幻想
飼い飼われ、交うは哀情か愛情か。(スーダン・田中眼蛇夢*裏注意/哀)
※お相手は田中くんです…が、ごめんなさいちょっとアブノーマルかもしれません、です汗。
ダメな方向に井澤がだいぶ本気出してます…。
※同題名作品が2本上がっておりますが、こちらはバッドエンド寄りのEDとなっております。
本当にラストのみですが、異なる終わり方ですので、後味が良い/明るめなお話がお好きな方は、もう1本の愛Ver.の方をお読み頂けましたら恭悦です。。
※題名の意味そのままです、田中くんに飼われよう、っていうお話です。(うわぁ…)
井澤が痛々しい表現等が不得手なので、流血・殺傷等といった描写はございませんかと思いますが…別の意味では痛々しいかもしれませんが…申し訳、ございません…一遍死んできます(真顔)
※裏々しい/生々しい表現はそこまで無い、です…。
ですが雰囲気的には完全にそうなので、注意喚起となっております、苦手な方はお控え頂いた方が宜しいかなと思われます。
※主人公ちゃん設定は皆無です、が…色々、初っ端から飛ばして、ます…。
本当に申し訳ございませんが…それでも大丈夫っ!と思って頂けます方がいらっしゃいましたら、お時間頂けましたら幸いです。
*****
初めて彼を見たその瞬間に。
疼き目覚めるのは、私のなに、か。
その、名が体を示すが如く、射殺されるような、彼の蛇眼に。
心が貫かれ、奪い去られ、壊され、た。
『…ねえ、田中くん。
私の事…飼わない?』
だって、人間だって…所詮、動物でしょう?
――
口元を、歪め、妖艶に。
微笑うみょうじは、
…俺様に、飼われる事を、心に望む。
初めてあやつを視たその刹那、
異様に乾く咽が音を鳴らし、
…ああ、あれを…飼い、たい。
そんな非道が過ぎったそれを、
察し絡め取られたかのように。
数多の魔獣を手懐け、服従させ、
果ては絆までも築き上げてきた。
しかしどこか、その行いが、空虚なものと感じ入る程、
不意に奥底へと残る何か、それが気掛かりだった。
それは、神に背こうとも、決して超えるが叶わん、
種族という、絶望的な障壁。
奴等はどんなにか情合いを通じ捧げようと、
俺様と共に、その生涯を駆け抜ける事は、難い。
彼女が含む、その語意に、
その何か…を確かと知り得れば、
「…良いだろう。」
…返答は、疾うと決まり揺るがない。
更に口元を歪ませる彼女を視れば、
それ以上に歪むが俺様のそれとは、気付かずに。
――
その日から。
彼に飼われるが、私の日常。
それでも、日常に乗じるのが、私の、日常。
『…田中くん、今日の採集、一緒だって。』
あくまでも、クラスメイト、として。
「…フン、貴様では役不足だが…これも因果律が定めならば致し方無いな。
せいぜい俺様に迷惑を被らんよう、心して掛かる事だ。」
そして、あくまで、クラスメイト、として。
私と彼の飼育関係は、公にならない、仄暗いそれ。
彼は、私に、名を呼ぶ事を赦さない。
「…慣れ、とは悪しき災禍を産む序章だ。
親しめば、刻に牙を剥いて掛かってくるからな。」
名で呼ぶ事に慣れてしまえば、
咄嗟にそれが、口を突いて出てしまうから。
露見を恐れるが故の、戒律。
決して甘い関係ではないと、
鞭打ち諭されているようでもあるのに。
それを、悦んで受け入れる私の、盲従さ。
だから彼も、私の名は呼ばない。
呼ぶその時は、求められている、ただその時、だけ。
際立つその時が、より甘く薫るから。私はそれさえも、悦楽と、狂い酔える生粋の、それ。
―それでも。
日常を演じるが為に、意志と自由を赦されている私は、
彼の監視下故に、暴挙する。
『…あ、左右田くん。ゴミ、付いてるよ?』
取ってあげるね、とわざと、彼に触れる。
…遠く、近く、彼の視線が増さるのを、
ひしと肌で、感じながら。
「お、わりーな。ありがとよ、みょうじ!」
『いえいえ。』
と。
そう笑顔で返す私が思うのは、
すでに目の前の彼では無いのだけれども。
――
みょうじは、俺様が、飼って…いる。
意識的なそれは合意の証であるが、
その事実すらも、俺様と彼女、二人が間で留めるのは、
彼女が、俺様のみに、その顔を見せるという優越か、
それともそれを確かめ安堵したいがその為、か…。
…彼女には、自由を与えている。
精確には、課して、いる。
言い換えれば、
それさえも、この日常を衛るが為に必要な、餌であるから、だ。
故に、彼女から焦点を放す事は無い。
…さすれば、どうだ?
