる程、ガタっと大きな音を立てて、勢いよく立ち上がる。 皆の視線が集まって、流石に物音に気付いたのか、眼蛇夢くんも、何事だ?、といった顔で私を見た。 い・ま・だ!! 『…あの!っぎゃんだmく…。 ……ごめんなさい噛んじゃった。』 私の名前で呼ぼう作戦は、皆の前で盛大に失敗に終わった。 しかも色々恥ずかしい。 みょうじおなまえ、ここに死す。 享年15の若さであった…。 皆も呆気に取られてるのか、数秒の沈黙。 この空気が、痛い、重い、消えたい。 ギュっと瞳を瞑ったけれど、その一瞬前に見た眼蛇夢くんの眉間の皺が思い起こされる…。 誰かが笑いこそしなかったものの、これは早速眼蛇夢くんに嫌われたかもしれない…いや怒りますよねそうですよね…。 この数秒で、軽く世界の崩壊を味わっている中に響く、高校生にしては一際低い声。 「…みょうじ、貴様ァッ…!!! 俺様の名は耳にすれば天上の神々も地獄の異形共までもが裸足で逃げ出す田中眼蛇夢だぞっ!!?」 カッ!と見開かれた両目、その眼光に、ビリビリと空気が震えるのを感じられる程の、怒気。 圧倒されるレストラン内。 紛れも無く…完全に…お、怒って、いらっしゃいます…!涙。 言い放たれたと同時に、ごめんなさい、と言ったところでもう取り返しは付かないのだけれども、頭を抱える私を見て、すっと瞳を閉じた眼蛇夢くん。 一呼吸置いて、彼の言葉は続く。 「…その名を違えるとは…貴様には躾が必要なようだな。」 再度開かれたオッドアイとまた目が合う。 おや? 躾、とな? ((…え、えええええええええええええ!!??)) 今世紀最大の私の叫びは声にならなかった。 周りの空気も更に固まったのが解る、ピシって言った。 ピシッ!って。 時間が止まってしまったような皆の間を進む眼蛇夢くんは、ただ一人、その世界で自由な存在のようで。 眼蛇夢くんだけが支配されない空間、がここに出来上がる。 そして声にならなくて口をぱくぱく動かす私に構う事なく、迷う事無く私の方へ歩みを進め続けるのだ。 眼蛇夢くんが目の前にゆっくりと立つ。 そこでやっと声の発し方を思い出した私は、とりあえず謝ってみる。 『えっと、その…ごめん、なさいです、本当に、ごめんなさいッ!』 ペコーっと大仰に頭を下げてみたけれど、 「フン、貴様が違えたのはこの覇王の名だぞ? よって貴様に拒否権等ないわ!」 フハハハハ、とそれはそれは邪悪に笑う眼蛇夢くんには通用しない。 終わった、全てが終わりました…。 観念した、というか、諦めモードに入った私は、 『…はい…。』 と小さく返事をするしかもう方法が無かった。 未だ誰の声も上がらないレストラン内。 この私たち二人しか動いてない世界では、誰の助けも呼べないのだから…。 「漸く理解したか、ならばついてくるが良い…!」 高らかにそう言う眼蛇夢くんは、ちょっと怒気が治まったみたいに思えたけれど、逃げたら後が怖そうなので、大人しく付いていく。 この後のレストランも、大変な騒ぎになったらしいけど…私には解らない事である。 ――― 無言の眼蛇夢くんに、無言で付いていく。 たまに、チュチュ、とストールから顔を出し、眼蛇夢くんの代わりに私が付いてきているのか確認しているような四天王達の姿も、なんだか今は素直に可愛いとだけ思っていられません…。 (み、見張られています…。) トボトボと、引け気味な足取りの私でも、無理なく付いていける速度にしてくれているのが、 やっぱりなんだかんだで女の子には優しいのかな…、と思いつつも、どうにも怖い思いもするのは気のせいでしょうか…。 4,5分程歩けば、眼蛇夢くんのコテージの前に着く。 相変わらず無言で鍵を開け、扉を開ける眼蛇夢くん。 そして視線で、入れ、と促される。 …このコテージ前の、ほんの数段の階段が、まるで処刑台へのその道に見えて、少し躊躇してしまう。 そんな私を一瞥しても、眼蛇夢くんが無理矢理に中に入れるような事は無く。 ただ待っていてくれているようだ。 (…もう、あんまり怒ってないのかな…) そう淡い期待をしつつも、だったら一言位喋ってくれても…とその期待自体を打ち消していく。 ええい!ままよ!!