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幻想
呼んだなら、奪ってくれるが覇王様!(スーダン・田中眼蛇夢)
※これまた題名から大体お察し頂いてしまっているかもしれませんが…お相手は田中くんです、呼ばぬなら〜シリーズ(?)の続きです。大変嬉しい事に、続編のリクエスト頂戴致しました!
(拍手にてリクエスト頂きました方、有難うございます。お名前が未記載でいらっしゃいましたので、匿名にて失礼させて頂きます。)

※舞台と致しましては、約束は〜のお話、こちらの田中くん視点ver.でございます。

※主人公ちゃん設定諸々、特に変わりございません。
ご興味持って頂けました方がいらっしゃいましたら、ご一読頂けましたら嬉しい限りです。


*****



レストランへの道すがら、おなまえと多く言葉を交わし合う。
決して永い刻とは言い難かったが…満ち足りる、とはこのような刻を指すのだろう。


…しかし刻は無常と、先へ先へと歩むのみ。
レストランが階梯へと差し掛かれば、その期限。


(…もはや、ここまで、か…。)


惜しい、と。
そのような想いを憶える事すら筋違いも甚だしいのだろうが…
叶う事なら離すまいと…繋ぎ捕えていた彼女の左手を、努めて静かに、離す。

「その…なんだ、失念していただけだ、…他意は、無い。」

まぁ…離したく等、無かったがな…。


…その心意は俺様が躰が滅ぶまで、内と仕舞う事とするのだが。


微かに俺様が手に残る彼女が手の温もりに、
方々から熱が熟まれては顔へと襲い来る為、
おなまえからは視線を外し、恨めしく階梯を仰ぎ睨むのだ。


他意の示すところ等、未だ解っていないだろうが、

『あ、大丈夫だよ!なんかこう…自然っていうか…私も忘れちゃってたし!

…だから、早くご飯行こう!』

少し取り乱したかのように、珍しく彼女の言葉が逸る。
その様すらもただ可愛らしく…。

よもや、同じ想いを彼女も持ってくれたのではないか?、等と。

…淡く所期してしまうのは浅慮な事と解りつつも、
緩む口元は、何とも正直なものなのだ…。



とん、と先に階梯に足を進めたおなまえに続き、

「…転ぶなよ?」

どうにも危ぶまれる彼女の足取に、喚起を送る。


(…まぁ墜ちてきたところで、俺様が受け止めてやるがな…。)


そんな更なる慶事が訪れるかどうかはさてと置き。
階梯へと足を掛ければ、平常通りへと戻っていくのだ。





『今日は多分エビフライだよ!
だって輝々が約束してくれたから!』

…依然忌々しい花村が名が、やはり耳に障ったが…刻下はおなまえの笑顔に免じ、流してやるとしよう。

拠ってふつふつと湧き続ける悋気は呑み抑え、彼女と歓語するを取る。

「む…それは夕食ではないのか…?」

…結局、完と徹した俺様には未だしも、貴様には重いだろう、と。

『んー確かに徹夜明けに近いお昼には、ちょっと重いかも。』

でも、エビフライ楽しみだなぁ。

そう口先一つが約束を心から御楽と待ち望むところも、なんともおなまえらしい。

そして何よりも。
愉しみだと華やぐ彼女がまた、どうにも愛らしく………困る。


思わず抱き寄せてしまいたい衝動に、必至と誘われてしまう訳だが、



……しかし、此の場では…

まずい、だろう…な。



(……ッう、ぐッッ…!

眠ろうとも醒めようとも、攻撃が手を緩めんとは…
…流石だな、おなまえッ…!!)