全てが俺様の意のまま、とは思えるはずも無かったが…
彼女の隅々、その爪先から髪先一つまで、躾け、仕付けているというのに、
叛逆たるそれを、解りながらに遣り為していく。
他の下等生物に、易と触れ、
笑顔を交わす彼女を視れば、
やはり歪む口元が、激情を促していく。
ああ、実に人間という生物は…愚かしく、面白い。
予期も及ばず、その先も知れず。
彼女の心内までを、全てと掌握出来んその現実。
それが堪らなく…堪らなく、愛しく。
堪らなく、醜悪に燻る想いとの、
僅かな一重を形成する。
…それすらも、彼女の手の内、か?
ふと過ぎれば、どちらが飼われているものか。
先手を指される事はしばしばか、
そう自嘲していく己とは裏腹に、
今宵を清閑と待つ俺様が瞳の中で、
彼女は生贄がそれのように姿を変えるのだ。
――
深く、ゆやと、沈む。
彼の、硬く、重い、ブーツと、その、重み。
力を注がれれば、そこが置き場であるかのように、
しっかりと、私の肩に、彼の靴底が嵌まっていく。
「…何故、自ら、雑種に触れた…?」
許可した憶えは、無いな…?
薄闇で、不遜に、酷薄に。
きっと、答えは、言えない事と、知りながら。
「…何故、雑種如きと、声を交わした…?」
ぐ、とより力が入れば、
きし、と骨と底が逢う。
痛みが趨る限界、その皮一枚を隔てるまで、
彼がそれを、緩める事は無い。
それでも必ずと、傷を付ける行為は避ける。
置かれるそれは、衣越しに。
見えるところへは、飼われる証すら、残されない。
ぽとり、と。
心に滲む彼の優しさを知っているからこそ、
私は甘え、わざと、暴挙を繰り返してしまうのに。
――
…ぐ、と。
ただ冷瞰に、見下げ、靴底を、明媚な彼女の肩へと沈めていく。
底の感じられない彼女の肌は、
まるで受け入れるかのように、撓る。
その感触にすら、
悦び、満ち足りていくのは…征服感か。
それさえも超える…情愛から、なのか。
きし、と骨と会する音に、
僅かながらにその圧を弛緩させる。
口を割らん彼女のそれは、その意識下か、
『…ごめん、なさい…。』
そう努めてしおらしく、謝辞を述べる彼女の瞳が、
酷く、物欲しく。
俺様を喚んでいるように。
映るがそれは、俺様の…幻覚、なのか。
(…ああ…今宵も、躾の必要が、あるな…。)
解し兼ねるその眼差しを、
これからの愚行を、肯定するが為に、
その意味と、執る。
「…その深意は、あくまでも、言えんというのだな…?」
え…、
とほんの一瞬、青となる彼女の表情に。
「…貴様が心も映さん虚言で誤魔化すのか?
…俺様を欺こうとした罪も、重いな…。」
つまり、覚悟は出来ているのだろう…?
躾の刻、だな―。
そう耳元で、低く。
多くと息を吐き掛け、彼女が膜という膜を、震わせるように。
びく、と肩を揺らし、
『…ごめんな、んぁっ…』
尚も頑なに、虚辞を紡ぐ彼女の口唇も。
一度それで塞いでしまえば、
『んぅ…あ…はぁ…んっ…。』
…俺様に赦しを媚びるように。
忠誠なまでに、嬌声を奏でるものだから。
その狡猾さまでもただ愛しく。
ぶつけるそれが、躾の為だ、等。
そんな理性は脆く崩れ、朽ち堕ちていくのだ。
――
この15年、凡そ人との接触を介さなかっただろう、
彼のそれは、獣のそれに近しくて。
誰かと付き合う、という関係を持った事はないけれど…
同年の男子よりも、幾分か、きっと、劇しい。
埋まらないはずの隙間を、埋めてしまうような、それ。
隔たりさえも、ひれ伏させてしまうような、それ。
熱が全てを支配する中で、突出して熱いのは、いつでも彼。
それに浮かされて、その熱を、乞い求めるのは、いつでも私。
飼われるが故の行為なのに、
それが愛情の延長上だと、錯覚させてくれる程に、熱い。
『んっ!…ん、あっ!ぁっ…あんっ!』
揺さぶられる身体がただ、熱い。
「…はッ、もう…限界、か…?」
薄く、薄い、残酷な笑み。
終焉を匂わせる口振りに、私が脅える顔さえも愉しむような。
口端をなぞる滴りもそのままに、かぶりを振れば、烈々と昇るそれ。
『んあっ!…ぁんっ!はぁ、んっぁっ!』
「…なら、ばッ…はぁッ…もっと、愉しませろ…おなまえッ!!」
甘い、飴。
弾け砕け散るまで、私の意識が保たれる事を、ただ願い、
従順に、彼が為、自分が為、
咲いてはただ、獣が如く乱れていく。
――
俺様が手に、俺様が口唇に、俺様が全てに。
『あっぁっんっ!…んぅっ!っはぁっ、たな、か…くっぁんっ!』
従順なまでに、翻弄される彼女が、より愛おしく。
「…はッ…、ッおなまえッ…名で、喚べッ…!」
ただ飼い慣らすそれではないと、
錯覚したいが為に、名を命じれば、
『あっ!んぁっ…ぁん!がんっ、だ…む!っくん…!ふぁっあ、んっ!』
…笑みを携えて、至極、短簡な、までに。
自らで科したそれに、いつから俺様は苦しめられるようになったのか。
ただ彼女を、飼いたかった。
側に、常と、置きたかった。
俺様だけの、ものとしたかった。
それが飼育欲だ等と、己から背いた咎なのか。
始まりより生じていたこの歪みは、
一つとなるこの刻でさえ、無情に歪んでいくのだ。
――
いつだって、彼より先に手放す意識のその先を。
知りたいと想ったのは、いつからだったか。
たった一点の曇りも無く、私は彼に飼われたかった。
飼われて、飼われて、飼われて。
その隣に在りたかった。
誰よりも、近くに、在りたかった。
…だからこそ、怖かった。
飼われるだけの私より、優先する誰かが彼に出来てしまう、その事が。
それが、時に憎悪と一重となる愛情なのだと、
気付くまいとすれば、無上に募るばかり。
「……おなまえッ…くッ…はッ…!