っと心で掛け声をかけ、中へと足を進める。 『お、お邪魔します…。』 眼蛇夢くんにも聞こえたか解らない小さな声で言いながら、コテージの中へと足を入れる。 そして私の身体が入りきると、すぐに眼蛇夢くんが入り、電気を点けてくれる。 途端に広がる見慣れない光景。 (へぇ…ここが眼蛇夢くんの部屋かぁー…。) 急に緊張感を無くした私はそんな事を思う。 きょろきょろと中を見回していたが、 ガチャリ、と鍵の閉まった音が聞こえて、現実に引き戻される。 (ああああああああああああ) 固まっている私の横を颯爽と抜け、全ての窓の戸締りの確認と、カーテンを閉める眼蛇夢くん。 貴方は本当に悪の組織に狙われているんですか? とズレた質問をしてしまいそうな程の、徹底ぶり。 ここは、今…完全な密室です…。 (…密室……さつじんじけん…。) 密室と言えばこれがお約束ですよね、と別の世界へと高速トリップした私。 そこに突如掛けられる声。 「…みょうじ、そこに座っていろ。」 『はい!?』 裏返りながらも返事をして、焦点を現実に戻す。 向かいに立つ眼蛇夢くんが指差しているのは、どうやら机と椅子のよう。 言われるがまま、とりあえず座ってみる。 それを確認した眼蛇夢くんは、四天王を小屋に戻し、なにやら準備を始める音がする。 ゴソゴソっと。 ただ座って待つ私は (…なんだろう…椅子…躾…拷問……縛り椅子?……はわわわ。) ただ不安だけを増幅させていく。 いやでも眼蛇夢くんに限ってまさかそんな、でもでも現に座らされてるし!と一人で脳内会議を繰り広げる。 そして目の前の机に影が落ち、眼蛇夢くんが来た事を知る。 反射的に、ごめんなさいっ、と言っても返事は無く。 代わりに置かれる大量の紙。 …紙? そして最後に置かれるのはペン。 はて? と小首を傾げる私の向かいで、眼蛇夢くんの通る声がする。 「書け。」 ん? 書け、とな? やっぱり解らない私は更に首を傾げる。 そんな私の様子を見て、フッと笑う眼蛇夢くん。 「フン…貴様のような下等生物にも解るよう、噛み砕いて説明してやろう。 この俺様の名を違えるような過ちを二度と起こさぬよう、その紙に俺様の名を百…いや、千は記して貰おうかッッ!!!」 例え部屋の中でも、例え二人きりでも、絶好調な眼蛇夢くん。 「その身に、心に、俺様の名を刻み付けるが良いわッ!!!!!」 ポーズを付けてフハハハハ!と笑う眼蛇夢くん。 おっと、これはどうした事ですかな?? 一頻り笑い終えたのか、眼蛇夢くんが鋭い表情で私を見る。 「…どうした?みょうじ。もう始めて構わんが?」 一向に書こうとしない私を不審に思っているらしいけれど、私も何故名前を書く流れになっているのか不思議です。 そして困っていると、合点したような顔をする眼蛇夢くん。 「…フッ…なるほどな、みょうじが動揺するのも無理のない事だったか…。俺様とした事が、盲点だったな。」 笑みを含んで、更に続けていく。 「俺様の名を記すという行為の恐れ多さに萎縮しているようだが、それは気にしなくて良い。今はこの俺様が許可しているのだからな!!!」 そしてまたフハハハハ!と笑う眼蛇夢くん。 …えーと。 とりあえず、眼蛇夢くんの名前を書く、それが彼の言う躾らしい。 あと、なんか、そこまで…もう怒ってないのかもしれない。 昼間となんら遜色のない眼蛇夢くんの笑い声を聞いて、ちょっとそう思った。 本当は眼蛇夢くんの名前を覚えてない訳じゃないけど…これで許してもらえるのなら、と前向きに考える事にした。 『うん、解った!みょうじおなまえ、頑張ります!』 とペンを持ち、私もポーズを付けて返す。 …でも、千はちょっと多くない? と付け足せば、 「フン!己が罪の重さを知り、存分に悔いるが良いわ!!」 そう盛大に返される。 やっぱりまだ怒っているのか、情け容赦はしてくれないみたいだったけれど、眼蛇夢くんはちゃんと私を見て話してくれていたので、少し安心した。 だから私はただただ膨大な紙に彼の名前を書いていく…。 一字一字、間違わないように、真剣に。 その様子をなぜか眼蛇夢くんも真剣に見てくれている……その威圧感が、結構怖かったのは内緒だけど…。 (間違えたらまた怒られちゃいそうだな…今思ったけど、ペンだし、消しゴム無いし…!) 真面目に真面目に書いてる間に、どうやら夜時間になったらしい。 校内放送が響いて、ウサミ先生の声がする。 あ、私、部屋に帰りそびれた。 そう思って、思わず顔を上げると、眼蛇夢くんと目が合った。 その手にコップが2つ、どうやらお茶を入れてくれたらしい。 無言で渡されるお茶を一口飲んで、聞くか、聞かないか迷う。 (でもまだ三百位しか書いてないしなー。) ちら、と眼蛇夢くんを見たけれど、別段変わった様子は無い。 彼もただ一緒にお茶を飲んでいる。 (んーやっぱり怒ってるのかなー。これで途中で帰ったら、良くないかな。) また少しお茶を飲んでから、ペンを持ち直す。 (まぁ、明日お休みの日だし…別にいいか、眼蛇夢くんも起きていてくれるみたいだし、なら早く終わらせなきゃだよね。) また黙々と書き出せば、声が落ちてくる。 「…戻らんで良いのか?」 夜時間、だぞ、となぜかそっぽを向いて言われる。 『えっ?…んー、でもまだ途中だし、明日お休みだし、眼蛇夢くんも付き合ってくれてるのに悪いかなぁーって。』 この言葉を聞いて、そっぽを向いていた眼蛇夢くんが、私を見る。 「…!!貴様、俺様の名を…呼んだな!?」 『えっと…呼びました…ね?』 自信無く肯定すれば、次第にフハ、フハハハハ!と笑い出す眼蛇夢くん。 …もう夜時間だからかな?壊れちゃったのかな?? よく解らないままの私は置いて、眼蛇夢くんの言葉は続いていく。 「…フン、違えず呼べるならばそれで良い…。 そして喜べッ!貴様のその心意気を買ってやろう、この躾…否!試練を乗り越えたならば、貴様を俺様の特異点にしてやる!!」 とくい…てん? ?が目に見えて飛んでいたであろう私を見兼ねて、軽く目線を逸らしながら眼蛇夢くんが補足する。 「むっ…その、なんだ…俺様の……隣に居る事を許可する、というような…そんな、まぁ…光栄な称号、のようなものだ。」 少し口篭る彼はさておき、 隣に居る…。 なるほど!!! はい!と手を挙げて答えを言う、 『解った!眼蛇夢くんと仲良しになれるって事ですね!!』 「むっ!?…ま、まぁ、今はそれで良い!!とにかく!だから…その、せいぜい続きを励むが良いッ!!!」 バッとペンを差し出す眼蛇夢くんは、まだこっちを見てくれないけれど、それは私がまだ中途半端だからなんですね!と納得する。 仲良しとなれば話は別です。 俄然やる気が出てきました! 2時間弱で三百だから…あと5時間位頑張れば、終わるはず!! とんだ狸の皮算用だけど、目標は見えている方が良いのです。 …でも現実は、そうは甘くありませんでした…。 12時を回ったあたりから、急激に襲う睡魔! そして五百を超えたあたりから痛烈にやってくる疲労感!!! 眼蛇夢先生、そろそろ腕が上がりません…。 そう弱音を吐きそうになりながらも、お茶が無くなれば眼蛇夢くんが新しいのを入れてくれるし、眠さに負けそうな時は、ちょこちょこ会話もしてくれた。 夜中のテンションでちょっと盛り上がったり、それが楽しくてまた時間をロスしたり。 そんなこんなで今は朝の4時。 まぁ5時間では終わらないよね、でもあと百個だ。 あと百個なのだ。 (…それにしても眼蛇夢くんは眠くないんだろうか? うとうとしてる時1回も無かったなぁー。) そう思って上を見上げれば、やっぱり目が合う。 どうした? と聞かれる前に、紙に戻る。 これだけ付き合ってくれてるんだし、1秒でも早く終わらせないと! また無言でガリガリとペンを走らせて行く。 あと五十位―。 ―――― そう、思ったところまでは、記憶が、ある。 朝日(?)が眩しくて、目を覚ませばベッドの上だった。 同時にちょっと見慣れない部屋の中。 昨夜散々見たけれど、寝起きの頭にはちょっとまだ慣れない。 (あれ…私、寝ちゃってた?) 眼蛇夢くんが運んでくれたのかな?、と部屋を見回したが、姿がない。 (留守…かな?) そう思って時計を見れば、もう11時を迎えようとしている。 『…えっ!?』 流石に起きた頭で叫べば、ガタッという物音と共に、上から声がする。 「何事だ!?」 