拠ってただ、ただ、耐えるしか、打つ手も無く。

彼女が声、仕種、くると回る表情一つと、
次々と絶え間無く、投掛けられるが凶弾と知りつつも…
それを躱し逃すも惜しく思われるのだから、致し方も無く…。
身に受け続けては、また耐え、る…を繰返し。


その為、隣に並び立つ彼女に覚られぬようにと、
組んだ両腕に、ギリと魔力を灌ぎ込み、その挙動を全てと封じるのだ…。



――



…彼女が凶弾をどうにかと耐え堪えて、やっととレストランが入口を瞳にて捉える。


だが、脚を踏み入れるまでもなく…

飛び交う下等生物が声の喧しさに、…どことなく、焦燥が迸り…。



…哀しいものだな…。

厭な予覚程、俗世では当たるというものなのか。



『た、大変っすー!!!大変過ぎるっす!!!!おなまえちゃんが!眼蛇夢ちゃんが!!
お手々繋いで一緒のコテージからこんにちはなんすよーっ!!!』


待ち受けていたかのように早々と、鼓膜が劈かれるは、澪田の目撃論…。



…なッッ!!

まさか…観られて、いた…だとッ!?

この俺様が周辺察視(サーチ・アイ)を掻い潜るとはッ…!!!

ッよもや、奴は第三の瞳(サード・アイ)の持主、なの…か!?





…否ッ!
今は奴の正体等どうでも良い…ッ!!

そこまで備と観られてしまっているならば致し方無いな…。
その口、常しえに封じてやる事としよう。


澪田が禍殃の元を封じる為、あくまでも貴様の誤想だと、封印が呪術を唱え掛けたのだが、

「えっ!?それは興味深いなぁ!!
やっぱりあの後、みょうじさんは田中くんに手取り足取り躾けてもらったんだね!!!!」


ッ花村ァァァアアッ!!!!!!

またしても貴様かッ!!
…ええいッ庖厨(キッチン)にて膳立ていれば良いものを…ッ!!


くッ、最も厄介極まり無い奴に居合わせられたものだな…ッ!!



果たしてどう切り通すべき、か…!

と、流石の俺様もしばし熟思に入ったところで間髪も許さずと、

「そりゃそうだよねっ!だって窓も全部施錠してあってカーテンも閉まってたし!!!
それはもうアレしかないよね!!!」



…やはり、貴様は…やってくれるな…?

花村よ……。



過ぎった次の瞬間には反射的に奴の下へと勇み寄り、

「花村貴様ァァ!!!何を確認しに来ているッ!!!!」


…断じてそのような事は、無いッ!!!


そうきっぱりと、否定するはずだったのだが……。

それこそ、おなまえの寝顔でも観られていては堪らんからな…!

…その想いが先走り、思わず口衝したはそれだったが、俺様の心火はもはや表し様も無い域へと達している…。


その憤怒が激越と煮えるままに、花村へと迫り威っしたのだが、

「あ、田中くん!やや?みょうじさんも本当に一緒なんだね!!良いなぁ、良いなぁ!!」

…本当に堪えん男だな、貴様はッ!!


とりあえず、何の話?と軽く首を傾げるおなまえを俺様が背に隠し、奴の視線に曝されんようにと庇い立てば、

「ねぇ、何があったんだい?ナニかな?やっぱりナニなのかな!?
あ、どうせ教えてくれるなら、ぼくに手取り足取り教えてくれても良いんだよ!?」

…俺様に怯むどころか、むしろ迫ってくる、とは…なッ!!


(ぐおおぉッ!!

…こやつ…本当に、何なのだッ!!!)


「…寄るなッ!この下種がッ!!!」

あり余る勢いで駆け抜け始める悪寒を、意気でなんとか殺しつつ、尚もおなまえを護りながらに言い放ったのだが…
奴という奇禍を前にすれば…半歩ばかりと後退するは、俺様と言えども致し方無かった事なのだ…。