…おなまえッ…!!」
今は熱く私を呼ぶ彼は、意識を離し、傀儡にすらならない私を前にしている時、どんな顔をしているのか。
推慮すれば、忍び寄る不安に耐え兼ね狂ってしまうから。
今だけと赦された、彼の名を、ひたすらに。
『はぁっ!ぁっあっがんだっむ…くっん!んっぁ!あんっ!
…ぁっが、んだ…む、くんっ!!』
無意識に伸ばしてしまった手を、
優しく取られ見詰められれば、
例えまやかしだとしても、
求める愛情を注がれていると、想えるから。
彼にずっと、飼われていたいから、
愛して…いる、から。
今日も、先にその意識に別れを告げる。
――
すやと、隣で睡る、彼女。
その寝顔を見守る事にさえ、こんなにも。
安らぎ、手放したくは無い、と。
どれだけ躾ようとも、どれだけ、飼い慣らそうとも。
唐突と、俺様の手から逃れていく獣も、少なくは無く。
『だって、人間だって…所詮、動物でしょ?』
口元を美しく歪めた彼女の言葉が思い起こされる度、それを懼れてしまうのだ。
…だからこそ、この想いを…
飼われる事を願った彼女に、告げた先すらも、懼れて、しまう。
…ならば、せめて何度でも。
声に為せぬ想いが伝播してしまえば良い。
そう願って、彼女を敷き、躾ける。
彼女が俺様から逃れないように。
彼女の姿を叶う限り、追い、縛る。
それが愛情にすら満たぬ劣情でも。
この飼育関係への哀情を、悟られてしまう位なら…と。
そう笑う俺様を、彼女がこのまま知らずに居れば良い。
依然として、愛らしく睡る彼女へ影を落とし、
俺様の全てを、その想いを、
指先へと集約させ、優しく…柔らに、頬をなぞる。
「…愛している、おなまえ…。」
そう呟き落とせば、
月光下で尚に白く、艶美な彼女へと、
また届かぬ愛しさを積むだけの、醜行と成り。
下がりゆく焦点に。
…軽く、腫れたその口唇へ。
瞳を奪われた…とて。
つい、その、先刻まで。
俺様の名を紡いだその口唇は、
歪む事無く、またと名を喚んでくれよう事も無く。
俺様が想いの吐露にも、決して動じてはくれず。
「…愛している、おなまえ…。」
いっそ、夢中が事と解っていても、
一度、応えてくれたなら。
「…おなまえ…。
愛して、いる…おなまえ…。」
そう縋るかのように。
氾濫し続けては焚かる想いが…止む刻を、知る事さえも叶わずに。
…やがて彼女の頬に溢れ堕ちる二筋が何なのか。
俺様のそれか、彼女と俺様の、それであったのか、
滲み渡る俺様が視界では、よくは視えなかったのだ。
終
*****
…はい、所謂、共依存、です。
なんというか井澤趣味全開で申し訳ございません…(土下座)
想い合っているのに擦れ違う、という点で、そのまま悲恋のようなラストに仕上げさせて頂いたのがこちらです。
…まぁ、田中くんを書こうと思った時から、井澤はこういうお話を構想しておりました訳ですが…(え)
割と、初めの構想としてはこちらが近いかな、と。
近過ぎるが故に気付かない、だからこそ言えない、の典型です。
それでも、あくまでも、あくまでも、一方通行ではなく、想い合っている2人である事だけ、ご理解頂けましたら幸いの次第です。
どこか絶望的なラストですが、井澤自身は絶望へと堕とした意識はございません。
今は想いの交点がどこか見えなくて辛い2人も、いつかその近さに気付ける事と信じ願っております。
長々と大変失礼致しました、このようなお話にも関わらず、最後までお付き合い頂きまして本当に有り難うございました。
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