え、と見上げると、僅かな天上の出っ張り…サンルーフみたいなところに、眼蛇夢くんの姿が見える。 『えっ!?どうしてそんなところに居るの!!??』 ベッドを借りたお礼を言うはずだったのに、あまりの驚きで思ったままが出る。 「…聞くな、色々…あるのだ。」 …明らかに顔を背けて言う眼蛇夢くん…なるほどこれは事情がありそうだ。 それより、お礼、お礼だよね。 『あ、私がベッド借りちゃったからかな…?ごめんね、ありがとう!!』 「フン、気にするな。」 大した事ではない、という彼の様子に、やっぱり別の事情があってそこに…!という好奇心も出たけれど、それより何より、もっと気になる事を尋ねてみる。 『あ、あの…それで…私、あんまり記憶がないんだけど、千個…書き終わった?』 終わってなければ、また続きをやれば良いのかもしれない。 でも、一度きりのチャンスだったのかもしれない。 だからちょっと聞くのが、怖かった。 「…それならば、無事に終えていたな。」 ニッと微笑んで、そのままの状態になっている机を指す眼蛇夢くん。 『本当!?』 と喜び勇んで、真っ黒な紙を手に取り見ていく。 (これで最後の1枚…うわ、流石に酷い字だなー…。 …ん?) 『あれ?…最後の数十個、なんだか私の字じゃないみたい…。』 「…気のせいだ。 貴様は疲弊して幻覚を見ているに過ぎんッ!! やはり貴様は愚かだな!!!千も綴れば、貴様の字が崩壊する事も必至…見慣れん程に崩れているだけだ!!!」 崩れている割には、力強い筆跡だけど…と、反論をする余地もなく、 いつの間にか床に下りてきていた眼蛇夢くんに、凄い勢いで紙を奪われる。 あ、と言う暇も与えられず。 紙もペンも片付けられていく。 「…フン、とりあえず、褒めてやろう。 そして改めて貴様を特異点と認めてやろうではないかッ!!!」 喜びに打ち震えるが良い!!フハハハハ!! と、妙に朝…お昼から元気な眼蛇夢くんの様子が、ちょっといつもより大袈裟で、庇ってくれてるのが解ってしまう。 …やっぱり力尽きちゃったのか、私。 達成できなくてちょっと残念だけど…もう眼蛇夢くんは怒ってないみたいだし、とくいてんにも成れたし、結果オーライ、だよね! 『そっか、嬉しいな!ありがとう!!』 そう笑顔で言えば、少しまた顔を逸らされる。 あれ?仲良しなのに? と思っていたら、すぐにこちらを見てくれる、 「…貴様が特異点になるには、まだ契約が必要だ。 手を出すが良い。」 言われるままに、右手を差し出してみる。 その手をギュっと握られて、少しだけドキドキしてしまった。 (わぁ…!そう言えば男の子と握手とかって、あんまりしないよね…//) もう一度、強くギュっと握られたと思うと、その手が離れていく。 「…よし。これで契約は完了だ。 だが…今しがたの接触から、俺様の毒気が貴様を蝕んでいく。 その毒気を抑える為にも…今後は定期的に俺様の魔力の供給が必要となるからな、極力貴様は俺様の隣を離れるな。 離れる時は俺様が許可した時のみだ…良いな?」 流れるように紡がれる眼蛇夢くんの言葉。 え、あれ、なんか今結構大変な事言われた気が…。 『あれ、えっと…基本…ずっとって、事ですか、ね?』 思わず敬語で問いかける。 「…まあ、そういう事に、なるな…。」 視線を合わさず答えられる。 …。 …。 なんとなく顔が、赤いですね、眼蛇夢くん…。 それを見て、私もつられて顔が赤くなっていく。 えーと…私が思ったより、仲良くなれた…のかな? ちょっと、顔が、熱い。 無言に堪えられなくなったのか、ちらりとこちらの気配を伺う眼蛇夢くんの視線。 いつの間にか四天王も顔を揃えてこちらを伺っている。 多分私が何か言う番なんだろうな、そう感じ取り、もう一度その言葉の意味を考えたけれど、これだ!と思う正解はない気がした。 でも、ただ、一緒に居るのは…嫌じゃないな、と、思う。 むしろ楽しそうだな、と思う。 …ずっとが、どこまでずっとなのかは疑問だったけれど、 『えー…っと…その、できる限り、努めさせて頂きます。』 とだけ、少し俯きながらも、しっかり答える。 合ってるのかは解らないけれど、その言葉を聞いて、眼蛇夢くんは調子を取り戻す。 「…フハッ!