…だが、俺様が決死と観たこの争闘も、彼女にはそうとは映っていなかったのだろう。

俺様が貴様を護る為と先立っているというに、
ひょこ、と俺様が背より顔を出しては、花村へと言葉を和げるのだ。

「ねぇ、輝々が何を言ってるのかよく解んないけど…多分違うと思うよ?手取り足取りっていうか…筆取り、だよね?」



「「なっ!!??」」


…恐らく、本旨を解しておらんからこその…弁解だったのだろうが…


……見事に…やらかして、くれたものだな……おなまえ……。



ああ、どうしたものか、と。
流石の俺様も、己が世界が、刻が、止り終えていくような感覚を憶えていく。
他の人間共もそうであった事はこの空間が閑静からも明白だが…。



思議を回らせる力まで奪われていくような滞留が中で、
ピシリと固まる俺様を不審に思ってか、おなまえに顔を覗き込まれれば…彼女の大きな瞳が、俺様を映していく。


…その彼女の視線と、彼女の…先の言葉が、重なれば、
多意を伴った熱が生じ、はっと現実へと還る術となる。

「…おなまえ!貴様ッ余計な事を!!
いや、紛らわしい事を言うな!!貴様はもう何も言うな、黙れ!!!」

半ば羞恥を孕んだ俺様が言霊の昂奮に、ひ、と怯み絶句するおなまえ。


…良し、少々おなまえには辛く当たる事となってしまったが…それは後で詫びる事として、だ。
これだけ強くと誡めれば、俺様達の仲合を訝しみ勘繰る者も居らんだろう。



…しかし俺様が方略に反して、レストラン内の喧噪は増していく。


(……何故、だ?)


その疑念が生まれたと同時に、

(…ッッ!!!

俺様と、した事がッ…!!)


…己が犯した失錯を自覚する…。




しまった、と。

それが表情に具と現れたが頃には、

……やはり全てが遅かったのだ。


「…やっぱりそうだったんだね!!みょうじさんがそう言うって事が…その否定が、まさに真実を物語ってるよね!!!」

厭に狂騒していく花村を皮切りに、

「…そんな、マジかよ…今田中、みょうじの事名前で呼んだよなぁ?
みょうじまでなんかそれっぽい事言ってるしよぉ…ちきしょぉ。」

…雑種までもがその失体に気付き、

『んー…やっぱり一晩一緒だったって事っすかねー?
お手々繋いで歩くくらいっすからねー。唯吹も怪しいって思ってたんすよ!!』

元凶に他無らん澪田が揚々と語り出し、

『えっ!?ちょっと…おなまえちゃん、それ本当なの?大丈夫!?と、とりあえず早く田中から離れて、こっちおいで!!!』

皆乍と誤解しただろう小泉が、おなまえを俺様から引き離すべくと歩み寄っては、

『えー…まさかとは思ってたけどぉー…本当にやるとか田中おにぃってマジで人間のクズだったんだねー。
あ、人間じゃないんだっけ?じゃーただのクズだねー大勢に踏まれても仕方ないゴミ屑だよねー!!』

供する西園寺から謂われも無い嘲罵を受ける事となり…。




…今更どうと足掻いたところで、
俺様達が俗世が指すところの‘特別な関係にある’という事は、あやつ等の心内では決まり切ったも同然なのだ、と。


おなまえは確かに特異点であり、特別な仲合だが……貴様等が思い描くようなものでは無い。

それを舌先にて紡ぎ並べたところで、卑俗なあやつ等では理解するに至れんだろう…。




…ならば、先に耐えた俺様が砕身は何だったのだ…?

どうせとこうなるならば、
衝動が駆るままに、思い切り、想い切りと、
抱き寄せてしまえば良かったのではないか…?



むしろそうであれば良い、と。
何より望むが俺様だという事さえ知らず、何を勝手に騒ぎ立ててくれたものか。

ましてやこれを機に、
おなまえが俺様に対し警戒心でも抱こうものなら、どうしてくれるというのだッ…!?