元より貴様に拒否権等ありはしないがな!!! せいぜい俺様の隣に居続けるが良いわッ!!!」 ポーズ+四天王付きで、また高らかと笑う眼蛇夢くん。 …どうやらいつもの眼蛇夢くんに戻ってくれたみたい、良かった。 そう思いながらも、頭の中で彼の言葉が繰り返されてしまう。 (む、むむ…平常心、ですよ…!!) 何に対しての動揺か、何で平常心が要るのか、解らないけれど。 そう、結果眼蛇夢くんと仲良くなれたのだから、もっと仲良くしようではないか!! 原点に返ると現実に帰る。 そして気付くのだ、お腹が空いている事に。 まだお昼には早いけど…きっと輝々ならもうレストランに居るよね。 『…私、お腹減っちゃったな。』 「む、そうだな…ならばレストランに向かうとするか。」 花村ならばもう居るだろう、と同じ事を考えているらしく、眼蛇夢くんは部屋を整えていく。 開けられていくカーテン。 遮る物がなくなって、差し込む強い日差しの眩しさに、ぎゅっと目を瞑っていると、ふいに声が掛けられる。 「……何を呆けている、俺様をあまり待たせるな…おなまえ。」 名前を呼ばれて、驚いて声の方を見る。 『えっ…今、名前…。』 思わずそう呟けば、明らかに赤い顔をする眼蛇夢くんが、また流れるように喋りだす。 「…ふ、フン、勘違いをするなよ!? これは…そう、等価交換だ!! 貴様が試練を乗り越え、契約を終えた事への対価なのだ。 貴様が俺様を名前で呼ぶというのならば、俺様もまた貴様を名前で呼ぶ、それが理だからだ、ただそれだけの事!! 決して俺様が呼びたかったからではない、断じてない!!!!」 もの凄い剣幕だったけど、 もの凄い早口で捲くし立てられたけど、 赤い顔の眼蛇夢くんは怖くない。 照れてるのかな、と思うと私もなんとなく気恥ずかしくて、ふふ、と笑ってしまう。 その様子を見て、また、貴様ァっ!!と、怒号が飛んできたけれど、 『何でもいいよ!私嬉しいし!』 そう笑い掛ければ 「…フン、理解したか…ならば良い。 それより、だ。レストランに行くのだろう?」 眼蛇夢くんから手が差し伸べられる。 「…行くぞ、おなまえ。」 まだ少し赤い顔で、いつもより和らいだ声で、名前を呼ばれる。 差し出されたその手と、名前を呼ぶ声に、なんだかまたドキドキしてしまった。 『…っうん!』 少しぎこちなく返事をして、その手をえいっと掴んで、レストランに向かう。 その道で、少し疑問に思った事を聞いてみる。 『…そういえば、なんで書き取りだったの?私、言い間違えだったのに。』 「……フン、言葉よりも、いずれ役に立つだろうからな…。 まぁ邪眼を持たない貴様には解らないだろうがな。」 フッ、と何かの先を見ているらしい眼蛇夢くんの回答は、一層難解だ。 答えになっているような、なっていないような…。 後々役に立つ、か…。 その意味を考えながら、惰性で繋がれたままの手をそっと見る。 きっと私が答えを知るのは、まだまだ先なんだな、と思う。 不思議と今、その答えを聞かなくても良いかな、とも思う。 ただ今は、この時間を楽しみたいから。 それだけで良いのだ。 終 ***** 初田中くんですね。 田中くんの名前を呼びたかったのでウザい位書いてみたんですけどやっぱりウザいですかね(聞くな) 自分の名前を大事にしてる子って好きです。 尊敬します。 自分の名前に誇りを持てる、って結構凄い事だと思います。 …井澤にしては、割と真面目なあとがきですね笑。 ただなんか、もう、これ、もっと短いはずだったんですけどね。 書くと長くなるんですよね、不思議。摩訶不思議。 最後までお読み頂きまして有難うございます…お疲れ様でございました。 あ、長くなり過ぎちゃって続きが出来てしまったので、宜しければそちらもどうぞ…。 亀な井澤に1日に2本も書かせる田中くん…恐ろしい子!(コラ) それでは改めましてお読み頂き有難うございました! 少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。 良ければ続きの方もよろしくお願い致します! 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