俺様へと当て付けられる言葉の数々に、自然と募る憤懣が俺様の身を揺すり興していく。




…ああ、ああ、そうだったのだ。


そうしてしまえば良かったのだ。
それで高らかと、おなまえは俺様のものだと、声言してしまえば良かったのだ。



その誓言が叶わん事も、俺様が隣でおろおろと狼狽する彼女に触れられん現状も、
全て…全て、貴様達の所為なのだ、と。


何かが切れる音を合図に、聊か不条理なまでに結論付けては、
悔恨が、憎悪が、行き場も無くどうしようも無いこの苛立ちが、
次々と臨界を超え、爆ぜていく。


「…貴様達ァァア!!!俺様を本気で怒らせた事を、もはやこの世に生を受けた事さえも!!後悔させてくれるわッッ!!!!」


誘爆が誘爆を喚び、治まらん爆撃の限りを両腕へと込め、
バッ!と奴らへ向けて、四天王達を解き放つ。


その一部始終を茫然と、見詰めるおなまえは傍らへ置いたまま、

あやつ等が更にと無益な情報を彼女に与える事が無いように、再び静寂が訪れるまで数分と、四天王達が攻撃の手を緩める事は無かったのだ。



――



奴等(まぁ主に花村と左右田だな…奴等の存在は害毒に他成らんからな。)へこれでもかという程に、灸を据えてやればレストランがすっかりと静閑を取り戻す。



俺様が命を遂行し切った四天王達を迎え入れ、おなまえがまたと言葉を為す前に、人間共の理にも及ぶよう、作宵が事実を略述し説いてやる。



まぁ…俺様との契約が過程にも通じる為、
また更なる誤想を防除する為にも、
俺様が名を記させた事は省いて、だが。


…それでもやはり所詮は下等生物共、理解するまでは刻を要し…。


おなまえに纏わり絡む花村を度々下していれば、
依然有らん誤解に取り付かれた小泉達に、絶えず問われ続けるおなまえが、

『本当に、漢字の書き取りさせられてただけだよ!』

と俺様に倣い、名儀が件は避けながらに言開いている。


(…む……。

…刻下はそれで何も間違ってはおらんはず、なのだが…。
どこか空しい想いが過ぎるのは…どうした事なのか…。)


…何も無かった訳では無い、と。
匂わせておくも…それは、それで…等と想うは、きっと俺様だけなのだろう…な。

いや、これ以上と踏み考じるは俺様がマインドへ損傷が生じそうだからな…深くと入るは止めておくとしよう。



…兎に角、だ。
俺様とおなまえが釈義から、そこはかとなくの空気が漂ってはいたものの…
下等生物共が思慮していただろう事象とは異なると理解が届いたらしく、どうにかその日が内にて事態は収拾されたのだ。

俺様が身心の大いなる疲弊、という代償を払う事とはなったがな…。



そしてこの事変を経た後も、おなまえが態度が取立てて変わるような事も無く…
まぁ、なかなかに殊勝な結果だったと言えるだろう。



――


だがかの事変以降、どうにも下等生物共の態度が変容した事は、紛れも無い事実なのだ。



俺様が何かと作意する事も無く、他の人間共がおなまえと同採集場へと振り分けを講じ、傍らが席を進み空けては、仕込む為、彼女と刻を同じくする事が日に日に増えて行く…。

それをおなまえが拒むような素振りも無く、謝意までも述べているのだから、
奴等が妙な笑顔を向けてくる癪障りさえも、咎め立てるには至らんのだ…。




―そして刻が廻れば、一人としてその事変が事を言及する者は居なくなり、その記憶自体も大分薄れただろうという頃合。


しかし当人は全くと、その発語を忘れてはいなかったのだ。

『ねぇ、眼蛇夢くん…例の試練の日の翌日の話なんだけど…私が輝々に筆取り、って言った時、なんであんなに怒ったの?』

…まさか再度その言葉を、おなまえから聴く事となるとはな…。


だが…ある種彼女が名誉の為にも、その問いにだけは答えられんな…。


拠って頑なに撥ね退けていれば、彼女から幾度とその科白を聴く事となり…

「貴様ッいい加減にしろ!」

顔へ集約していく熱量に耐え切れず、思わず声を荒立てれば、

『むー。じゃあ、誰かに聞いてくる!』

諦める事無く、立ち上がろうとするおなまえを、全力で引き留める事となる…。


(…それこそ、花村にでも問われたならば最後だからなッッ!!)


「…とりあえず今後も絶対に言うな、他の人間共に問うのも止めろ、良いな!?」

剰りの彼女が危うさに、そう強く念を押し止める。


『…解った。』

そう渋りながらに頷くおなまえに、悪気等微塵も無い事は解っている。

…故に、危ういのだが。



しかしそれは解り易く、落胆を僅かも隠せずに萎む彼女を観れば、どうにも…折れてしまうのだ。


…我ながら、甘いものだ。

己に呆れながらに嘆息を落とし、本来ならば…もっと先で掛けるべきだろう言葉を、

「…フン、いずれ…嫌でも教えてやる。
が、今はその刻ではないのだ…今はまだ…支障があるのだ、色々と、色々とな。」

酷く不確かな、先の約束を、一つの口約を呈していく。




それが、俺様が想いに…我欲に満ちた言葉が雑じり綯うとは、露とも疑い量る事も無く。
途端にぱっと、明美に花火を咲かせては、

『うん、解った、約束だよ!』

ねっ、と小指を差し出してくるおなまえ。


…只の口約束を、誓約へと昇華させ得るは、
彼女のその言葉、その笑顔、その小指、のみ。



一度交わしてしまえば、彼女が破る事は無いと知りながら、付入るのは果たして、と。


躊躇う理性が抗えたはほんの瞬刻。

…元より、おなまえは俺様と叶う限りを共にすると、誓ったのだからな?


これも須要な誓約が一つなのだ、と。
一度憶えてしまえば必然と、フッと口端から笑んでしまう。

「…良いのか?約束等して…後悔する事になるのは、貴様の方かもしれんぞ?」

『え?』

おなまえの疑念が追い着いてしまう前に、
彼女が小指に俺様が小指を絡めては、彼女の小さな身体毎、勢いを付け俺様の方へと引き倒す。


加速するままに、俺様が胸中へと舞い込むおなまえが顔を打たぬようにと、一度彼女の両肩を支え、
ゆっくりと、彼女の身体を俺様が胸中へ、腕中へと閉じ込めていく。


(…温かい、な…。)


手を繋ぎ留めるよりも、遥かと温かく、愛おしい。

愛する者を全身で感じられるというのは…こんなにも倖せな事だったのかと、心身で感取っていけるが、また愛おしい。


…やっと、だ。
あの事変が日から随分と、刻が掛かったものだな、と。

どこか苦笑してしまうような想いも、全てこの刻が為だったと思做せば…報われる心地にもなる、か。



彼女が熱に浮かされて、そのような思量に浸っていれば、

わ、わわわ、と。
現実に追い着いてしまったらしいおなまえが、両手をわたわたと忙しなく動かし抵抗してみせる。
小さな彼女の小さなそれ等、俺様には児戯に等しく及ばないのだが…彼女は至って真剣なのがまた可愛らしい。

『あのっ眼蛇夢くんっ…!?どうしたの!?』

そう俺様を見上げたかと思えば、

『わ、わわ…。』

瞳が交わるより先にと俯いていく。


…一連の彼女が動乱も、どうしてもこうも可愛らしいものなのか。

「…フン、どうした?そんな程度では逃れられんぞ?」

…まぁ逃す気も無いがな…?

そう態と、俺様から視線を逸らし続けるが故に無防備な、紅く色付いた耳元へと口寄せて。


落した呪縛に、彼女が殊更と染まりながらに逃げるが先も、俺様の胸中だというのだから…
どうにも、込み上げる愛しさが尽きん…。




…どれ程の刻が経ったのか定かではないが…

未だ俺様が腕中にて、彼女が鳴らせ打つ鼓動が速さも、借猫のようにと大人しく、俺様へと身を縮め預けるも、

諒承してくれたからだと、そう取っても…良いのだろうか?



ぎゅっと強く、瞳を閉じたままの彼女へ、
問う代わりに強く、想い切りと、抱き締めれば、
少しばかり身を震わせながらも、抗われる事も無く…。


……また、彼女の愛らしさにやられるのみ、だ。



俺様が心がおなまえで占められてしまっているように、触れているこの刻に限らずと、おなまえも俺様で占められていれば良い。


…いや、今後も、長く…久遠に、占めさせてしまいたい。




「…おなまえ。」




だから、彼女の名を口にする。

不意の呼掛けに、びくり、と大きく反応する彼女に微笑んで、


「…約束が、途中だったな。続きをするぞ。」


俺様が声に罹り、薄らと瞳を開けるおなまえが、容赦無く射さり込む月光に苦戦している間に、彼女の顎を右手で捕らえる。


『ひゃっ!?』

と情趣に欠けた声が飛べば、途端に瞳が見開かれ、

漏れる息遣いまでが、悉に鼓膜を湿らせるこの距離で、
それに気付き赤面していく彼女が、再度と堅く瞳を閉じてしまうよりも早く、


「…いずれ、その刻が来た時には、貴様に教えてやろう。誓って、な。」


…そう常時よりも低く、またも利己の希求に満ちた自分本位な言葉を紡いでは、
約束を、誓約を、音で刻み、振動で描いては、誓いに堕としていく。




そして新たなる誓約で、更にと彼女を縛るが為にも…と。

依然、どこか放心しているような彼女の鈍重な様子を気遣い構う余裕も無く…

残る儀式を急いて、彼女が唇を…奪う。




『っふ…んっ…。』




思いの外に冷えた小さな彼女が唇へ、

俺様が熱を受け渡すようにと押し当てて、

合わさるそれで温めきったが刻を憶えれば、

名残惜しさ、離れ難さに灼け焦がれる想いを、

ちゅ、と軽く音に表し置き、

「…確かに約束した。違えるなよ、おなまえ。」

僅かに濡れた己が唇を舌で浚いながら、彼女が瞳を真直に捕らえ、
約束が、誓約が満たされてしまった事を、不敵に笑い告げるのだ。






…が。


やはりどうにも…彼女の反応が、返らない。



(…まぁ、これはこれで…

幾久しくと、俺様が腕中に居てくれるならば…

それでも良い、のだが…。)



…ならば。
どこまで情動がままに抱き締めて良いものか、と…想いあぐねるところだったが…

別段、苦しがるような気宇も無いようだしな…


……もう少し、力を込めても…良いだろうか?




より、ぎゅ、っと。

未だ抗拒を覚えない彼女に甘え、
ただ俺様が想いに乗じて、離すまいと強く掻き抱けば、


ボンッ!

という…何やら破裂したがような音が眼下にて響き、
紅々と茹る彼女の顔に、彼女が疾うに限界を越えていた事を知る…。


「…おい、おなまえ?…大丈夫か?」

声掛けたところで、真赤と逆上せた彼女に言葉が解せている訳も無く…。

「…この程度で意識を飛ばしていては…約束等、いつになるか分からんぞ?」

変わらず微動だにせんおなまえを観れば、先が想い遣られていき…
堪え兼ねた溜息が一つ零れてしまったのも、想像に難くは無いだろう…。




…しかし、彼女が限界を遥かと突破していようとも、寸刻も離してやろうという気にはなれず。



やっと手にしたこの倖せが、永く、久遠と続くをまた愚かなまでに願い、
尚も俺様へと預けられる小さな彼女が身体を包んでは、
おなまえが現実へと戻り、暴れ出してしまうまでと許されたこの刻を、
彼女が熱を、湧き止まぬ愛しさを、
ただ一心に、噛締め刻んでしまうのだ。








*****


…はい、毎度の事ながら申し訳ございませんでした(切腹)

なんでしょうかねなんでしょうかね、うちの田中くんは主人公ちゃんへの内心デレのレベルが高過ぎますよね(真顔)
まだ俺様強化前の田中くんなんで、余計にですかね…。。
いやほら…主人公ちゃんがもう、可愛くて仕方がないんですよ…許してあげてください(何でまた田中くんのせいにした)

井澤的には階段辺りの遣り取りと、田中くんの更なるモヤモヤが描かせて頂けまして幸いです…。。
田中くんの内心がワッフー☆し過ぎて元のお話よりもめった長くなってしまいましたが…無念…バタリ。(返事がない、ただの屍のようだ)

重ねて井澤なんぞにご機会を頂きまして本当に有り難うございます。
皆々様いつも有り難うございます。

このお話自体の後書フハハなんかは例の塵頁にまたちょこちょこ置かせて頂けましたらと存じます。。

この度も最後までお時間頂きまして有り難うございました!

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